第二話
「頭領、そいつは拙者にお任せ下さいにゃ」
瞬間移動したかのようにひらりと舞い降りたガトは小太刀を手にして、リュウの前にでる。
「あぁ。さっきので俺の忍術が通用することがわかったから、今度はガトの力を見せてもらうことにするか」
リュウの許可が下りると、ガトは笑顔で巨大二頭狼へと向かって行く。
「拙者がお主の相手をするにゃ。頭領は手を出さにゃいから安心するといいにゃ」
二頭狼はリュウの忍術を警戒していたため、それが動かないとわかり安心してガトに狙いを定めた。
「ふむ、頭領に比べて小さい拙者は甘くみられるようだにゃ」
弱者だと決めつけている二頭狼を見て、ふんと鼻を鳴らしたガトの口元はにやりとしていた。
「しかし、甘いにゃ! 分身の術!」
器用にガトが印を結ぶと、その姿が次々に増えていく。
「おー、すごいな」
「見ててくださいにゃ!」
五人に増えたガトに二頭狼は混乱し、急停止する。何が起こっているのか理解できないといった表情だった。
「五重連爪撃にゃ!」
分身したガトはそれぞれが実体を持っており、次々に二頭狼に襲いかかっていく。右手に持った苦無、そして左手に装備した小太刀で攻撃を加えていく。
「アオオオオオン!」
瞬く間に二頭狼はズタズタに切り裂かれ、苦しげに断末魔の声をあげるとそのままピクリとも動かなくなった。しゅたっとガトが着地した瞬間、二頭狼は地に沈んだ。
「すごいな……」
リュウは自分の部下であるガトの戦い振りに驚いていた。
「すごいだにゃんて、頭領のほうがすごいですにゃ! さっきの分身の術だって、頭領ならもっと多く分身できたはずにゃ」
謙遜しているわけではなく、ガトはリュウの力を理解しているようだった。
「まあ、それくらいはな。それよりもガトがこんなに強いとは驚いた、いつの間にそれだけの忍術と体術を?」
「忍術や動きについては、幼少の頃の頭領の動きを見て学んだのにゃ。それを今使えるのは、女神様のおかげですにゃ。忍術を使えるように女神様が加護をくれたのにゃ!」
身振り手振りで説明したのち、ガトは得意げに胸を張る。
「なるほどな、つまるところ俺に付与される予定だったチート能力をガトに付与したってことか。それなら納得だ」
リュウはここまでの流れで女神がどういったことを行なったのか理解していた。
「頭領は理解が早くて助かるですにゃ。……本当に女神様とのやりとりの記憶はほとんどにゃいのですにゃ?」
ガトはあっという間に話を理解したリュウに驚き、うかがうように質問する。
「ふむ、覚えているのは部下が欲しいと言ったことと、異世界に飛ばされたってことくらいだな。どうしてこの世界に来たのか、その他の細かいやりとりなんかは全く覚えてない」
どう記憶をたどっても思い出せないというリュウの言葉にガトは再び驚く。
「やっぱり頭領はすごいですにゃ。落ち着いているし、拙者が仲間ににゃることもすぐに認めてくれたのにゃ。適応力の高さには驚くのにゃ!」
感動したように何度も褒めてくるガトだったが、そう褒められてもリュウには実感がなかった。
「まあ、そんな褒められることでもないと思うが……それより、俺たちは何をすればいいんだ? 異世界にきたけど、目的がないと少し動きづらいだろ」
女神からの指示、指令などを受けていたのかもしれないが、リュウはそれを覚えていない。ガトなら何か聞いているのではないかと考え、その質問をした。
「拙者が言われたのは、頭領の力ににゃることですにゃ。あとは、頭領が一つの勢力ににゃったら面白いみたいにゃことは言ってましたのにゃ。ただそんなに期待はしていにゃいとかにゃんとか……」
ガトもなんとか記憶を引っ張り出そうとするが、女神も全てを話したわけではないらしく、ごにょごにょと言い淀む。どうやらそこまでで情報も頭打ちだった。
「勢力ね……言いなりになるのも癪だが、この世界の戦力を調べていくのは面白いかもしれないな」
リュウは忍びとして育てられ、忍者としての才能が他の追随を許さないほどのものであったが、体一つで戦うだけでなく、戦略的な戦いも好きであった。
「そうですにゃ、色々と歩いて回るのも面白そうですにゃ。その中で国や軍などの情報を集めて行きましょうにゃ!」
「ガトはなんか楽しそうだな」
笑顔で嬉しそうに声を弾ませて話すガトを見て、リュウは思ったことを口にする。
「そういう頭領こそ顔が笑っているにゃ……昔頭領が遊んでいたゲームのような世界。わくわくしないほうが嘘というものですにゃ」
幼少期をともにしたガトだからこそ、リュウが考えていることも全て理解していた。気の通じ合う者がいることがこんなにも心地よいものかとリュウは思っている。
「やっぱりそうだよな。あんな化け物が襲いかかってきて、ガトが喋って、忍術も使えて、それに俺の忍術もなんといいうか、地球で使っていたものよりも使いやすくなっているんだよな」
しみじみとリュウは先ほど使用した土遁の術を思い出しながら自分の手を見ている。
「そのへんはおそらく、忍術がスキルの一種として認識されているからにゃのにゃ」
「……スキル?」
「うーん、にゃんと説明したものかにゃ……ゲームだと魔法が使えたり、それぞれが得意な武器が違ったりしたのにゃ。そういう特技や魔法みたいにゃものが、拙者たちにもあるんですにゃ」
なじみのあるゲームで説明されたため、リュウはなんとなくだが理解できていた。
「なるほど、それで俺たちには忍術のスキルがあるってことか。しかもこの世界に合わせた形で」
自分が使ってきた忍術と異なる。それは不安な部分でもあったが、どんな忍術になっているのかリュウは楽しみでもあった。
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