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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第418話 塔と学院、相談

「……どうだった?」


 馬車に戻ると早速ロレーヌからそう質問される。

 ヤツールはまだ戻っていないが、静音結界は発動されているようだ。

 これなら喋っても問題ない。

 まぁ、ロレーヌが他人に聞かれそうな状況でこんな質問をする、なんてことは基本的にありえないだろうし、彼女が質問してきてる時点で問題ないのははっきりしているが。

 俺は口を開く。


「微妙なとこだな。詳しいことは話さなかった。事前にある程度計画を立ててあるんだろう」


「となると、《盗み聞きで向こうの思惑全部踏み潰そう大作戦》は失敗ってわけかい?」


 オーグリーがそう尋ねてくる。

 

「……一体いつの間にそんな作戦名がついたんだよ」


「たった今。僕が考えた。中々だろう?」


「どこがだ。そのままではないか」


 ロレーヌが呆れた口調でそう言う。


「じゃあロレーヌならどんな作戦名を立てるって言うんだい?」

 

「……む? そ、それは……」


 珍しく狼狽した様子のロレーヌである。

 知識も発想力も相当なものだが、それは学者や魔術師としてのそれであって、こういうネーミングセンスにはそれほど発揮されない。

 うーん、うーん、と一生懸命考えた末、


「……悪かった。《盗み聞きで向こうの思惑全部踏み潰そう大作戦》でいいぞ」


「やった!」


 ……何がだ。

 妙な合意がロレーヌとオーグリーの間でなされたが、とりあえず俺は話をもとの方向に戻す。


「で、《踏み潰そう作戦》についてなんだが、そう失敗ってわけでもないぞ」


「……いきなり短縮された……」


 がっくりと来てるオーグリーを無視しつつ、ロレーヌが首を傾げて、


「そうなのか? なぜだ」


 と尋ねる。

 俺はそれに答えた。


「向こうの詳しい計画の内容は分からなかったが、大まかな概要ならなんとなく理解できたからな。まず、仲間はヤツールを含めて三人みたいだ」


「ほう。少数精鋭なのかな?」


「かもしれない。あと、符牒で呼び合ってた。ヤツールは《ゴブリン》、あと他に女と、たぶん老人がいたが、女の方は《セイレーン》と呼ばれていた。老人の方は分からずじまいだったな」


 これにオーグリーが落ち込みから復活してきて、


「……《ゴブリン》? それは……そういえば昨日のホブゴブリンって、不自然だったけど、それがヤツールが仕組んだってことなのかな?」


 と思い出したように言う。

 街道に魔物は中々出現しない。

 それに知能の低い魔物ならともかく、ホブゴブリンは比較的賢い方だ。

 彼らが好き好んで街道に出現することは滅多にない。

 つまりは、何らかのイレギュラーがどこかであったと考えるべきだが、それこそがヤツールの存在だったという帰結になるのは、至極当然の話だった。

 人為的なものでないなら、元の住処を他の魔物に追われたとか、そういう話になるが、そう言う場合、もっとホブゴブリン自身が傷ついていたりするものだ。

 少なくとも、俺たちと戦うまでは、汚れてはいても傷なんかはほとんどなかった。


「おそらく、そういうことだろうな。元の住処からどうにかしてここまで連れて来たか……そもそもヤツールがそういう技能を持った者か。もしくは他にいたという女か老人によってかもしれないが、従魔師モンスターテイマーの技術があれば出来ないことではない」


「ヤツールは、従魔師モンスターテイマーなのかね?」


 俺が疑問を口にすると、ロレーヌが答える。


「可能性があるというだけだがな。しかし、だとすると、あれだけの数を従えられるのは珍しい。他の方法でもってここにおびき寄せた、という方が可能性は高いかもしれん」


 従魔師モンスターテイマーの従えられる魔物の数は、あまり多くない。

 一人で操れるのは多くて五匹程度だと言われている。

 その理由は色々な説があってはっきりしないが、おおむね、人のキャパシティの限界であるというような説明がなされる。

 そこからすれば、ホブゴブリンであっても十匹は多い、ということになるだろう。


「ま、それについてはそんなところか。あとの二人だが……」


「《セイレーン》と、老人か……。《ゴブリン》というのがその技能などからついた名称だとすると、《セイレーン》の方もそうかな?」


 ロレーヌがそう推測する。

 これにオーグリーは、


「どうだろうね? 女の人なんでしょ? セイレーンと言えば、海に住まい、船乗りたちを惑わす歌を歌い、永遠の常闇へと誘うと言われる魔物のことだ。つまり……」


「つまり?」


「物凄い美人ってことかも!」


 確信しているように拳を強く握ってそんなことを言うオーグリーに、俺とロレーヌは呆れる。

 ただそれでも……。


「絶対にない話ではないだろうな。帝国の諜報員であればそんな単純な名称をつけたりはしないだろうが……」


「そうなのか?」


 俺がロレーヌに尋ねると、彼女は頷く。


「私も詳しいわけではない、というか表に情報などまず出てこないからな。ただ、色々な噂は聞いたよ。名前で呼ばれず、数字で呼ばれるとか、そもそも名前すらないとか、な。それと比べると、お遊びのようで楽しいな」


 若干馬鹿にされている《ゴブリン》たちである。

 そもそも、名前が誰かにばれる、とは想定していないがゆえにそういう名づけをしているのだろうが、今回のようなことを考えると聞いただけではなんだかよくわからないような名前にしておくとか、聞いても無駄なように名前すらつけておかないとか、そういう風にすべきだというのは分かる。

 少なくとも、俺がそういう裏稼業の人間だったらそうするだろう。

 

「向こうはお遊びのつもりなんてないと思うけど……気持ちは分かるよ。まぁ、美人がどうとかいう冗談はさておき、《セイレーン》についてだけど、真面目に考えるなら男を惑わす的なことを得意としている、と考えられはしないかい?」


 オーグリーがそう言った。

 やっぱりさっきのは本気ではなかったようだ。


「男を惑わす、か。なるほど……そうそう、さっき聞いた話だと、《セイレーン》は《この先で舞台を作って待ってる》みたいなことを言ってたぞ。それも鑑みると、納得が行くな」


「この先で、舞台を……その感じだと、これから向かうルーザ村辺りで出くわしそうかな?」


 オーグリーはそう予想する。

 

「どうかな……ま、そうだとするなら、村では女に気をつけようってとこか」


「そうだね」


 俺とオーグリーはそう頷き合い、ロレーヌは、


「……私は関係なさそうだな……」


 と若干つまらなそうだった。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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