表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第2章 屍食鬼
7/667

第7話 屍食鬼の実力

「……やぁっ!!」


 そんな声を上げながら気勢を示しつつ、骨人スケルトンに飛び掛かってるのは、一人の若い少女だった。

 身に着けているもの――安物の皮鎧、安物の片手剣などからして、おそらくは鉄級になりたての駆け出し冒険者なのだろう。

 都市マルトにいる冒険者のうち多くの顔と名前を知っている俺をして、見覚えのない顔ということは、つまりそういうことに他ならない。

 鉄級冒険者なんて俺からすればそのうち抜かれていくだろう忌々しいライバル冒険者に過ぎないのに、なぜ顔を覚えているかと言えば、俺の才能のなさを知って馬鹿にする奴や、何かしらの濡れ衣を被せようとする奴が後を絶たないからだ。

 そういうとき、しっかり顔と名前、それに立ち位置やら交友関係やらを覚えておくと後々、色々と生きてくるのである。

 冒険者として、腕っぷしの方ではあまり才能のなかった俺だが、そういう記憶力とか作戦の立案とかの方向ではむしろ才能がある方だったらしく、鉄級程度の奴が組み立てる陰謀など簡単に叩き潰すことが出来た。

 マルトにおいて俺よりも上位の冒険者というのは、そういう、俺の狡猾な部分を知っているため、おかしな手出しをしたりはしないし、まともな奴ばかりだ。

 結果として俺はマルトの冒険者の質の向上にそれなりに寄与していたので、十年という長い期間低位冒険者をやってもやめろともお荷物だとも冒険者組合ギルドからは言われずに済んだ。

 持つべきは計画性である、というわけだ。


 それで、戦っている少女冒険者のことだ。

 見るからに駆け出し、という装備通り、その実力もかなりしょぼい。

 正直に言えば、生前の俺よりも弱いのではないか、と思われるほどだ。

 まぁ、いくら俺が銅級下位冒険者だったとはいえ、鉄級と比べれば実力者である。

 骨人スケルトンを簡単に、とは言わないまでも危なげなく倒せる実力というのは伊達ではないのだ。

 一般人なら骨人スケルトンに遭遇したら死を覚悟しなければならないし、鉄級なら二、三人がかりでないと余裕を持ったり倒したりは出来ないのである。

 ソロで頑張ってた俺が、まぁまぁの実力者だということが分かるだろう。


 そして、そんな俺の目から見て、目の前の少女冒険者は弱いのである。

 つまり、頑張って骨人スケルトンと戦ってはいるが、このままだと一歩間違えれば負けてしまう。

 そんな程度でしかないのだ。


 まぁ、しかし、駆け出しとは言っても、腐っても冒険者なのである。

 いざとなれば逃げの一手で退却をするという方法もあるだろう。

 だから、俺はそこまで心配していなかった。


 けれど。


 ――おいおい。


 しばらく見ていると、少女の立ち回りのまずさが分かってくる。

 彼女はいざというときのことをまるで考えずに、ただひたすら前に出て押しまくる、という戦法をとっていた。

 しかし、それには地力が足りず、徐々に少女の方が押されつつある。

 そして、この狭い通路しかない迷宮の中では致命的だ。

 少女は押されに押され、そして、


「……っ!?」


 どんっ、と背中が壁にぶつかったことに気づいた。

 

 そりゃあ、こんなところで周りも見ずに戦っていたらどんな風にやってもいずれああなるだろう。

 そして、彼女のような剣士ならばある程度、剣を振るうために体を動かせる余裕が必要である。

 それを失ってしまった以上、彼女の先行きはこの時点で決まってしまったようなものだ。

 

 事実、彼女が戦っていた骨人スケルトンが嬉しそうに彼女に向かって手を掲げる。

 武器は何も持っていないから、単純に腕力で敵を攻撃しようとしているのだろう。 

 しかし、骨人スケルトンも腐っても魔物である。

 その腕力は、大した防御力を持たない駆け出し冒険者ならば一撃で昏倒、当たり所が悪ければ死に直結するような一撃を放つことが出来るほどのものだ。

 つまり、あれが命中すれば、少女は死んでしまうだろう。


 ここまで考えて、俺は、仕方ないかな、と思った。

 もちろん、このまま少女が死んでも仕方ないか、ということではない。

 手を出さないで、黙って見ていた俺が、リスクを冒して彼女の前に姿を現すほかないな、と言う意味である。


 俺とて、ここに来るまでは結構興奮していたが、実際に生きている人間を見て、頭は冷えてきていたのだ。

 このまま目の前に俺が現れても、やっぱり魔物としてしか捉えられないだろうし、会話などきっとできないだろうと判断できるくらいには。

 けれど、だからと言って人間を見殺しにする、というのは俺には出来る気がしなかった。

 いくら体が魔物になってしまっているのだとしても、俺の心はやっぱり人間のものだ。

 よほど嫌いな奴でない限りは、命の危機に陥っている人は助けなければと思ってしまう。

 それは、俺の後輩ともいえる駆け出し冒険者なら尚のことだ。


 そう、だから。


「……うがぁぁぁっぁ!!!!」


 俺は骨人スケルトンの注意を少女から引き離そうと、大声を上げながら姿を現す。

 これが意味があるのかどうかは一種の賭けではあった。

 なにせ、俺は見るからに屍食鬼グールなのだ。

 魔物にとって、魔物の大声がどれだけの注意に値するものなのかは微妙なところである。

 ただ、今まで俺が骨人スケルトンの体で魔物と戦ってきたときは、敵の魔物は皆、俺を見つけると攻撃すべく向かって来た。

 魔物同士であってもそういう対象なのか、それとも俺が異質なのかはともかくとして、この試みが成功する確率は高いと思ってやってみた。


 そして、俺は賭けに勝ったようだ。

 少女冒険者に今にも攻撃を加えようとしていた骨人スケルトンだったが、俺の方を振り向いて向かってきたのだ。


 その行動に、少女冒険者は驚いて目を見開く。

 骨人スケルトンが後ろを見せているのだから、そのまま切りかかれよ、と思うのだが、あまりの驚きで体の動きが止まってしまっていた。

 仕方なく、俺は自分の剣を振り上げ、骨人スケルトンに向かっていく。

 さっさと決着をつけてしまいたかったので、温存気味の気の力を使って攻撃力を上昇させた。

 まぁ、屍食鬼グールになって、自分の体の中にある気の量は結構増えている感覚もあるから、一度や二度使ったくらいでは切れないと分かっていたというのもある。

 

 振り上げた剣を、今まで何度となく修行で繰り返して身に付いた動きに沿って振り下ろすと、骨人スケルトンの体には一直線に切れ目が入り、そして一瞬のあと、バラバラと、それぞれのパーツが二つになって別れたのだった。


「……すごい……」


 少女冒険者が茫然としたようにそう言って、骨人スケルトンの末路を見届ける。

 それはそうだろう。

 骨人スケルトンがいくら総合的には弱い魔物の分類に入るとはいえ、完全に真っ二つにしてしまえるほどの剣士など、そうそういないのだ。

 誰だって見たら驚く。

 

 そう。

 俺だって。


 なにこれ凄い。

 えっ。

 俺ってこんなに強くなってたの?


 骨人スケルトンを切った直後、自分がやったことだというのにそんな気持ちになってしまった。

 力がついたとは思ってはいたが、ここまでとは。

 この調子なら、吸血鬼ヴァンパイアになれる日も近いのではないだろうか?

 希望が見えてきた気がした。


 そして、ふっと思い出す。

 そうだった、今はそんなことより、少女冒険者の方だった。


 大丈夫だったか……。


 と、言おうとして喉に色々な突っ掛りを覚え、そう言えば俺は今は屍食鬼グールだったっけ、と改めて思い出す。

 下手に近づくと、飛び掛かられてしまうだろう。

 それはいけない。

 

 どうしたら……。

 と思って少女の方を見てみると、少女は案の定、剣を構えて、こちらを見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ