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第十四話


 この世界の住人であるというティアの言葉にリュウとガトはポカンとしている。女神からの派遣ということで変な期待をしてしまったようだった。

「えっと、その、何か期待を裏切ってしまったようですいません……」

 申し訳なさそうにハルカは深々と頭を下げる。


「い、いやこちらこそすまない。俺たちは誰か女神側から人を出すってさっき聞いたばかりで、どういった人物がやってくるのかまで聞いていなかったんだ。そして、女神が姿を消す寸前に色々と意味深なことを言っていたもんだから……」

 女性に悲しい顔をさせることに罪悪感を覚えたリュウがしどろもどろになりながら、なんとか説明をした。仕事ならば忍びとしての冷静さがあるリュウだが、それ以外だとしまらないこともあるようだ。


「そうだったのですか。……それではもう少し詳しく私のことをお話しますね。私はエルフの国に住んでいたエルフ族です。といっても、街から離れた森で一人暮らしをしていたのですが……」

 そこからポツポツとハルカは身の上話をしていく。


 彼女が街から離れた場所で暮らしていた理由。

 一つは彼女の魔力が強かった――いや強すぎたこと。一つは彼女がエルフと人族のハーフであること。一つは彼女が優秀すぎたこと。

 これらの理由が重なって、街を追放されることとなってしまった。


「そして、一人で暮らしていたある日、森で火事が起こってしまったのです。原因は私のことをからかおうとしたエルフの子どもが森で出会った動物に驚いて、持っていたたいまつを投げ捨ててしまったことらしいのです……」

 その時のことを思い出してハルカは複雑な表情になっている。少し俯いた動きに合わせて揺れた髪の間から少し尖った耳が見えた。


「木々に囲まれた森では火の勢いは強かったのですが、魔法を使えば切り抜けられたと思います。でも、私は諦めようとしていたのです……この世界で生きていくことを……」

 それまでに彼女には色々なことがあり、そのことで酷く心を痛め、ついには人生を諦めるに至った――リュウとガトは簡単に想像できてしまった。彼女の辛く悲しい気持ちが伝わってきて二人は顔をしかめた。


「――その時です、私のもとに女神様が現れました。あの方は捨てようとした命を世界のために使って欲しいと願われました。そして、話を聞いてこんな私でも役に立てるのであればと申し出を受け入れたのです」

 その後は、リュウたちがこの世界に来るまで別の場所で生きて来た。そして今回の女神とリュウたちの接触をきっかけにここに召喚されたとのことだった。


「なるほどな……ハルカ、一つ言っておく」

「はい」

 神妙な面持ちのリュウに対してハルカも真剣な表情になる。


「俺たちは確かに女神の依頼を受けて、この世界にいる邪神の手下らしきやつらと戦うことになった。……だが、それでも本当に戦うのか、戦うに値する相手なのかは俺たちが決めることだ。そして、旅を楽しむという目的もある」

 後半はリュウが今決めたことだったが、考えていることは同じなのかガトも頷いていた。


「わかっています。私も女神様に命を救われ、戦うことを願われましたがそれでも私の意思、思いを尊重してほしいと言われていますし、そのつもりです」

 そっと胸に手をあてながら頷いた彼女は様々な経験をしてきており、女神が相手だといってもそれを妄信することは危険であると分かっているようだった。


「それなら大丈夫だな。――改めてよろしく頼む」

 意思確認ができた証としてリュウが手を差し出すと、ハルカはおずおずと握り返してきた。

「拙者もよろしくですにゃ」

 続いてガトも手をだし、ハルカと握手をする。ふにふにの肉球の感触に彼女は頬を緩めた。


 こうして新たな仲間を加え、三人での旅がスタートする。








「それで、俺たちはどこに行けばいいんだ?」

 だが根本の問題は解決していなかった。


「えっと、ごめんなさい。私も遠くから転移されたので、ここがどこなのかわからなくて……」

 加わったばかりのハルカはすぐには役にたつことはできなかった。力不足を感じて悲しげな表情をしている。


「とりあえず、この水辺は安全にゃので休憩をするにゃ。休憩を終えたら、街道を探してどこかの街に向かうことにしようにゃ」

 人族のリュウ、ハーフエルフのハルカ、そして猫人族のガト。三人の中で一番しっかりしているのはガトであった。


「だな」

「ですね」

 リュウとハルカはその提案を指示し、いつしか再び戻って来た動物たちと共に水辺で休憩することにした。





 ハルカはリュウとガトのことをある程度女神から聞いており、もちろん別の世界から来たことも聞いていた。

「お二人が住んでいた場所はどんなところだったのですか?」

 それはハルカが二人と会うことになったら一番に聞きたいことだった。


「俺たちが住んでいたところか……日本っていう場所なんだけど、その中でもわりと田舎のほうだった」

 ガトがまだ一緒にいて、リュウが仕事をしていない頃。二人は、田舎の神社で暮らしていた。


 なんのことはない、リュウが小さい頃の話をいくつかするだけだったが、ハルカはその全てが新鮮でコロコロと表情を変えながら聞いていた。


 彼女は森で一人でいたため、世の中に対する見聞が少ない。それ故に他の国の話を聞くだけでも楽しいが、それが別の世界の話となると好奇心を刺激して次々に質問をしていた。

「すごいです! それでリュウ様はおじい様の元で修業をしていたんですね!」

 色々と聞きなれない言葉も多かったが、それでもハルカはリュウの話をがんばって理解しようとし、大きく外れない範囲で理解していた。時折ガトが解説を入れたのも功を奏していた。


 一通り話し終えると、今度は反対にリュウとガトはハルカがこれまでどう生きてきたのかを聞くことにする。彼女の森での生活の話はリュウとガトの興味を引いた。

 話は遅くまで続き、そのまま池の周辺で野宿することとなった。


お読み頂きありがとうございます。


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