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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第7章 銅級冒険者レント

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第71話 銅級冒険者レントとタラスクの沼の住人達

 《タラスクの沼》の何が危険かと言えば、もちろんその主である魔物タラスクが一番に挙げられるだろうが、他にも危険はある。

 まず、この沼沢地帯の沼や湖の多くは、常に毒性を帯びていて、そこから噴き出す瘴毒もあって、歩き回ることそれ自体がすでに危険なのだ。

 それでもここを攻略したい場合には、まず毒に侵された空気を吸わないで済む手段が必要になってくる。

 たとえば、毒への耐性を得られる魔道具とか、常に周囲を浄化し続けられる聖気使いなどだ。

 その上で、湿った土から毒の侵入を防ぐ装備やら準備も必要になるだろう。

 さらに、毒素の豊富な環境は、ここに住む魔物たちの生態をも変えてしまっている。

 スライムは毒を帯びたポイズンスライムに、ゴブリンは毒を有効活用した武具を手に持っていて、沼を泳ぐシースネークもまたいずれも強力な毒をその身に蓄えて襲い掛かってくる。

 これだけで分かる。

 この《タラスクの沼》の攻略が、相当に面倒くさいものだということが。

 それに加えてタラスクと言う魔物が闊歩しているというのだから、もう誰も来たくないと思っても当然だろう。

 確かに有用な素材はたくさんあるし、需要も高いのだが、命の方がずっと大事だ。

 俺だって、まぁ、来ないで済むなら来たくない。


 が、他の冒険者程の忌避感はないと言ってもいいだろう。

 というのは、今の俺の状態からすると、この《タラスクの沼》はそれほど障害の大きな狩場ではないからだ。

 人の身だった時は絶対に足を踏み入れたくはなかったが、今の俺は不死者(アンデッド)だ。

 毒につかろうが瘴毒が漂ってようが、何の問題も生じない。

 しっかりとどのような毒であろうとも通用しないことは調べてあるし、そうである以上、この《タラスクの沼》の障害の八割は取り払われたようなものだ。

 魔物たちの持つ毒もどれも一切効かないため、普通の魔物と何も変わらない、ということになる。

 それに加えて、仮に効くとしても、俺には聖気がある。

 毒の浄化能力があるわけだ。

 これによって周囲を正常に保てる以上、やはり毒は問題にならない。

 肩に乗っかっているエーデルがどの程度、毒に対しての耐性を持っているか、あるいは持っていないかは未知数だが、俺の眷族になった以上、俺の特性をある程度受け継いでいるだろう。

 仮にそうでないとしても、聖気でその都度浄化が可能なので、やはり問題ない。

 もともと地下室に住んでいただけあって、汚れた空間にも特に抵抗はないだろう。

 もちろん、家に連れてくる際には浄化したので綺麗だけどな。

 ここで毒で汚れても馬車に乗る前に聖気で浄化すれば問題ない。


 そこまで考えて、俺は《タラスクの沼》へと足を踏み入れた。


 ◆◇◆◇◆

 

 《タラスク》の沼の地面は、ゆるゆるとした湿地帯が大半で、歩くのに相当難儀する場所だ。

 しかも、目では確認できないが、たまに落とし穴のようになっている場所もあり、そうそう素早く走り抜けると言うわけにもいかない。

 それに――。


「……っ!?」


 横合いから、矢が飛んできたので俺は剣を握ってそれを落とす。


「……ヂュッ!」


 肩に乗ったエーデルがその矢の来た方向を示すように顔を向ける。

 飛んで来た方向を見ると、そこには弓を握ったゴブリンがいて、こちらを見ていた。

 しかし近づいてくる様子もないのでどうしたのかと思っていると、今度は別の方向からまた、矢が飛んできた。

 それもまた、俺は剣で叩き落とし、矢の飛んで来た方向を見るが、やはりそこにもまた、ゴブリンがいた。

 これは――と思って周囲を確認してみると、まずいことに気づく。

 いつの間にやらゴブリンの集団が俺を囲んでいるのだ。

 十体ほどだろうか。

 どこから現れたのか……と思ってしばらく周囲をけん制しながら観察していると、ごぼごぼと音を立てて地面からゴブリンが生えてきた。


 なるほど、この湿地帯の各地に存在する穴のような場所に体を潜めて待っていたわけか。

 空気はどうしたのか……気になって生えてきたゴブリンを見れば、その口には細長い棒状のものが咥えられている。

 あれを僅かに地上に出して空気を吸っていたのだろう、と分かった。

 湿地帯だけあって、そこかしこに草が生えており、その間に多少なにかがあったとしてもすぐには気づけない。

 歩くのに難儀して集中力も若干散漫になっていたらしい自分にいらつきつつも、ここでやられてやるわけにもいかないため、俺は彼らを倒すべく動く。


 腹の立つことに、まるで近づいてこず、弓を撃って来ることしかしない彼らである。

 まぁ、戦術としては正しいだろう。

 俺程度の実力の者相手にここまで警戒する必要があるのか、という気もするが、ゴブリンくらいなら近くにいてももう、簡単に屠れるような実力はついている。

 やはり、正しいなと思いつつ、俺は足に気を込め、歩きにくい湿地に足が沈まない内に、力を込めて走り出した。

 当然ながら、平地を歩くより遥かに機動力が落ちるが、それでもゴブリンたちの鈍い動きよりはかなりマシである。

 彼らは俺が近づいてくるのをあわあわと慌てて見て、それから急いで逃げ始めた。

 向かってくる度胸はないのか、と思うが、ゴブリンというのはああいうものだ。

 ある意味、昔の俺に最も近い性格をしている魔物である。

 つまり、勝てそうもない、と思ったらさっさと逃げるわけだ。

 それは間違いなく正しい戦い方である。

 死んだら終わりだからな。


 しかし、俺は彼らを逃がすつもりなどない。

 ゴブリンも、必ずしも全てが悪と言うわけではない。

 中には人に対して協力的、平和的なものがいて、そういうものは亜人として扱われて普通に生きている。

 しかし、ここのゴブリンは、あんな方法で人を狙っているのだ。

 人にとって良い存在ではないだろう。

 彼らも生きているのであって、人の勝手でどうこうするのは深く考えてみるとどうなのだろうなという気もしなくもないが、俺だって死にたくないし、ここで見逃した結果、誰かが被害に遭うのは避けたい。

 彼らが人と敵対する道を選んだ以上、殺し合いは避けることは出来ないのだった。


 そうして、ゴブリンの前に辿り着くと、俺は剣を振るう。

 強さとしては、《水月の迷宮》に出てくるゴブリンよりは若干身体能力は高そう、と言う感じだろうか。

 この湿地帯の水の中に毒を気にせず身を隠せる辺り、そう言った耐性も通常のものよりも高いだろう。

 しかし、それだけである。

 地形を利用した、弓による遠距離の戦法に慣れてしまったためか、近接戦闘能力の方はほとんど磨いてこなかったらしい。

 俺の剣の一撃の前に、一匹、また一匹と屠られていき、そしてほどなくしてその場にいた十匹ほどのゴブリンはその全てが絶命したのだった。

 

 俺は周囲に魔物がいないことを確認してから、絶命したゴブリンたちから魔石を回収する。

 大した質のものではないが、これでも金になるのは間違いない。

 ゴブリン自体の皮などについては何か用途があるわけではないので、ナイフで切り裂き心臓の横から魔石を奪ったら野ざらしである。

 別にいいのだ。

 放置しておいても、ここに住む魔物や生き物たちがそのうち綺麗に平らげてくれるだろうから。

 

 それにしても、エーデルはまるで働かなかったな……。

 最初に矢の来た方向を教えてくれたくらいである。

 こいつ、俺の眷属としての意識はあるのだろうか?

 次はちゃんと働けよ、と意思を伝えると、その必要があったらね、と返答された。

 ……こいつ、自分の方が主だと思ってるんじゃないだろうな?

 そんな疑問が浮かばないでもなかった。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
エーデルとのやり取りがほほえましい
[良い点] エーデルの知能は人間並みだな [気になる点] 肩に載るくらいのサイズで、ゴブリンと戦えるのか? とは言え、主人公には攻撃して来てたから、 小さいながらもそれなりに強いのか
[一言] 眷属と言っても主の優しさにつけこむ自由はあるのですね 人間を眷属にした場合は元々の人格次第かな。 レントが強い意志で強制しないかどうかかな
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