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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第16章 港湾都市
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第577話 港湾都市と宿代

 ニーズとしては、今日まで底辺冒険者としての辛酸を共に嘗め続けた二人に、迷宮で死への道を真っ逆さまに落ちて行きかねないこの状況を一緒に笑って欲しくて言った台詞だったのだろう。

 そうやって自虐しつつ笑いをとる、なんていうのは底辺冒険者にとってありがちな話題の作り方であることを俺もよく知っている。

 だからこそ、次の瞬間、ガヘッドから返ってきた台詞を、ニーズは意外そうに聞いたのだろう。


「あぁ、なんだ。お前まだちゃんと聞いてなかったのか? まぁそう言いたくなる気持ちも分かるが……安心するといい」


 どうやら、ガヘッド、それにおそらくルカスも、俺から今回の話の詳細をすでに聞かされているらしい、ということをニーズはその返答で理解したようだ。

 しかしそうであるにもかかわらず、二人が特段、俺に対する疑いを持っていない様子であることが不思議なようだった。

 まぁ、猜疑心に満ち満ちて生きている……とまでは流石に言わないまでも、そこまで簡単に他人を信用できるような性格をガヘッドもルカスも、そしてニーズもしていないことを、ニーズはよく分かっているからだろう。

 それなのに、一体どうしたんだお前ら、とそんな気持ちなのだろうな。

 怪訝な表情でニーズはガヘッドとルカスに尋ねる。


「安心って……そんなこと出来るわきゃねぇだろう。迷宮だぞ? この辺りで迷宮って言えば……どこも俺たちみたいなのに簡単に潜れるところじゃねぇ。それに……レント、あいつが潜るって言ってんだ。そこそこ深層になるはずだ……それじゃ、逃げることすらもままならねぇだろうが」


 いざというときは何をおいてもとりあえず逃げる。

 ニーズはそのつもりらしい。

 しかしそれが出来るのは追いかけてくるだろう魔物やら何やら自分よりも足が遅い場合に限られる。

 獣よりも賢い頭を使ってうまいこと逃げたとしても、あまりにも実力差が開いていればどうしようもない。

 俺がそういうところに連れて行くつもりだ、と思っているのだろう。

 自分より実力の低い冒険者をわざわざ迷宮行の供とする、というのはそういう場合が大半だからだ。

 マルトではそうやって連れを盾に使うような行為は忌み嫌われるし、すぐに噂が広がるためにあまり行われないものの、それでも全く存在しないわけでは無い。

 ルカリスのような人口も冒険者の数も桁違いに多い街ともなれば、大っぴらにはならないにしても、それなりの数、行われているだろう。

 だから、ニーズの危惧はそういう意味では正しい。

 ただ、俺にはそんなつもりはないが……。

 その辺りについて、ガヘッドがニーズに説明する。


「まぁ……俺も起きたあと、話を聞かされてすぐはお前と同じような気持ちだった。だが、根気強く説明されて……どうもそういうことじゃないってことが分かったんだ。嘘みたいな話だが、レント殿は俺たちを鍛えてくれるつもりらしいぞ?」


「……あ? 鍛えるだぁ?」


「そうだ。才能……があるかどうかは分からないが、少なくとも冒険者として普通に食べていけるだけのものは身につけさせてやるって」


「どうやってだよ……」


 自分たちをどう鍛えてもそんなことは無理だ、と自嘲的な表情をするニーズだったが、ガヘッドは続けた。


「さっき聞いてなかったのか? 手始めに、ルカスに素材採取系の仕事の基礎を教えてくれてる」


「基礎って……んなもん、ただ取ってくればいいだけだろう。今更……」


「もちろんそれはそうなんだが……お前だって一応それなりに気を遣ってはいただろう。それを、もっと深く、教えてくれてるんだ」


 言われて、ニーズは少し考えてから言う。


「気を遣ってるって……あぁ、綺麗にとってくるとかそういうことか?」


「そう、それだ」


「それこそいつもやってるつもりだが」


「それだけじゃ不十分なんだとさ。さっきの植物だって、綺麗なものだったが、土ごと持ってこないと結局枯れるって話だったろ? 魔石のかけらが土に……なんて知らなかったが、そういう細かい情報を知ってれば出来ることがあるだろう」


「なるほど。なんとなく……分かるな。そういうことを教えてくれるってわけか……だがそれでどれだけ意味があるのか……」


「レント殿の話だと、根気よく続けてれば少しずつだが、依頼料に色をつけてくれたり、直接指名で依頼が入るようになったりしていくってことだ。ルカリスくらいの街だと、目利きもそれなりにいるはずだからと」


「本当か?」


「ディエゴ殿にも聞いてみたんだが、確かにそういうことはたまにあるってことだぞ。冒険者は大抵適当だから期待していないだけに、良い素材を頻繁に持ち込んでくれる奴は分かるし、指名することもあるって」


「そんなの……聞いたことねぇよ」


「わざわざ聞かれてもいないのに自分のされてる特別扱いの話をする奴なんて滅多にいないだろうが。まぁ……一人いたわけだが、レント殿はこの街の人間ってわけじゃないからな。教えても問題ないって言ってた」


 俺がこの街で、採取系を主とする依頼を受ける銅級冒険者として活動していたら、俺の知ってるコツを教えるのはそれこそおまんまの食い上げという奴になるが、別の街の人間で、ここに居着くつもりはないから、という説明をガヘッドとルカスにはしている。

 現実には別にここに居着くつもりでもなんでも教えたって良いんだが、自分が損をする話をそう簡単に他人にするはずが無い、みたいな疑いを持っている奴にそんな風に話したところで信じてくれないのは分かっているからな。

 あえてそういう説明をしたのだ。

 基本的に冒険者は雑、というのはどこに行ってもそうで、そういう細かいコツを教えたところで競合するほど浸透する日が来るのは期待できない。

 そうなったとしても、たった一つの街でのことだ。

 素材は別の街に良品として送られたりすることになるので価値がそれほど下がったりすることもないので、やはり教えた方としても大して損はしない。

 

「他にもあってだな……」


 ガヘッドがさらにニーズに説明しようとしているが、俺はふと窓の外を見て日が落ちかけていることに気づく。

 そろそろ、冒険者組合ギルドに行くべき時間だ。

 俺は話し込んでる三人組はとりあえず放っておき、家主であるディエゴに、


「ちょっと今から人に会いに冒険者組合ギルドに行ってくる。また明日、ここに来ても良いか?」


 そう言うと、ディエゴは頷いて、


「あぁ、構わない……というか、こいつらをこのまま放置されたんじゃたまったもんじゃないからな」


 そう言って笑う。

 なぜそんなことを言うかといえば、ディエゴはこの三人を今日のところはここに泊めるつもりだからだ。

 

「……しかし、本当にいいのか? 別に今日のところは追い出してもいいと思うんだが」


 俺がそう言うと、ディエゴは、


「今日、依頼も受けられなかったこいつらに宿代があるとも思えないからな……仕方ないだろう。まぁ、レント、お前がこいつらを鍛えてやるんだろう? だったら、後でまとめて宿代を請求することにするさ」


 そんな恐ろしいことを言う。


「一体いくらになるのか……あいつらに同情するよ。まぁ、一般的な宿代程度なら余裕で払えるくらいには鍛えてやることにする」


「おお、是非そうしてやるといい」

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[良い点] レントさん… 自分が鍛えてもらうためにこの街来たはずなのに、いつの間にか鍛える側に回ってるだなんて、なんてお人好しなの…
2019/11/23 14:47 退会済み
管理
[一言] レントさんの!なれる!ギルドから好かれる冒険者塾、出張版! ※実績はマルトの冒険者ギルドにて確認済み そんな文言を思い浮かべてしまったでござる こうやって更生されてきたレント印の冒険者は一…
[良い点] まさに人生の転機ですね。
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