閑話 ロレーヌの従魔師修行
とりあえずのリハビリにロレーヌ側を描いていこうと思います。
何話か続く予定ですが、よろしくお願いします。
毎日更新にはまだ少し遠いですが、とりあえず三日四日に一話書いていくところから頑張ります。
「……さて、とりあえず従魔師の基本からだが、準備はいいか? ロレーヌ」
レントの故郷、ハトハラーの村の近くにある森の中で、インゴがそう言った。
近い、と言ってもかなり深いところまで潜っていて、普通の人間では間違いなくたどり着けない場所であるが、私、ロレーヌやインゴにとっては特に問題はない。
私には魔術師としての技能があるし、インゴにはその身を守る従魔がついているからだ。
レントの義父であるインゴが従魔師として従えている従魔といえば、やはりリンドブルムがすぐに思い浮かぶところだが、今、彼が連れているのは巨大なスライムだった。
いわゆる、大スライムと呼ばれる種であり、大体、大人と同じ程度の身長がある。
そして、当然のことながら、こんなものを従魔としている従魔師など、私は聞いたことがなかった。
スライムであれば中型……概ね成人の腰くらいまでのサイズのものが限界だと言われているのだから。
しかしそんな常識などどこかに置いてきたかのように、確かにそこに大スライムがいて、インゴの命令に従っている。
極めて不思議な光景だった。
そんなインゴが手ずから私に従魔師の技術を教えてくれると言うのだから、これは千金に値する経験であるのは間違いない。
私はインゴに頷いて言う。
「はい、大丈夫です。ただ……まず基本から、と言うのであれば家で教わってもよかったのではないかと思うのですが」
とりあえず基本的知識を座学で、と言うのは魔術師の修行でもよくあるパターンで、その段階においては特段の危険はないために、普通の建物の普通の部屋で行われるのが普通だ。
従魔師の技術についても、インゴが身につけているものが特殊なそれだとはいえ、まずは座学からではないかと思ったが故の疑問だった。
しかしインゴは言う。
「ロレーヌは従魔師に必要な知識はほとんど頭に入っているだろう? 魔物の種類や特性、それに弱点などと言ったことだが……」
「おっしゃるようなことであれば、そもそも冒険者として身につけるべき基本的な知識ですので、頭には入っていますが……」
「む、そうか? 先日、うちの村に来た銅級冒険者はそういう知識もかなり欠けている様子だったが」
「……どの程度の腕の冒険者だったかはわかりませんが、銅級くらいであればそう言うことも確かに珍しくはありませんね。狩場にしてる迷宮の中に出現する魔物だけ覚えておけばそれでいい、という感覚の者も少なくないですから」
銅級試験では知識や調査力なども試されるため、全く分かっていない、と言うほどの者は流石にいないが、必要な知識だけ身につけてその先までは進まなくていい、と言うくらいの心得の者はいる。
というかそれが大半というか……。
知識を得るよりも、単純な腕っ節を鍛える方向に進む者が多いからだ。
それでも銅級試験はなんとか通ることができる。
ただ、銀級試験まで行くとそれもかなり厳しくはなる。
絶対に無理、というわけではないから、知識が不足している冒険者というのはやはりゼロにはならないが。
そういう観点で言うと、レントはかなり特殊だ。
知識や技術については銀級に匹敵しているのだから。
まぁ、私と一緒にいることが多いから、余計に普通ならつかない知識もついていると言うのはあるが。
私の家で、専門書を読んでいることもザラだからな。
「……全く、嘆かわしいと言うかなんというか。まぁ、必要なことだけ覚えておけばそれでいい、と言うのも一つの考えではあるが、ずっとそれだけではいつか冒険者としても詰まってしまうような気がするが」
インゴがそう言ったので、私も頷く。
「ええ。実際、ある日突然死んでしまう冒険者というのは、そういうアバウトな感覚で生きていた者が多いですから。ただ、余計なものに手を出しすぎるのも問題なので、その辺りはバランスが難しいところではあります」
「そうだろうな。ともあれ、ロレーヌはそう言った冒険者とは違い、十分な知識がある。だから、座学などは飛ばしていいだろうと思ってな」
「お話は分かりましたが……それで身につけられるでしょうか?」
「大丈夫だろう。本来であれば少し心配だが……ロレーヌは魔眼を持っているな? それを活用すればかなり素早く身につけられる……はずだ」
「……よく私が魔眼を持っているとお分かりですね」
レントには言ってあることだし、マルトの街でも隠しているわけではないが、殊更に吹聴しているわけでもないことだ。
義父とはいえ、私の許可なく私の情報をインゴに話すとも思えないし、そうなるとどこから得た情報なのか気になった。
これにインゴは笑って、
「レントからではないぞ。ガルブだよ。あの婆さんは観察力も並外れているからな……」
「あの人ですか……なるほどそれなら納得ですね」
「だろう?」
「しかし、その魔眼を活用すれば素早く身につけられるとはどういう……?」
「他の従魔師の手法についてはそこまで詳しくはないのだが、私が身につけている手法は、複雑な魔力操作が必要だ、と言う話をしたのは覚えているな?」
「ええ……あぁ、その魔力の動きなどを観察することが重要だと言うことですか?」
「そう言うことだな。特に魔物の体内に魔力を流すときのやり方をよく観察してもらうつもりだ。それさえわかればあとはひたすらに実践すれば基本は身につけられるはずだ。まぁ、私も人に教えるのは正直言って初めてだから、必ずとは言い切れんがな。かつて、そう言うやり方が最も早い、と教わったからそれに沿って教えていこうと言うだけだ」
「分かりました。ぜひ、よろしくお願いします」
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