閑話 ロレーヌの従魔師修行4
今日は11月24日。
良い不死の日だそうですよ。
ぜひ望まぬ不死をよろしくお願いします。
書籍とかコミカライズとか。
明日発売なので!
「……このスライムはどの程度指示を聞くようになるのですか? 何かこの後に必要なことは? 従魔でなくなる場合などはあるのでしょうか?」
などなど、私は矢継ぎ早に質問を繰り出してしまう。
何せ、滅多に見ることが出来ない従魔師が実際に魔物を従えた瞬間を見た直後である。
それに加えて、インゴの技術は今、確かに存在の分かっている従魔師のそれとは一線を画するものなのだ。
根本から違う、と言ってもいいほどに。
そんな技術を持つ相手に、こうして直接質問出来る機会など、望んだところで持てるものではない。
聞ける時に聞いておきたい、そう思うのは学者として当然の話だった。
何かを調べるとき、現地の人間などに話を聞こうとする場合、まずは信頼関係から作らなければならないことが普通だ。
でなければ会話すらしてくれない場合すらある。
昔の私はそれを理解しておらず、ただ書物に書いてある文字や報告書の内容だけを見て色々判断していたが、実際にその場に行き、人の話をよく聞かなければわからないことの方が遥かに多い。
それを教えてくれたのはレントであるわけだが、この考えからすれば、今の状況、インゴが比較的好意的、というか、しっかりと私に教えようと思ってくれている状況はこれ以上ないほどに有難いのだった。
インゴはそんな私に苦笑しつつ、
「常に冷静かと思っていたが、意外に子供のようなところもあるのだな?」
と言う。
どこかレントを思わせるような話し方に、この人がレントを育てたのだなという実感が強く湧いた。
「レントにもよく言われます……申し訳ないです。どうも、初めて見ることばかりで興奮してしまって」
そう言い訳のように言うと、インゴは首を横に降って、
「いや、構わんよ。むしろ弟子が好奇心の塊で有難いとすら思う。その方が飲み込みが早いだろうからな。さて、質問については一つずつ答えていこうか。まずは……」
「このスライムがどの程度指示を聞くか、を」
「あぁ、そうだったな。まぁ、私とこのスライムは絆で繋がっている。《絆》とはそう呼んでいるだけで、正確に言うなら恒常的な魔力的繋がりの事だ。契約魔術を使ったことがあると思うが、あれに縛られている状態に近似することはロレーヌなら分かったのではないかな?」
「ええ、先ほど地面に出現した魔法陣を見ましたが、契約魔術のそれに非常に似ていると。しかし、現代に知られているいずれのものとも違うとも同時に思いました」
言うなれば、通常の契約魔術では確実に描かなければならない図形や紋章がないとか、あの構成では魔力を流したところで霧散してしまうはずなのに動いている、とか、そういうことだ。
これについてインゴは、
「それはその通りだな。私も現代の契約魔術と比較して色々調べてみたことはあるが、根本的な構成の思想が違うというところまではたどり着いたよ。つまり……」
そう言って、どのような違いがあるのかを詳しく語った。
これについては、自惚れではないが、他のどんな魔術師が聞いたとしても理解できなかっただろうと思う。
しかし私はこれでそこそこの学識があると帝国で認められた者であるし、魔物についてはずっと研究を続けている。
魔法陣についても《魔眼》という便利なものがあるために解析を幾度となくしてきた。
その全てが、インゴの話の理解を助けてくれた。
ただ、それでも……。
「概ねのところは理解できたように思います。ですが、いくつか理解できないところも……」
そう言って、分からないところ、不自然なところなどをいくつか上げてみると、インゴも頷いて、
「その辺りは仕方がないだろう。聞いてわかったと思うが、一応の仮説に過ぎないのだからな。全て解析し切れたわけでもなく、ただ、実際に使えるから使っている、という部分も少なくないのだ。正直に言えば、かなり危険な技術になるのだが……どうだ、学ぶのをやめるか?」
そう言ってくる。
理解はできないが動く。
だから使う。
これは一見すれば相当に恐ろしい話だ。
いつどんな予想外の動きをするのかわかったものではないのだから。
しかしこれについては、私のような冒険者が恐れるというのも笑える話だ。
なぜと言って、詳しい原理がわからないのに使っている、という状況に最も近いのが冒険者であるからだ。
つまりは、迷宮産の魔導具なんかがまさにそれである。
あれらは全てを完全に解析など出来ないことなどザラだ。
出来る場合もないわけではないが、稀である。
だから大抵は、なぜ動いているのか、どうしてそんな効果が出るのか、はっきり分からずに使われている。
いつ街ごと破壊してもおかしくないような、そんな品々、と言うのが本質だ。
実際、そういう逸話も歴史の中にはいくつもあるのだから。
しかし、非常に便利な品々であるし、使わなければ立ち行かないのが現実だ。
人間は非常に弱く、魔物たちの脅威に対抗するためにはどうしても使わざるを得ない。
そういうものだからだ。
人類皆滅びるか、たまに起こる事故を含んだ上で使い続けるか、の二択を迫られたら、それは使わざるを得ないなというそれだけの話なのだ。
まぁ、そう言う考えで言うなら、別に従魔師の技術は使わずとも人類がどうこう、なんてことはない以上、使わないという選択肢はありそうである。
けれど、私はこの技術に感じてしまっているのだ。
魔物たち……翻ってはレントについて、理解を深めるために学んでおいて決して損な知識ではない、と。
それを知ることと、滅びと、どちらを選ぶのかと聞かれれば、私はきっと前者を選んでしまう。
そういう人間だ。
だからこそ学者などやっているのだろう。
私はインゴに言う。
「まさか。やめたりなどしませんよ。むしろ、そういった未知をこそ打ち払うことに楽しみを覚える人種ですから。それに、レントのためにも知っておいた方が良さそうですし」
「ふむ、後者の方が重要そうだが」
「否定はしません。ですから、よろしくお願いします」
「あぁ、構わんとも。では、続きだ……」
明日、「望まぬ不死の冒険者8」
が発売されます!
以下、なろうの書報になります。
https://syosetu.com/syuppan/view/bookid/4434/
八巻も出せるなんて書き始めた当初は考えてもみませんでしたが、
読んでくれる方、ご購入してくれる方のお陰でここまで来られております。
可能な限りこれからも書籍を出していきたいので、
もし出来れば、書店などで購入してくださるとありがたいです。
本来11月25日発売なのですが、すでに並んでいるところもあるようです。
どうぞよろしくお願いします。
また、コミカライズ六巻の方も同時発売ですので、
両方手に取っていただけるとさらにありがたく思います。
特典などについては、前回の後書きや活動報告の方に記載してありますのでよろしくお願いします。