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第十六話


 森を抜けて彼らがたどり着いたのは、街並みが見下ろせる小高い丘の上だった。

 その街並みはすごい、美しい、綺麗、そんな言葉で表現されるほどのものであった。

「この間の街よりもかなりデカイな」

 圧倒的な光景を前に目を細めながら、リュウは騒動を起こして逃げるようにあとにした街のことを思い出していた。


「ですにゃ、大きな噴水に女神像……奥にあるのは城にゃのかにゃ?」

 中世の雰囲気を持ちつつ、この世界の文明が組み込まれた建築様式で建てられている城。街の中央にある彫刻の美しい大きな噴水。更には海側にある大きな女神像。

 その全てが丘の上から一望できた。


「こんな綺麗な街があるんですね……初めて見ました」

 ため息をつきながら街並みに見惚れるハルカ。彼女にとっての世界は最初にいた街、そして一人で住んでいた森だけだったため、新しく見ることができる街や景色の全てが新鮮だった。


「とりあえず、あそこを拠点にしよう……そうだ、ハルカは身分証を持っているか?」

 リュウたちが前の街に入る時にも必要だった身分証。リュウは着の身着のまま出て来たハルカが持っているのかを確認する。


「はい、大丈夫です。一応冒険者ギルドに登録していたので」

 一人暮らしを続ける上で、ただ森の物を食べて自給自足というわけにもいかず、いくばくかの金銭を稼ぐためにハルカは魔法使いとして冒険者登録をしていた。


「だったら、入場は大丈夫だな。あとはこの街を拠点にするにあたって必要となるのが……金だ」

 身分証があることを確認できたリュウは、二人を先導して街へと歩き始める。

「世知辛いのにゃ……」

 指で丸を作りお金を表すリュウを見て、ガトはため息まじりに首を振っていた。


「ガト様! それでもやっぱりお金は大事ですよ!」

 金がないことで嫌な思いをしたことがあるのか、ハルカは拳を握って力強い口調で迫る。

「そ、そうですにゃ」

 ガトは気圧されのけ反りながらなんとか返事をした。


「なあ」

 そこへリュウが話に加わる。

「はい、なんでしょうか?」

 ふわりとほほ笑んで聞き返したのはハルカ。


「会った時から言っていたが、リュウ様、ガト様っていうのは止めないか?」

 少し困ったような表情のリュウに指摘を受けたハルカは目を丸くしてキョトンとした表情になる。

「そうにゃのにゃ! 拙者は様づけされるようにゃ猫ではにゃいのにゃ!」

 ずっと気にしていたようで、ガトもリュウの意見に賛同する。


「で、でも……」

 困ったようにしょんぼりとしながらハルカはどこかリュウたちに遠慮、もしくは二人を特別な存在だと思っている節があった。

「あのな、俺もガトも別にたまたまこちらの世界に来ただけなんだぞ? 別に特別な存在じゃないし、女神の依頼を果たすかどうかもわからないんだ。だから選ばれた勇者みたいな存在じゃない」

 別に責めているわけではないと言葉に込めつつ、リュウは真剣な表情で説明をする。


「――だから、気楽にいこう。そうじゃないと一緒にずっと旅をするなんてできない。ハルカは部下でも手下でも、ただの魔法要因でもなく、俺たちの仲間なんだからな」

 リュウは少し熱くなりすぎたか? と思いつつもここで妥協しては駄目だと考える。今まで虐げられて生活してきたあせいか、ハルカはどこか自分を下に見ていたが、せっかく仲間になったのだからリュウは彼女と対等でいたかったのだ。


「う、そ、そんな……私、つまはじき者だったし……」

 すっかり自虐モードに入ったハルカにリュウとガトは困ったように目を合わせると肩を竦める。

「そんな昔のことは関係ない。魔法の時にも言ったが、本当に昔のことはどうでもいいんだ。俺たちがどう思うのかが大事なんだからな」

「そうにゃ、だからハルカさんも気楽にして欲しいのにゃ!」

 リュウとガトの二人に言われて、ハルカは目じりに浮かんだ涙を拭いながらも笑顔になっていた。


「はい! えっと、それじゃ……リュウさんにガトさん。えへへっ」

 ハルカは二人の名前を呼んではにかむように照れていた。


「――くっ、なかなかの破壊力だ。だが、イイな。俺もハルカと呼ばせてもらおう。……既に呼んでるけどな」

 ようやく笑ってくれたハルカにほっとしながらリュウは少しおどけつつ彼女に返事を返す。彼なりの気遣いだろう。


「いい感じですにゃ。拙者も続けてハルカさんと呼ばせてもらいますにゃ」

 ガトも照れるハルカを微笑ましく思っていた。






 そんな話をしていると、徐々に街が近づいてくる。

「おぉ、近づいてみると改めて街のでかさがわかるな」

 街は丁寧に研磨された石で作られた壁に囲まれている。堅牢なイメージを漂わせている街は、実際に魔物などに襲われても中への侵入を許したことはなく、強固な守りを誇っていた。


「すごいのにゃ、しかしお城があるということは国にゃのかにゃ?」

 丘から見えた城――それがあったため、ただの街ではなく城下町なのかとガトは考えていた。


「領主の方が住んでいるのがお城のような建物ということもあるらしいので、わかりませんが……入り口で街の名前と統治されているのが誰なのか聞いてみましょう」

 ハルカは自分の持つ知識が少しでも二人の助けになるようにと提案する。


「なるほどな。それはいい考えだ」

 リュウの中で入り口の衛兵は街に入るための関所だと考えていたため、街の質問をするという考えが抜けていた。確かに、街の入り口を担当している衛兵であれば詳しいはずだった。


「それじゃ、拙者が聞いてみるにゃ」

 街の入り口に辿りつこうというところで、ガトは走って衛兵の元へと先行する。





「失礼するにゃ、我々は旅の者にゃのですがこの街はどういう街にゃんでしょうか? ふむふむ……」

 ちょうど人も少ないタイミングだったこともあって衛兵たちはガトの質問に快く答えてくれる。終始ガトは低姿勢で話を引き出していき、機嫌をよくした衛兵たちから街のお勧めスポットなども聞きだしていた。


お読み頂きありがとうございます。


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