第515話 山積みな課題と試し切り
中庭に到着し、クロープから受け取ったそれの布をしゅるしゅると解いていく。
武具を作ってもらうとき、何が楽しみかって初めてそれを目にする瞬間だろう。
もちろん、今回の武器に関しては何度も試作してもらっているから大体こういう感じのが出来る、という推測は立っているが、それでもやはり楽しみなものは楽しみだった。
そして……。
「……おぉ! これはまた、意外な感じ……」
全貌が明らかになったそれに、俺は驚いてそう言った。
クロープも満足そうに、
「そうだろう、そうだろう。まぁ、そんな感じになるとは俺も予想外だったが……多分、お前の聖気で育った樹木を使ったせいなんだろうな。聖樹を使った武器はいくつか見たことがあるが、そんな風になっている奴も見たことがある」
そう言った。
そんな風、とはどういうことか。
柄を持って、刀身を見つめてみると、まずそこには特徴的な文様が浮き出ていることに気づく。
木目状なのだ。
年輪が全体に及んでいるように見える。
とはいえ、模様だけならどこにもないというほどでもない。
クロープはそれに言及する。
「まぁ、聖樹を使わなくても作ろうとすれば作れるんだが……そういうものと比べて異なるのはやっぱり丈夫さだな。小さめのナイフを作って確認したが、五倍以上はある。かといってしなやかさがないわけでもない……」
言われて少し振ってみると、驚いたことにしなる。
金属製の剣らしくないというか、少し固めの蛇腹剣を使っているようというか。
それでいて全く折れそうな感じはなかった。
「面白いな……だが、使いこなすには少し慣れが必要そうだ」
「まぁ、そこのところは頑張ってくれ。どうしてもそのしなりが嫌だってんなら、作り直しても良いが」
「いや……とりあえず何度か使ってみて、どうしても駄目そうなら考えるけど、今の感覚だと悪くはなさそうだ」
「よかったぜ」
「にしても……色合いは若干……なんというか、あれだな」
「……邪悪?」
「そう、それだ……」
刀身の模様はまぁいいだろう。
しかし色合いがなんというか、邪というか……。
俺の血を使ったからだろうか?
所々赤みがかっており、今にも血を吸いたい血を吸いたいと言っているかのように感じられる。
「まぁ、お前にはいいんじゃねぇか? 似合うぜ」
「……似合って良いんだろうか……」
骸骨仮面がこれを持って襲いかかってきたら冒険者と言うよりも盗賊か暗殺者かだ。
似合っていると言えば似合っているのだろうが、果たしてこれが冒険者として正しい姿なのかと言われると疑問だ……。
少し考え込んだ俺に、クロープは言う。
「まぁ、見た目なんてどうでもいいんだ。問題は使い心地だろ。まずは試し切りしてみてくれ」
そう言っていくつかの人形や丸太を持ってくる。
木や金属、藁など素材が違うものをいくつも配置してくれているのはやはりこの剣のしなる感じが珍しいから、感覚を掴んでもらおうとしているからだろう。
「じゃあ、お言葉に甘えて早速……」
配置された人形をまずは一つずつ切っていく。
最初は魔力などは込めずに素の状態の切れ味と使い心地を試してみた。
やはり、クロープが自信作だと言うだけあって、かなりいい剣だということが分かる。
切れ味がもの凄く、藁や木は言わずもがな、金属の鎧を着込んだ人形でさえも真っ二つに出来てしまった。
刃こぼれを確認するが、それも一切無い。
ともあれ、切った金属鎧を確認してみるに、若干切り口はギザギザしているし、切ったときもそれなりの抵抗はあったが。
魔物としての身体能力で押し切った感じが強いかも知れない。
しかしそれでも十分だ。
今までの剣でここまで切れたことは無かったからな……。
「……どうだ?」
とクロープが聞いてきたので、俺は頷く。
「気に入ったよ。しなりも思ったほど気にはならないな。むしろそのお陰で切れ味が増している気もするし……」
「そうか。しかしお前が振るうと何も込めずにここまで切れるんだな……。相性がいいのか……?」
クロープもそれなりに剣術は使えないわけではないので試し切りくらいしてみただろうが、俺くらいには切れなかったらしい。
相性か。
まぁ、俺の血を使って作られた剣なわけだし、そういう意味では俺専用なのかも知れない。
そのお陰で、特に魔力などを込めなくとも、すでにある程度切れ味が増しているとかはあるかも分からない。
そういう、誰か専用の武器、というのは世の中にそれなりに存在するからだ。
わかりやすいものだと聖剣とか聖槍とか言われるような武具で、そういったものは持ち主を選ぶ代わりに、その持ち主が使ったときは絶大な力を発揮する、ということがある。
それに近いところがあるのかもしれない。
「……魔剣なのかな?」
「いや……どうだろうな。そんなもの作れたなら鍛冶師冥利に尽きるが……」
聖剣魔剣の類はそうそう作れるようなものではない。
大半が迷宮で発見されるか、よほど高名な鍛冶師のみが作り出すことを可能とする品だ。
いかにクロープが腕のいい鍛冶師といえども、それが作れるかどうかは謎だ。
「見分けられないのか?」
「聖剣魔剣の類いってやつは、見てそれと分かることもあるが、分からないものも少なくねぇんだよ。だからこそ、たまにその辺の露天で売ってたりすることもあるからな。そういう話聞いたことあるだろ?」
確かにたまに聞く。
運のいい冒険者が露天で二束三文で購入した剣が実は魔剣で、そのお陰でどんどん強力な魔物を倒すことが出来るようになり、そしてついには金級、白金級へと上った、なんて話を。
どっかで似たような話を聞いたことがあるような気がしたが、そいつについてはおかしな呪われた仮面を手に入れたのであって、そういう冒険者たちとはまるで持っているツキが違う。
まぁ、運が悪いと言っても生きているからいいんだけどさ……。
「確実に見分けるには……やっぱり鑑定神とかに見てもらうしかないのか?」
「まぁ、それが一番確実だな。だが、他に方法がないわけでもねぇ……」
「それは?」
「それこそ、高名な鍛冶師に見てもらう、とかな……。まぁ、その辺りはおいおい俺が考えておく。とりあえず、試し切りを続けようぜ」