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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第16章 港湾都市
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閑話 若き日3

お久しぶりで申し訳ない……。

「……ほう、中々興味深い話だな」


 俺から全てを聞き終えたロレーヌは、深く息を吐いてそう言った。

 しかし、あまり信じている様子はない。

 ロレーヌなら絶対に信じてくれると思ったのだが……いや、俺がそう思うのは未来のロレーヌとの関係性の故で、この時代のロレーヌにそれを求めるのはそれこそ図々しいというものかもしれないな。

 俺が不死者になったこと、俺が俺であることを、未来のロレーヌは信じてくれたが、それこそ十年の付き合いがロレーヌにそれを受け入れさせたに過ぎない。

 今のロレーヌとは、そんな信頼関係などない。

 この時代の俺が言ったら信じる可能性はあるが、そもそも俺はそうじゃないからな。

 

「やっぱり信用し難いか?」


 俺が尋ねると、ロレーヌは、少し眉根を寄せて答える。


「うーむ。なんというかな……嘘を、ついているようには見えんのだ。そもそもお前は私に対してそんなことをする必要がなさそうだしな」


「初対面なのに随分と信用しているな?」


「そういうわけじゃない。そもそもあの場で話しかけたのも、怪しいと思ってのことだったからな」


「おっと、なるほどそうだったか……」


 考えてみれば、俺がこの時代にきた瞬間にロレーヌがわざわざ話しかけてきて、家にまで招いてきたのもおかしな話だ。

 彼女は別に警戒心がないタイプではない。

 むしろ、常にあらゆるものを疑う……学者にとって必要な思考を常に展開する人なのだから。

 そんな彼女が俺にここまで親身にしているのには、何かしらの理由があると考えて然るべき。

 そう考えるべきだったな。

 けれどそれがなんなのかについては想像がつかないが。

 考え込む俺に、ロレーヌは言う。


「ま、ここまで話して悪いやつではなさそう、というのが正直な感想だがな」


「いいのか? そんな印象で。本当は悪人かもしれないぞ?」


 しかしロレーヌは呆れた様子で、


「本物の悪人がそんなことを言うと思うか? いや、言わんな……そもそも、我が家に招いた時点で、そういう人物なら私を襲ったことだろう。しかしお前がここまでしたことはどうだ? ろくに料理も作れない生活力皆無の少女に、手ずからよく研鑽された料理を振る舞ってくれたではないか。美味い飯を無償で提供してくれる者に悪人はおらん」


 そう言った。


「いくらなんでも料理を信用しすぎだろう……」


「私の経験上、その考えが正しくなかったことはないぞ。ま、いざという時にはなんとかできる自信があってのことだが」


 ロレーヌはそう言って、懐から杖を出す。

 自分は魔術師で、戦う力が十分にあるのだ、と示しているわけだ。

 この年で一端の魔術師として大成できている者がどれくらいいるか。

 それなりに戦える者はいるだろうが、剣士とこの距離で無力化できるとまで断言できる者は極めて少数だ。

 ロレーヌはその数少ない中の一人だろう。

 

「腕に自信があるようだが、それを凌駕する相手だったらどうするんだ?」


「……その時はスッパリ諦めて、自分の判断ミスを呪うだけだとも。冒険者とは、そんなものだろう?」


「立派な心がけだ……いい冒険者みたいだな、その年齢にして」


「いいや。友人の受け売りさ……で、話を戻すか。お前の……スミスのことだ」


 よっぽどレントの、と言いたいのだろうが、この時代のレントと被るから素直に受け入れてそう言ったロレーヌ。

 信じてはいないにしても、議論する対象としては面白く感じたのかもしれない。


「あぁ、どう思う? 俺はどうにかして元の時代に戻りたいんだが……空間の歪みに触れられないんだ。バチっと何か結界があるみたいな感じになってしまう」


「そう言われてもな……普通ありえない現象だ。そもそも過去に戻るとか、どれほどのエネルギーが必要だと思う? 未来に行ったと言うのならわからないでもないが……」


「未来に行けるのか!?」


「行けるとも。例えば十年後なら、十年待てばな」


「……それは当たり前だろう」


「そう、当たり前だからやりようによっては色々なやり方、可能性がある。ただし、過去に戻る、と言うのはとてもではないが当たり前ではない。現実的に不可能だ。どのような魔術を使おうとも……」


「実際に来てしまってるのにか?」


「……冗談や頭がおかしくなってるなら、いい治癒師にかかれ、というところなんだが、声色を聞くに本心なのだからなんとも言い難いところだ。まぁ、この際だ。常識は捨てるか」


「お、ロレーヌらしくなってきたな」


「……ん? 私らしく?」


「あぁ、いや。ここまで話してて、あんまり常識がどうこうとか眠たいこと言うタイプじゃないなって思ったからさ」


「なるほど、それは正しい評価だ。そんな私からすると、お前が戻る方法は、やはりその空間の歪みとやらをどうにかすること、それに尽きるだろう」


「まぁ……当然だよなぁ」


 言いながら、当たり前の話をされても、という困惑の視線を向けると、ロレーヌは言う。


「呆れたような顔をするな。こう言うのは誰でもわかる話から始めるのが意外と大事だぞ」


「そうなのか?」


「真理は基本的事実から見つかることも多いからな。そして、私の言ってる話は当たり前のように聞こえるだろうが、しかしその可能性を探るのが一番なんとかなりそう、と言うのも感覚的に分かるだろう?」


「まぁそれは確かに」


 あそこから来たのだからあそこから帰れるはず。

 うん、直感的に正しそうだ。


「だが今お前は触れられない、と。だったら、少し時間を置く、と言うのがとりあえず出来そうな方法、その一、だな」

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです。文章も描写もストーリーも凝っていてなろうでもあまりない秀作だと思います。 続き楽しみにしてます。
[一言] 続きをお願いいたします
[良い点] 更新待ってたー!!
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