第十八話
三人は冒険者ギルドの中へと入って行く。
ギルド内は冒険者たちの会話で喧騒に満たされており、三人が入って来たことを気に留める者はほとんどいなかった。
「とりあえず依頼書を見てみるか」
ぐるりと周囲を見たあとのリュウの提案に二人は頷く。この街の周辺の依頼の中でリュウたちが解決できるものを探す必要があった。
「……正直よくわからんな。どれがいいのやら」
掲示板の前で首を傾げるリュウを見て、ハルカが確認をしてくる。
「あの、お二人の冒険者ランクはどれくらいなのでしょうか?」
そう聞かれてリュウは再度、そしてガトも首を傾げる。ランクというものが良く分からなかったようだ。
「えっと、冒険者ギルドカードの右下に記されているのですが……」
ハルカに言われて二人は自分のカードを改めて確認する。
「――これは、Fか?」
「の、ようだにゃ」
それを聞いたハルカは驚く。リュウたちの近くで同じように依頼書を確認していた冒険者も同様に驚いているようだった。
「何かまずいのか?」
リュウの質問にハルカは少し答えずらそうに、しかし話せばならないと決意を秘めた表情で口を開く。
「あの、Fランクとなると、その一番下のランクでして……ほとんどの依頼を受けられないのが現実です」
二人の実力を考えると、なぜFランクなのかとハルカは疑問に思いながらも説明をする。
「あぁ、そう言えば前の街で登録したものの、ちょっと色々あって一度も依頼を受けずじまいだったからな」
「だにゃあ、まさかあんにゃことににゃるとは……」
二人はどこか遠い目で明後日の方向を見ていた。
「そうだったんですか……それなら合点がいきますが、まずはランクを上げないと良い依頼が受けられませんね」
なんとなく二人の表情から事情を察したハルカは気を取り直して、Fランクでも受けられる依頼を探し始める。
「基本的に一つ上のランクの依頼までしか受けられないので、お二人が受けられるのはEランクまでの依頼となります。依頼は難易度や報酬に応じて上がっていくので、あまり報酬の良いものはなさそうですね……」
ハルカは話ながらも掲示板を確認していたが、やはり報酬の高い依頼はなかった。
「どれでもいいからいくつか受けて、少しずつランクをあげるしかないか。……そういえば、魔物を倒した時に何か集めてなかったか?」
思い出したようなリュウの質問はガトに向けたものだった。
「あぁ、そういえば……これにゃ。魔物の核だにゃ。これを集めておくといいと聞いたから倒した魔物の核は極力集めていたのにゃ」
一つ取り出した魔物の核はバックの中にもっとたくさんあった。ここまでにある程度の数の魔物を倒してきたため、ある程度の数になっている。
「ほえー、すごいですね。これならお金のことはあんまり気にしなくても大丈夫ですね。報酬は気にせず依頼を優先してもいいと思います」
魔物の核は換金することができ、大きさに合わせて金額が高くなる。リュウたちが持っているものは傷も入っておらず、良質のものだった。
「とりあえず、この薬草集めってやつを受けてみるか」
色々な街の基本的な依頼として多い薬草集め。
戦闘に特化しているリュウたちではこんな依頼は受けたがらないだろうと考えて、ハルカはあえて選ばずにいたが、リュウとガトは意外と乗り気だった。
「どっちが多く集められるか勝負だな」
「はいにゃ!」
好奇心に満ちた表情でガトと頷きあったリュウは依頼の番号を確認して受付へと向かう。
「あ、リュウさん。その依頼は受付の必要ありません。常設依頼は直接納品すれば受領されますので」
「そうなのか……でも、それだと薬草を買って納品しても依頼達成になるんじゃないのか?」
リュウは抜け道を指摘した。
「それは、その、えっと……なんだったかな……」
ハルカはそれについて聞いたことがあったが、すぐに思い出せずにいた。本来ならあまりやらないことだったので記憶の片隅に追いやってしまっていたことだったようだ。
「――損してしまうから、通常はやらないんですよ」
それはギルドの女性職員だった。
リュウたちの会話が聞こえていたらしく、見かねて話に加わって来た。
「にゃるほど、つまり報酬でもらえる金額よりも薬草のほうが高いということですにゃ」
腕を組んで何度も頷くガトは話を聞いただけで理由を推測していた。
「そ、そのとおりです。すごいですね、すぐわかっちゃうなんて」
受付嬢は続きを説明するつもりだったため、先にガトに言われてしまったことに驚いていた。
「お姉さんが言ってくれたヒントがあったからですにゃ」
にっこりと笑うようにガトはあくまで女性職員のおかげだと話す。
「謎が解けてよかったよ。まあ、インチキをしてランクを上げたら上のランクで苦労するだけだろうから。俺たちは地道にコツコツやろう」
リュウは自分の話が発端だったため、なんとかうまくまとめようとする。
「はい、それが良いかと思います」
女性職員はリュウの考えに一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに笑顔で頷いた。一攫千金を目指して冒険者登録する者も少なくないため、リュウの堅実な考えを聞いてうれしくなり、自然とほほ笑んでいた。
「この周辺で薬草が採れるのはどのあたりでしょうか?」
ハルカはここぞとばかりに女性職員に質問をする。周辺の環境に明るくないため、こうやって知っている者に自ら聞く姿勢にリュウとガトは好感を持つ。
ともすれば、自分が思い出せない話を割り込みで持っていかれたことに怒る者もいるだろうが、ハルカはそんなことよりも依頼の達成を望んていた。
「えっと、少々お待ち下さい。周辺の地図を用意しますね、みなさんカウンターのほうへ来て下さい」
案内するように促した女性職員についていくと、彼女は奥から地図を持ってきて、それを見ながらリュウたちへと説明をしていく。薬草の場所だけでなく、今後リュウたちが受ける依頼で訪れる可能性がある場所の説明もしてくれていた。
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