第十七話
「聞いてきたのにゃ!」
しゅたっとリュウたちの前に立ったガトは満足いくまで情報を集められたようだ。その様子を遠くで見ていたリュウとハルカは驚いていた。
「ガト、お前すごいな。相手がペラペラとあれだけの情報を出してくれるとはな」
「ガトさんすごいです!」
リュウとハルカの二人に褒められたガトは頭を掻いて照れていた。
「そ、そうかにゃ? そんなでもにゃいのにゃ、ちょっと相手のことを褒めにゃがら相手が話したいことを聞きつつ、話の腰を折らにゃいように質問をしていくのにゃ」
どうやって話を聞きだしたのか話すガトはどこか誇らしげな様子だった。
「さて、それでどんな情報を聞いてきたのか聞かせてくれ。細かい話までは聞き取れなかったからな」
まだ話したそうなガトだったが、聞いてきた話に移るため、リュウは話を切り替えた。
「そうだにゃ、この街の名前はフレイスニル。国ではにゃくてあの城のような建物に住んでいる伯爵が統治している領地のようにゃ。良い政治をおこにゃっているらしく不満を言うものはすくにゃいようだにゃ」
貴族というと圧制を敷く者もいるが、この街の繁栄ぶりからもわかるようにどうやら良い統治者のようだった。
「なるほどな、それは色々と俺たちにも都合がよさそうだ。それだけ政治がうまくいっていれば、外部の人間に対しても風当たりは強くないだろうからな」
納得いったように頷くリュウの言葉にハルカは首を傾げる。
「そういうものなのですか? 私が住んでいた場所の近くの街は、外の人間に対して強い拒否感を持っているようでしたが……」
ハルカのいた場所は閉鎖的な考えの者が多かったらしく、よそ者は揉め事を持ち込むと考えていた。
「まあ、そういう考えのところもあるだろうが、こういう栄えている街っていうのは内需――つまり街の中だけの貿易で潤っていることは少ないんだ。よそとの取引もあって、外からも金が入って来ることで儲かっていく。労働力としても中の人間だけだと頭打ちだろうしな」
彼女の意見を否定することなくわかりやすい言葉で解説していくリュウの話を聞いて、ハルカは驚いていた。
「ふわあ、そういうこともあるんですね。私はあまり……といいますか、全然よその国や街のことを知らないので勉強になります……。もし変なことを言っても怒らないで教えて下さいね」
ハルカは思っていた以上にリュウとガトは色々なことを知っているため、自分の無知が恥ずかしくなっていた。だが学ぶ意欲はあるようで、その気持ちはリュウたちの心証をよくしていた。
「気にするなって、それよりも色々と見て行こう」
ここで言葉で何かを言うのは簡単だったが、実際に彼女の力が必要になった時に素直に彼女を頼ることにしようと考えていた。そのリュウの考えをガトもわかっているようで何も言わずにいた。
城門での軽い検査を終え、街の中に入ってみるとまず人の多さに驚く。馬車がすれ違っても問題ないくらいの広さのある道幅だったが、ひしめくようにたくさんの人でにぎわっている。
「すごい人の数だなあ」
リュウは素直にその驚きを口にした。これだけの人が往来を行き交っているのに、入場は混雑しておらず、すぐに入ることができたことに驚いている。
「色々な種族がいるのにゃ。拙者がいても好奇の目を向けられないことを考えると、この街では差別などはすくにゃいと思うのにゃ」
前の街ではわざわざ口にはしなかったが、ガトを見る目線の中に差別的なものがあった。しかし、ここの街では特にそういうものがなかった。
「私のことを見ても不快に思う人はいないみたいですね」
ハーフエルフであるハルカは通常のエルフよりも小さい耳、だが通常の人間よりも尖っている耳をしている。
髪で隠れてはいるが、時折ちらつくそれを見ても不快な視線を送って来る者はいなかった。
「それこそ、そういう問題が起こらないようにしっかりと統治されているんだな。もしかしたら教育もしっかりと行き届いているのかもしれないな」
差別というものは子どもの頃からの思想であったりするものだが、この街では領主の施策で教育に力をいれているようだった。リュウはそのあたりにもこの街に好感を抱く。
「――とまあ、難しいことは置いておいてとりあえずこの街を見てまわるか。宿も探さないとだし、金も稼がないとな」
これから目的に向けて動くにしても、まずは足場を固めるのが大事だとリュウは考えていた。
「それでは、まずは冒険者ギルドに向かおうかにゃ。丘から見た限りでは、街の中央近辺にあったと思うにゃ」
ガトは街を遠目で見た時に忍術で自分の視力を強めて、どこに重要な施設があるのかを把握していた。
「す、すごいですね。あの距離でそんなところまで見えたんですか?」
「そうにゃ、目に気を集めることで視力を高めて遠くまで見るのにゃ。といっても、拙者ではあの距離が限界なのにゃ」
ハルカの質問に答えたガトはそう言うと、チラリと視線をリュウに向ける。
「いや、俺には無理だ。見えないこともないが、恐らく獣人のガトのほうがそういった強化は得意だと思う」
きっとリュウの方ができるのだろうと期待されていたのだろうが、実際リュウも丘から街を見た際に視力を高めていたがガトほど詳細に見ることはできなかった。
「またまたー……って本当にゃ?」
ガトの意外そうな質問にリュウは頷いて返す。
「あぁ、さすがの俺もそこまで身体能力の強化に力を振れないみたいだ。まあ、そういう部分はガトに活躍してもらえばいいんだがな」
信頼できる仲間がいるのだから、リュウは自分が劣っている部分は仲間に補ってもらえばいいと考えていた。
「そういうことにゃら任せるのにゃ!」
自分にできることがあるとわかったガトは嬉しさいっぱいの笑顔で意気揚々と先行していた。
「あ、あのガトさん!」
「……ん? ハルカさん、どうかしたのにゃ?」
焦ったようなハルカに声をかけらたガトは足を止めて振り向いた。そこにはハルカだけでなく苦笑しているリュウの姿もあった。
「あー、言いづらいんだが……」
「ここが冒険者ギルドです……」
ガトは喜びのあまり、思わずギルドを通り過ぎてしまっていた。尻尾をピンと立てて驚いたガトは顔を赤くしていそいそと二人のもとへ戻って行った。
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