第十九話
「色々とありがとうございます」
リュウたちは色々と説明をしてくれた女性職員に微笑みながら礼を言うと、足早にギルドをあとにする。
「――あれは少しまずかったみたいだな」
「にゃ、思ってた以上に……」
街中を歩きながらもリュウとガトは通じ合うようにそんなことを話しているが、ハルカはなんのことかわからずにきょとんとしながらついてきている。
「とりあえず、街から出るか。ハルカ、少し早足で移動するぞ」
状況がわからないまま話が進んでいたが、何かあるのだろうと察したハルカはリュウの指示にただ頷き、二人の速度に合わせる。
速度を速めて移動する三人。そして人の往来が少なくなってきたところでリュウはピタリと足を止めた。
「きゃっ」
急停止だったため、後ろを歩いていたハルカはリュウにぶつかりそうになってしまう。
「すまない、後ろにいてくれ」
リュウはハルカに謝ると彼女を自分の後ろにかくまった。
「えっ?」
突然のことにハルカは驚くが、すぐに状況を理解することとなる。
リュウたちを三人の男が尾けてきていたのだ。
「なんか、前の街でも同じことがあったな……」
「いや、あの時は拙者たちが自ら首を突っ込んだのにゃ」
ガトはリュウの発言を訂正する。
「……そうだったか。まあ、なんにせよこの国の冒険者ってのはどうにも素行が良くないな」
リュウが出会った冒険者はそれほど多くなかったが、それでも二つの街で連続して冒険者がおこす揉め事に遭遇したことから、その結論を導き出していた。
「そうだにゃ。もっと拙者たちのように紳士にならなければいけにゃいのにゃ」
腰に手をあてながらガトもリュウの意見に同意しており、男たちを呆れた表情で見ていた。
「おい! 何をごちゃごちゃ言ってるんだ!」
男たちはリュウたちがこの状況にあってものんきに話していることをイラついており、真ん中の男がリュウたちを怒鳴りつける。
「いや、ちょっと話をしているんだから邪魔をしないでくれるか? ……それで、ハルカは状況はわかっているか?」
「えっと、なんとなくですけど……」
だがそれを気にした様子もなく問いかけるリュウに、ハルカは青筋が浮かんでいる男たちをチラチラと見ながら遠慮がちに返事をした。
「おい! ふざけんなよ? 俺たちを誰だと思っていやがる!」
リュウたちにどなりつけた男の顔は無視されたことで真っ赤になっていたが、隣にいる二人はニヤニヤと笑っている。
「――黒き三人組とは、俺たちのことだ!」
ふんぞり返るようにどうどうとのたまう男だったが、リュウとガトとハルカは揃って首を傾げる。
「知ってるか?」
「知らにゃいのにゃ」
「申し訳ありません、私もちょっと……」
その三人の反応に対して、さすがに残りの二人も顔を赤くして怒りのままに武器を取り出す。
「さて、冗談もこの辺にして対応するか」
リュウは想像していたとおりの反応に対して呆れながらも肩を回して数歩進む。
「それじゃ、今回は頭領に任せるのにゃ。ささ、ハルカさん少し下がるのにゃ」
紳士のようにガトはハルカの手を引いてリュウから距離をあける。
「おいおい、お前ひとりでやる気か? あんまり舐められると手加減できねーぞ? なあ?」
「ははっ、そのとおりだ!」
「……ぶっ殺す」
男の言葉に一人は同意し、一人はリュウたちへの怒りからくる危険な発言だった。男たちの目からは殺意がひしひしと伝わってくる。
「で、一応聞いておくがなんで俺たちのことを尾けてきたんだ?」
リュウはわかっていたが、改めて男たちの目的を確認する。
「ほほう、ふざけたお前らでも俺たちの目的が気になるのか。――いいだろう、教えてやる! お前たちがギルドで持っていた魔石、他にもあるんだろ? 全て俺たちに渡せ! それから、他にも持っているもの全部よこせ!」
奪えるものの価値を想像して少し気をよくしたように男は親切にも目的の説明をしてくれる。
「ようするに、身ぐるみ全部おいていけってことか。まあ、予想はついていたよ。お前たちがギルドからずっとついて来たのはわかっていたからな」
ため息交じりのリュウの言葉に男たちだけでなく、ハルカも驚いていた。
「そ、そんな前からですか?」
「そうにゃ、拙者も頭領も気づいていたのにゃ。気配を探る能力は忍者にとって重要なものにゃのにゃ」
当然というように頷いたガトは解説役にまわり、ハルカへと説明をしていく。
「まあ、お前たちが俺たちを狙ったのは大した装備をしてなくて、ランクがFだっていうのも聞いてたんだろ?」
それが図星だというのは男たちの表情からわかる。
「そ、それがどうした! お前たちがFランクなのは本当のことだろうが!」
男の一人のその返答を聞いてリュウはがっかりする。
「……前のやつらもそうだったが、ここのやつらはなんで相手の力量をはかれないやつばかりなんだ? 仮にも冒険者で命をかけた日常に身をおいているんだろ?」
頭をおさえながら少しうつむいたリュウは冒険者のレベルの低さにいらついていた。これでは自分が実力を試す価値もないと思い始めていたのだ。
「……あまり、俺たちを舐めるなよ?」
舐められていると感じた男がそう口にした瞬間、リュウの姿は目の前から消えた。この場にいる者の中で、リュウの動きを目で追うことができたのはガトのみだった。
「ぐへっ」
「うがっ」
「ぐぎゃあ」
次の瞬間には三人は声をあげて倒れていた。ガト以外の目には、誰に何をされたのかもわからぬままに。
「――へっ? な、なんで……?」
離れたところで見ていたハルカは何が起こったのか理解できずに目をパチパチさせていた。
「頭領の動きはあいつらには把握できにゃかったのにゃ。そして、一瞬で後ろに回り込まれた男たちの首元に手刀を撃ち込んだのにゃ」
シンプルな答えだったが、それだけにリュウの力をハルカに見せつけるには十分な効果を持っていた。
「ふ、ふわあ、す、すごいです! お二人ならすぐにランクを上げられますし、きっと女神様の言うあ……」
リュウの見事な手腕に興奮するハルカだったが、そこまで言ったところでガトはすっと肉球をハルカの口元に持っていった。キョトンとしたハルカがガトを見つめる。
「それ以上は、言わぬが花にゃのにゃ」
不敵に微笑んだガトはそう言って綺麗なウインクをした。
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