第二十話
「……で、こいつらはどうしたらいいんだ?」
リュウは気絶した男たちを動けないように縛り上げて、壁にもたれかけるように座らせていく。
「うーん、やっぱり警備隊かにゃ?」
腕を組んだガトは前の街でのことを思い出しながら答える。
「えっと、この人たちが冒険者ならギルドに連行するというのも一つだと思います。冒険者同士の揉め事には基本不介入ですが、一方的に問題を起こしたということがばれればギルド追放ということもありますので」
警備隊に連行された場合、留置所に入れられたあと、証拠があいまいな時にはすぐに釈放されることもあるため、ハルカはギルドへの連行を提案する。
それを聞いたリュウとガトはなるほどと頷く。
「確かに、こいつらの言葉が本当だったとしたら俺よりもランクが高いはずだ。となれば、冒険者登録がどうにかなってしまうのが一番の痛手かもしれないな……信じてもらえるかわからないが一応連れていくか。――ほら、お前たち起きろ」
リュウは男たちの顔をてのひらではたきながら声をかける。
しばらくすると、男たちは順番に目を覚ましていく。
「……う、うーん……。ん? ――こ、これは!?」
ぼんやりと意識を取り戻した男たちは、まず自分が縛られていることに気づき、続いて周囲を確認して自分たちがやられてしまったことを理解する。
「起きたな。他の二人も……起きたか。お前たちは俺たちを襲おうとしてつけてきた。そして返り討ちにあった。それはいいか?」
自分たちが訳も分からないうちに倒され、そして気付けば縛られている。こうあっては、強がりの言いようもなかった。
「……あぁ、どうやられたのかはわからないが、俺たちはお前にやられたようだ」
諦めたように肩を落とした真ん中の男が三人を代表して発言する。他の二人も抵抗しても無駄だと諦めている様子だ。
「これからお前たちを冒険者ギルドに連行するつもりだ。で、背負っていってもいいが三人もいるんでな、自分で歩いてくれ」
リュウは有無を言わせない強い視線を男たちにぶつける。
「わ、わかった……」
その強い視線から得体の知れない何かを感じた男たち。リュウに恐れを抱き、縛られながらもなんとか返事をして身体をくねらせながら器用に立ち上がる。
「ギルドに突き出すが、くれぐれも嘘はつかないようにな」
立ち上がった彼らを見てリュウは男たちに笑顔で言うが、目が笑っていないのがわかった男たちは何度も首を縦に振っていた。
「それはよかった。――二人とも、こいつらから了承をとれたからギルドに戻るぞ」
無理やり了承させたのでは……と思いながらも、ガトとハルカは口を噤むことを選択し、頷いて返すだけにした。
リュウたちがギルドに到着すると、縛られた男たちを連れていたため何事かと注目が集まる。
「えっと、あの人はっと……いたいた。すいませーん」
さっきギルドに来た時に世話になった女性職員を見つけたリュウは少し離れた位置から声をかける。
呼ばれた女性職員も自分のことだとわかったため、すぐにかけつけてくれた。
「ど、どうされたのですか……?」
近づいたことで、リュウたちの後ろにいる男たちに気づいた女性職員は驚いた様子で声をかけてくる。
「いや、さっきここで魔石を出して確認してたんだが、それを見たこいつらがギルドから出た俺たちを尾けていて、人がいなくなってきたところで襲いかかってきたんだ」
リュウが男たちをチラリとみると、男たちは肩を落としながら力なく頷いていた。
「あ、あのっ、いくつか質問があるのですが……ここだと人目が多いですね、こちらへいらして下さい」
周囲から集まる好奇の視線に気づいた女性職員によって案内されたのは、込み入った話や特別な素材の買取の話の際に使われる個室だった。複数にいるパーティに話をすることもあるため、ある程度の広さがあり、リュウたちに連行された男たちが入ってもゆとりがあった。
「そちらへおかけ下さい。それで……詳しく話してもらえますか? もう一度、最初から」
先ほどの説明で全てだったが、リュウは女性職員の要望に応えて最初から、先ほどよりも更に細かく説明していく。
一通り説明を終えたところで、女性職員はリュウたちと男たちを見比べる。
「なるほど、経緯は理解できました。ただ、一つ引っかかるところがあるとすれば……やはりお二人が登録したてのFランク冒険者であるということです」
硬い表情でそう言った彼女もまた、ランクで人を判断するのかとリュウとガトは難しい表情をする。
「ランクだけで判断するのか? そう思っているのかもしれませんが、我々は冒険者ギルドであり、ランクは実力を計るための一つの目安になります。もちろん必ずしもそれが正しいとは限りませんが、判断する一つの尺度であると考えているのです」
女性職員はリュウたちの反応から考えを予想して丁寧に言葉を重ねていく。
「……なるほど、あんた個人としてというより、ギルド職員としてはギルドのルールにのっとって判断するということか」
仕事であるならば、その仕事のルールにのっとるということは理解できる。リュウはそう考えていた。
「ですが、もちろんランクが高くなくても強い方はいますし、そもそも登録前に修行をしていた場合はFランクでも力がある方がいることもあります」
そういう例もあるということを理解していると彼女は言う。
「その上で確認します。あなた方がこの冒険者三人を倒したというのは本当ですか?」
真剣な表情の彼女の質問に対してリュウ、ガト、ハルカはもちろん、捕縛された三人も頷いた。
「ふぅ……そうですか。それならばあなたたち三人の処分を考えなければいけませんね。別の担当に引き継ぎましょう。少々お待ち下さい」
ため息をついた彼女はそう言って部屋を出て行く。
「……どう思う?」
「にゃにかありそうだにゃ」
「私もそう思います……」
互いの顔を見合ったリュウたちの意見は一致していた。そして、女性職員が戻って来ることでその考えが当たっていることがわかることとなる。
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