第二十一話
縛られた男たちは女性職員が連れて来た別の職員によって連行される。リュウたちは部屋に残った。
「彼らは冒険者ギルド追放……反省の色が見られればしばらくの間、労働に従事してもらうことになると思います」
男たちの今後を女性職員が説明する。
「にゃるほどにゃ。それで、反省がみられにゃい場合はどうにゃるのですかにゃ?」
ガトが気になった点を質問すると、女性職員は苦笑する。
「うーん、それを聞いちゃいますか。……あまり面白い話ではないのですが、労働奴隷になると思われます」
男たちが悪いとはいえ、リュウたちが捕縛した結果、彼らを奴隷にまで落とすということを話すのは憚られるという気持ちが女性職員にはあった。
「そういうのもあるのか。……まあ、犯罪を犯せばそういうこともあるか」
リュウは奴隷制度があるということを納得する。彼に嫌悪感は特になく、淡々と事実を受け入れていた。
「――それで、俺たちにまだ用件があるんだろ?」
そしてそれだけじゃないんだろうとリュウは女性職員へ質問をする。
「そちらもわかっておいででしたか。やはりあなたたちはFランク以上の実力を兼ね備えているようです。腕っぷしだけでなく、知力も」
リュウの言葉を聞いた女性職員は待ってましたというように笑顔になっていた。
「……申し遅れました。私はこのギルドのサブマスターを拝命している、ミルザと申します。よろしくお願いします」
だがここまでは予想していなかったリュウたちの表情には驚きが浮かんでいた。
「まさかサブマスターさんとはな……。つまりはギルドで二番目に偉いってことか。で、そのサブマスターのミルザさんは俺たちに一体どんな用事があるんだ?」
ミルザは落ち着いて話すために近くにあった椅子に腰かけ、リュウたちにも座るよう促す。
「はい、では説明させていただきます。別の部屋で改めて彼らに話を聞きましたが、あなたたちは圧倒的な力で彼らを制圧したとのことでした。あなたたちにそれだけの実力があるのであれば、正しいランクの選定が必要です」
ランクと実力に著しい差がみられるのであれば、それを正せばいい。それがミルザの選択だった。
「なるほどな。言いたいことはわかるが、一体どうやってそれを確かめるんだ?」
そんな質問が来るとわかっていたミルザはさっと立ち上がる。
「それではみなさんこちらにいらして下さい」
ミルザの先導でリュウたちは部屋から出て、別の場所へと移動する。
「ギルドには初心者向けの講習や戦闘訓練を行うために、訓練場があります。そこは模擬戦が行えるようにある程度の広さがあるんですよ」
少し歩いた先でたどり着いた扉を開いた先には彼女の説明のとおり、広い訓練場があった。壁には模擬戦用の木製の多種多様な武器が用意されており、中央には広い石の舞台があった。
「こんな場所があるのか。すごいな」
正面から見ただけではわからないほどの広さがあることにリュウは驚いていた。
「これからみなさんにはここで順番に試験官である当方の冒険者と戦って頂きたいと思います。武器はお手持ちの物で結構です。その試験官が認めればこちらで判定し、相応のランクへと昇格という形をとります。認められない場合は、残念ながらランクアップはなしです」
ミルザが説明を終えて舞台に視線を送ると、そこには三つの見知らぬ人影があった。おそらく試験官だろう。それぞれが戦い慣れしている雰囲気を持ち、一定のランク以上の冒険者であることが見て取れた。
「ランク判定の基準というのは依頼達成などいろいろありますが、高ランク冒険者と戦って頂くこれが一番シンプルなものとなっています」
「ふー……断ってもいいんだろうが冒険者として生きていくとなると同じ問題にぶち当たるだろうから、ここで問題を解決しておくか」
「はいにゃ」
「了解です」
諦めたように息をついたリュウの言葉にガトもハルカも肯首する。
「誰からやる? 俺からでもいいが」
「拙者がやるにゃ、どんな形になるのか二人の参考にしてほしいにゃ」
一歩前に出たガトは苦無を手にして飛ぶように舞台へと上がる。
「ん? おいおい、こんなちっこいのが相手か? わしはあのにいちゃんとやらせてもらおうか。お前らのどっちかが相手をしてくれ」
大剣を背中にしょった大柄で筋骨隆々の壮年の男はリュウに目当てを付けたのか、残った二人にそう言うとひらひらと手を振ってさっさと舞台を降りてしまった。
「……仕方ありませんね、それじゃ僕がお相手しましょう」
ため息交じりに前に出て来た一人の青年。片手剣を帯剣している細身の彼の装備は動きやすそうなものだ。最初の筋骨隆々の壮年の男に比べて若く綺麗な顔をしている彼は、女性からも人気のあるBランク冒険者だった。
それを受けてもう一人の男性も無言で舞台を降りる。
「あにゃたが拙者の相手ということですにゃ。よろしくお願いしますにゃ」
ガトが苦無を一度しまって姿勢を正して頭を下げたが、細身の青年はそれを汚いものでも見るような目で睨み付けるとガトから距離をとった。
「セイフルさん、ちゃんと試験官の務めを果たして下さいね」
「もちろんですよ。ミルザさんの頼みとあれば、このセイフル……」
ミルザに話しかけられた途端に振り返ったセイフルは花を舞わせるかのような笑顔を見せる。だがミルザはセイフルの言葉を聞かずに、ため息交じりで足早に舞台中央に移動していた。
「――それでは、準備はよろしいですか?」
ガトとセイフルはミルザの確認に無言で頷く。
「……始め!」
ミルザの開始の合図のあと、二人は互いの出方をうかがい、最初の一歩を踏み出さずにいた。
「……ミルザさん、一つだけ確認がありますにゃ」
「なんでしょうか?」
戦闘中だというのにミルザに声をかけるガトを見て、苛立ちを感じたセイフルは目を細めて睨み付ける。
「試験官さんが実力を認めたら、とおっしゃいましたが――倒してしまってもいいのですかにゃ?」
その言葉がセイフルを動かすきっかけとなった。頭に血が上ったセイフルが武器を手に飛び出してくる。
「――舐めるな獣ふせいが!!」
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