表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第15章 山積みな課題
549/667

第519話 山積みな課題と剣の制御

 さて、最後は聖魔気融合術である。


「……こればっかりは剣が壊れてしまわないか、怖いな。もしものときは、本当に悪い……クロープ」


 一応、先んじて謝っておく俺である。

 クロープの作った自信作だ。

 無残に散らせるのは心から申し訳ない気分になる。

 しかしこれに対してクロープは、


「なんだかんだ必死に止めはしたが、実際はな……それで壊れるようなら俺はお前の要求水準に達してない武器を渡したってことになっちまう。それは俺の鍛冶師としての仕事の失敗を意味する。つまりそんなことになったら、そもそも俺が悪いってこった。だから気にする必要はねぇよ。俺はただ、そいつが耐え抜くことを信じるだけだ」


 そう言って首を横に振った。

 確かに俺が求めたのは聖魔気融合術に耐えられるような性能を持つ剣である。

 とはいえ、そんなものを注文するような客などそうそういないだろう。

 クロープにもほとんど経験はないはずだ。

 全部持ち、というのはそれだけ珍しい。

 たとえ俺程度の力の持ち主でもだ。

 それで失敗したからと言って責められるいわれはないと思う。

 ただ、俺としてはできる限り全ての力を十全に使えるようにしておきたいのは間違いない。

 もちろん、全部持ちだからと言ってそれが直接強い弱いとは関係するわけではないが、色々な力を使えるというのはアドバンテージになるから、俺にとってはありがたいことなのだ。

 魔力が通じない相手もいるし、気では押し切れない相手もいる。

 聖気が特に効く相手もいるし、防御力が高すぎるが故に何か特殊な攻撃方法……魔気融合術や、聖魔気融合術がどうしても必要になってくる相手もいるだろう。

 そのいずれに対しても最低限、対応することが出来るというのは俺が冒険者をこれから続けていく上で非常に便利なことだろう。

 もちろん、どんな力も使いこなせなければ宝の持ち腐れでしかないが。

 俺も小器用さにはそれなりに自信があるが……驕らず磨いていかなければならないだろう。

 そんなことを考えつつ、俺は剣に聖気、魔力、気を注いでいった。

 先ほど魔気融合術を使ったときは革袋に水を入れていくような感覚だったが、今度はさらに入れにくくて困った。

 ひどく固い鉱石を無理矢理圧縮しているかのような感覚がする……。

 どう頑張ってもそんなこと出来そうもない、そう思ってしまうような強い圧力を感じる物体に無理矢理力をねじ込んで押し固めていくのだ……。

 もちろん、入る力の総量は大したものではない。

 魔気融合術で注げた力の十分の一にも満たないかも知れない。

 注ごうとしている力は倍以上あるのに……かなり力を無駄にしている、ということだ。

 そしてそれでも、全ての力をこの剣……同じところに注ぎ込むことによって得られる力は俺の持つ手札の中で最も強力なのだ……。

 この手段を諦めて捨てるわけには行かない……。


「……よし」


 俺はなんとかやりきって、剣に力を込めるのに成功する。

 間髪入れず、俺はクロープが用意した人形たちにさっそく取りかかることにした。 

 維持しているだけでガンガン気力がすり減っていくので、手早く全ての人形を切りつける

 すると……。

 切りつけた木人形と藁人形はいずれも小さく圧縮され、ころりと地面に落ちた。 

 大きさは……概ね、手のひらで包み込める程度、だろうか。

 加えて、周囲を土と植物のツタが締め付けるように覆い尽くしていたのが新しく見られた現象だろう。

 鎧人形についてもある程度、原型が理解できるし、剣によって切り裂かれた部分も分かるがそれでもどこから力が加えられたのか分からないほどに全体がひしゃげてしまい、ほとんど球状になっている。

 土とツタによってギリギリと締め付けられるように包まれているのは木人形と藁人形の場合と同様であり、圧縮、という元々の聖魔気融合術が持っていた性能をさらに強化したような効果になっていると言えるだろう。

 

「……えげつねぇな……。しかもこれ……根はどこだ?」


 一応、植物が生えているので、それが気になったらしいクロープは圧縮されたそれらの物体を矯めつ眇めつ眺めて植物の根がどこに続いているのかを探した。

 すると……。


「見る限り、中に巻き込まれるように続いているから……圧縮されたものから栄養を得ようとしている……んじゃねぇか? だとすりゃ、ほんとおっかねぇな……しかもこの植物自体は圧縮されてねぇのか、それとも圧縮されても問題ないのか……よく分からんが、元気そうだな」


「だが、木と藁に鎧だろう? どこから栄養も得られないんだ。すぐ枯れそうだな」


「まぁ……そうかもしれねぇが。生き物にこれを使ったときにどうなるか気になるぜ……。やられる方の身になってみりゃ、くしゃくしゃに圧縮されて、植物の栄養にされたんじゃたまったもんじゃねぇが……」


「……まぁな」


 やっぱり、俺が吸血鬼ヴァンパイア系統の存在だからだろうか。

 他の生命から命を奪い、長らえるような性質が剣にもついてしまうのは聖魔気融合術の場合も同様だったようだ。

 この効果がどれくらい有用なのかは謎だが……。

 使い勝手もどうなんだろうな。

 切りつける毎に木を生やすのもよくよく考えると微妙な気がする。

 元々聖気を注いだ剣で切りつけるとそうなる傾向があったのは事実だから気にしなければいいといえば気にしなければいいのだが……。

 どうにかある程度コントロールできないものだろうか?

 ……まぁそれはどの効果についても同じことか。

 その辺りの修練がこれからの課題なのかもしれないな。

 今まではとにかく破壊力優先でそれ以外の効果とか現象については気にしない方針でやってきた。

 俺にとって、それこそが人生で最大の問題であったからだ。

 しかし、地力の成長が望めるようになった今は違う。

 ここからはその辺りも考えなければならないだろう。

 たとえば切り口を見たらそれを俺がやったことが丸わかり、なんていうのは困ることも出てくるだろうからな。

 もちろん、剣に強化をかけずに、もしくは気や魔力単体による強化のみで押し切ればそれでそういう心配は必要なくなるだろうし、今までもそうしなければならないときはそうしてきたが、それは今まで戦ってきた相手がそれで大部分なんとかなっていたからそうしてこれただけだ。

 しかし、これから俺が戦わなければならない相手はそういった対応だけでは不十分なくらいに強くなっていくだろうと想像できる。

 神銀ミスリル級に近づくというのはそういうことだ……まだまだ遙か遠いにしても。

 特に今度は銀級試験を受けるわけだから、今まで戦ってきた相手よりもさらに強力なものを敵としなければならないのは自明だ。

 一応、ロレーヌとオーグリーと一緒に銀級相当、もしくはそれ以上のかなりの強敵も相手にした経験はあるが、それを改めて一人でやれと言われると……やはり出し惜しみなどしていられないだろう。

 そしてその場合、今回クロープに作ってもらったこの剣を使っていく限り、俺が倒した相手にそうだとサインをしていくような形になってしまう。

 それはよろしくない。

 別に裏の仕事をしようというわけではないので基本的には問題ないかも知れないが、秘密裏に、と頼まれることだってありうる。

 そういうときのためにも、この剣の効果のコントロールはどうしても必要だ。

 幸い、魔力や気、聖気単体で使っているときに効果の増減のコントロールがある程度出来ることは確認している。

 となれば、魔気融合術の場合も、聖魔気融合術の場合も出来るはずだ。

 どうしても無理だったら諦めて他の方法を探るしかないかも知れないが……とりあえず、挑戦してみなければならない。

 そう思った俺だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ