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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第8章 奇妙な依頼
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第95話 奇妙な依頼と帰路

「い、いいのか?」


 俺がそう尋ねると、ラウラは、


「ええ……そもそも、《タラスクの沼》に定期的に行って来れる冒険者を探すのは中々に難しいですからね。それが出来るレントさんにやる気を出してもらえるなら、あれくらいのものは差し上げても構いませんよ」


 そう言ってくれた。

 あれくらい、と言うが、実際は売りに出せばどれだけ金貨が積み上げられるか分からないような品である。

 それをこんな風にぽん、とくれるとは……。

 なんて太っ腹なのだろう。

 俺は心からラウラに感謝の気持ちを感じる。

 今この瞬間、この少女に忠誠を誓ってもいいくらいだ。

 実際にはそんなもの当然不要だろうが。


「さがせば、それなりにいそうなきもするけどな」


 俺は自分の心のうちを口にしないで、当たり障りのない返答をする。

 ラウラはそれが分かっているのかどうか。

 彼女は、見た目は幼いが、その瞳に宿る理性は一端の大人どころか、大店の主や海千山千の貴族に匹敵している。

 どれだけの経験をすればこんな風になれるのか、その人生を俺は想像することしかできないが、そんなラウラが、俺の浅はかな考えを読めないとは思えなかった。

 ただ、それだけに、彼女は大人である。

 俺がうじうじ飛空艇を欲しがっているのも理解して、すんなりこんな提案をしてくれたのだから。

 今の俺の飛空艇模型をもらえて万歳、という喜びも、大人として流してくれたようである。


 ……別に俺が子供っぽいわけじゃないぞ。

 冒険者たるもの、欲しいものはどんな手を使っても手に入れるのだ。

 それがたとえ、子供に極端に気を遣わせるような方法でもな!


 ……自分が情けなくなってきた。

 でも、やっぱり要らないなんて絶対に言わない。

 飛空艇模型は俺のものだ。誰にもあげないんだ。


 まぁ、冗談はさておき……。

 どこまでが?

 という突っ込みはなしだ。

 そう、冗談はさておき、俺はラウラと話を続ける。

 彼女は、俺の言葉に、少し悩みつつも答える。


「実力的には銀級の方に頼めば問題はないのでしょうけれど、やっぱりあそこに行くと色々と問題がありますからね。身に付けていったものはダメになりますし、毒の危険もありますし、遅効性のものですと、いつ体に不調が出るかも分かりません。タラスクにしても、基本的には聖水で避けられますが、それでも運悪く縄張り争いに負けた個体と出くわす可能性はないわけではないのです。そういう諸々を考えますと……金級は欲しいところですが、そこまでの実力になると大概王都に行ってしまいますし、マルトに残っている金級の冒険者の方にはもっと受けるべき依頼があります」


 この場合の受けるべき依頼、とは、彼らしか倒せないようなクラスの魔物が出現した場合のことを言っているのだろう。

 それを放置して、自分の依頼を受けてほしい、とは言いにくいということだ。

 その点、俺なら銅級であるし、他の懸念もすべて解決できる。

 かなり得難い存在で、だからこそ色々と便宜を図ってくれるつもりがある、というわけだ。

 納得した。


 とはいえ、そう言えば気になっていたことがある。


「……はなしは、わかった。いらいもうけるのはやぶさかではない。が、《りゅうけつか》をせっしゅしているということだったが……もしかして、ラウラは、《じゃきちくせきしょう》なのか?」


 そう尋ねると、ラウラは驚いた顔で、


「その病名を知っているということは、レントさんが《タラスクの沼》で《竜血花》を採取していた理由は……」


 そう尋ねてきた。

 しかし、一応守秘義務もある。

 依頼を受けた、というくらいならまだしも、詳細まで言ってしまう訳にもいかない。

 と言っても、言わなくてもすでにほとんど察しがついていそうだし、このマルトにおいてラトゥール家は相当な力を持っているらしいのだ。

 調べようと思えばすぐに調べられてしまうのだろう。

 ただ、それでも俺からは言わない。


「そこまでは、な」


 そう言うと、ラウラも理解したようで、


「申し訳ありません。差し出がましかったですね。しかし、私の事情もご理解いただけたでしょう? 《邪気蓄積症》は、初期数年なら《竜血花》から生成される魔法薬で完治が可能ですが、末期になると、一生付き合っていくしかない病へと変化するのです。それでも死につながるわけではありませんが、生きていくためには新鮮な《竜血花》の摂取がどうしても必要になります。ですから……」


 彼女の言葉に俺は頷く。

 これ以上は、俺の方が差し出がましい、ということになるだろう。

 《邪気蓄積症》が詳しくどういう病気なのかは知らなかったが、そういうことなら……。

 それを考えると孤児院のリリアンは運がいい方だったのだろうな。

 一度《竜血花》をとってくるだけならともかく、何度も依頼をするのは流石に厳しいだろう。

 もしそうなっていたら、俺がやったかもしれないが……。

 まぁ、事情も大体理解できたし、依頼のことも報酬に至るまで細かいことも分かった。

 依頼を受けることに問題はなさそうだし、報酬も素晴らしく魅力的である。

 俺はラウラに言う。


「いらいは、いらいひょうにきさいされたじょうけんと、さきほどついかされたじょうけんでうける。これからよろしくたのむよ、いらいぬしどの」


 それから手を差し出すと、ラウラは俺の手を握って微笑み、


「そう言っていただけるととても助かります。どうぞよろしくお願いします。レントさん。それと、私のことはラウラ、で構いませんよ」


 そう言った。

 俺としては依頼を受けた時点で客として扱うと言う意思表示のつもりだったが、余計だったらしい。


「わかった、らうら。これでいいか?」


 そう言うと、笑みを深くして、彼女は頷いてくれたのだった。


 ◆◇◆◇◆


「……しかし、ほんとうにいいのか?」


 俺がラトゥール家の門まで向かいながら、そう尋ねると、一緒に歩いているイザークが頷いて言う。


「ええ、構いませんよ。いずれ差し上げるものですし、今差し上げても同じだろう、とはラウラ様のお言葉ですので」


 俺とイザークの視線の先には、空を飛んでいる飛空艇模型がある。

 俺の魔力では十分程度しか飛べないので、ラウラにサービスで魔石から一時間程度持つくらいの量の魔力を注入してもらっている。

 本来ならその魔石ですら報酬にしても十分なほどだったが、ラトゥール家にとっては大したものではなかったようだ。

 ちなみに今、ラウラは屋敷の中にいる。

 イザークだけ、門まで見送ってくれる、ということでついてきたのだ。

 俺も子供ではないから……心の中にいる少年はともかくとして……見送りなど不要だ、と言いたいところなのだが、ラトゥール家はその庭が広大な迷路になっている。

 もう一度それを自分で攻略して門まで、などということになったらそれこそ朝までかかるのは目に見えていた。

 

 しかし、イザークがいれば……。

 どうなるかというと、庭園迷路を構成している生垣の壁が、イザークが近づくとまるで避けるように開いて、通路が形作られるのである。


「……どんなしくみなんだ?」


 と尋ねると、手のひらを開いて、丸い石を見せてくる。

 それは、俺がもらった飛空艇模型の操縦器コントローラーに似た素材で、イザークは、


「これを握って念じると、好きな形に庭園を作り変えられるのです。まぁ、大規模なことは無理ですけど」


「それをするときはどうするんだ?」


「ラウラ様にしか出来ません。やり方は……内緒とだけ」


 まぁ、そこまで話す必要もないだろう。

 知ったら悪用する者もいるかもしれないしな。

 聞いても俺は別に誰かに話すつもりはないが、そもそも誰にも話さなければ広まりはしないのだからイザークの判断は正しい。


「さて、辿り着きましたね」


 話しているうち、入り口に辿り着く。

 俺は飛空艇模型を地面に下ろし、それから機体の横に触れた。

 すると、大きさが縮まり、手のひらに乗るくらいになる。

 ラウラに色々聞いた機能のうちの一つである。

 他にも色々あるのだが、使う機会があるかどうかは謎だ。

 ただ、この縮小化は、流石に街を先ほどまでのサイズのまま持ち歩くわけにも飛ばすわけにもいかないので、非常によい機能だと言える。


「……もんばんは、もういないんだな」


「ええ、彼は朝から夕方までの勤務ですので。夜は門を閉めますし、迷路もより複雑にしておきますから。誰も入っては来られません」


 イザークはそう言った。

 ただでさえ難解な迷路である。

 さらに難しくなったら、それこそ夜に入ったら朝まで迷い続けることになるだろう。

 恐ろしい話だ。


「……つぎ、ここにきたときは、どうすればいいんだ?」


 また攻略するのは御免である。

 景品ももらえないのだから当然だ。

 イザークはそれについて、言ってなかったか、と思い出したような表情で言った。


「門番の彼がいる時間帯であれば、彼が屋敷に連絡をつけられますので、大丈夫です。そのときは私がお迎えにあがりますので」


 それなら俺としても安心である。

 そう思ったところで、俺はイザークに手を振り、屋敷を後にする。

 次来るときは、《竜血花》を納品するときだ。

 またあの《タラスクの沼》に行くのは気が滅入るが、イザークにもらった聖水が俺にはある。

 次はさほど苦労はしないだろう。


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