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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第477話 ヤーランの影と剛鉄の限界

「……あやつは一体どんな異能を持っておるんじゃ? あの……虫のような動きは一体……」


 地下闘技場の観客席、ロレーヌの隣で唖然とした顔でそんなことを呟いたのは、《スプリガン》の老人だった。

 レントの人間離れした挙動を見、一体どんな存在なのか訳が分からなくなったのだろう、という推測は簡単に立つ。

 しかし、そう聞かれてもロレーヌも困る。

 答えがわからない、というわけではない。

 むしろ答えははっきりしてる。

 レント・ファイナはそもそも人間ではない。

 人間ではない以上、人間を超越した動きが出来ても何もおかしくはない。

 以上、証明終了。

 と、言ってやりたい気分にもなる。

 ただし、そんなことはとてもではないが言えるわけがない。

 老人がレントを異能者であると勘違いしていることも、彼が比較的協力的に振る舞っている理由の一つだと考えられるところもあるし、そもそもレントが魔物だという事実は可能な限り少数の人間の秘密であるべきだからだ。

 まぁ、今ではそれなりの人間が知ってしまっているわけだが、どれもそうそうに口外しないことがわかっている人物である。

 この老人も、そういう意味では信用できそうな人物であるが、その前に彼は敵対する組織の一員である。

 やはり言えはしない。


「……私にもよく分からない。色々調べてみてはいるのだが、はっきりと一言で表すことはできていないのだ」


 それはある意味で事実だった。

 レントがどんな魔物なのか。

 それはいまでも分かっていない。

 一応、吸血鬼ヴァンパイアか、その亜種、もしくはその仲間であろう、というくらいのことは分かっている。

 ただ、これではとても種として同定出来たとは言えない。

 ウサギのような生き物を見つけ、ウサギか野ウサギ、もしくはその仲間だろう、と言っているようなものだし、そんなことをいいつつも、実は犬だった、なんてこともありうる。

 本当に今のレントは何なのか……よく分からない。

 早いところ鑑定神に鑑定して欲しいところだが、やるべきことは山積している。

 片づけていったらいつになるのか、と思う。

 まぁ、焦ることもないが……はっきりとするまで、色々調査し、考えるのはロレーヌにとっては楽しい作業だからだ。

 そのうち何なのかはっきりする、と分かっているからこその余裕でもあるが。


「ふむ……異能というものは、わしのようにわかりやすいものは意外と多くないからのう……」


 ロレーヌの言葉に、自ら理屈をつけて、老人は納得したようにそう呟く。

 そんな老人にロレーヌは言う。


「あのヴァサの異能も?」


「うむ……あやつは《剛鉄》などと自称しておるがな。何もないところに金属を生み出せる、というものじゃと認識しておるからそのような自称にしたようじゃ」


 自称、ということは組織の構成員の多くは別に認めていないということだろう。

 遊びに近い名前なのだから認める認めないはどうでもいいような気もするが、周囲の人間が呼ばないあだ名に存在意義はない。

 実際、老人も門のところにいた衛兵すらもヴァサ、と名前を呼んでいる。


「実際は違うと?」


「はっきりとは、分からん。ただ、奴が小さな頃、塩の固まりを生み出したことがあったでのう。そのときのことを奴は覚えていないようじゃが、確かにあった。それで、やらせてみたのじゃが……出来んかった」


「能力が失われた?」


「一応、わしらの間では一度発現した能力は失われることはない、とされている」


「だが、ヴァサは……」


「そう、使えなくなった。じゃから、わしはそれは能力が失われたのではなく、認識の問題じゃと思っておる。あやつは無意識に金属の武器で攻撃するのが一番強い、と思っている節があるからのう。それしか出来なくなってしまったんじゃろ。高いところに上れない、と心の深いところで思ってしまうと、それが出来なくなってしまうのと同じようなものじゃ」


「認識が、異能には強く作用すると……」


「たぶんのう。レントの場合は……どうなんじゃろうな。わしと戦ったとき、あやつは一瞬、その姿自体が輪郭を失ったときがあった。体を自由に組み替えられる能力……? ふむ。あるかもしれんな」


 それは独り言だったのだろうが、かなり的を射ている。

 レントの《分化》はまさにそのような能力だ。

 違うと言うべきか、それはやぶ蛇になるかも知れないから避けるべきか……ロレーヌがそこまで考えたところで、闘技場から声が響く。


 闘技場では、ヴァサがちょうど、レントに吹き飛ばされて、構えを改めて向き直ったところだった。


 ◇◆◇◆◇


「……お、お前……一体何なんだ!? どんな体をしている!?」


 全く見たことのないような生き物を見たような表情で俺にそう言い募るヴァサは、威勢のよかった先ほどまでの雰囲気とはかなり異なっていて、なんだか今日初対面の俺から見てすらも、なんだからしくなく見える。

 

「どんなって。こんなだよ」


 そう言って俺は自分の色んな関節をぐるぐる回して見せた。

 首の一回転も披露する。

 うーん。

 なんだか不思議な視界だな。我ながら。

 もちろん、後ろにはしっかりと気を配りつつなので、油断しているわけではないぞ。 

 かきり、と首が元の位置に戻ったところでヴァサの表情を見てみると、先ほどよりもさらに恐怖の色が満ちていた。

 ……なんでだよ、せっかく説明して、実演して見せたのに……。

 なんて、当然なのは分かっているが。

 

「お前、化け物か……!?」


「あの巨人爺さんの仲間が言う台詞じゃないと思うけどなぁ。あの人の方がよっぽどその言葉が似合うよ」


「もちろん、俺もそう思うが、お前も相当のものだ」


 肯定されてしまった。しかも爺さんと化け物仲間扱いである。

 しかし認めるわけにもいかない。

 俺は人間だ。

 あくまで戻る予定、だけども。

 

「いやいや、俺は普通だから。だいたい、それを言うならお前だって普通じゃないぞ。なんだ、さっきの短剣は? 突然空中に現れて、気づいたら消えてたぞ?」

 

 理由は分かっているが、とりあえず聞いておく。

 老人は嘘がつけないようになっているので疑っているわけでもないが、新たな情報が出てくるかも知れないからな。

 本人だし。


「俺のは……それこそ普通の《異能》だ。《剛鉄》の能力……好きなとき、好きな形で、好きな場所に金属を発生・消滅させることが出来る力……」


「ということは金塊を作って売ったりとかも出来たり?」


 うはうはではないか。

 そう思ったが、ヴァサはバカにされたと思ったのかも知れない。


「そんなことは出来ん! いや、まったく出来ないと言うこともないが……金はあまり出せんのだ。それに、能力を引っ込めると出した金属も消えてしまう」


 ということは、他の金属にしても出せる量には限りがあるわけだな。

 短剣を三本しか出さなかったのもその限界に触れたということだろうか。

 もしくは集中の問題とかもあるかもしれないが、やはり限界がないわけではないのだな。

 老人の無尽蔵な耐久力とスタミナは、鍛え上げたがゆえのもの、ということだったのかもしれない。

 《ゴブリン》も能力を使い続けた結果少しずつ操れる数が増えている、という話だったし。

 どんな力でも修練しなければ強くはならない、ということなのだろう。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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