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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第416話 塔と学院、ゴブリンの誤算

 ――夜が明けてしまった。


 《ゴブリン》がそう思ったのは、遠く山の峰の向こうから茜色に輝き始めたその光を見つけたときのことだった。

 なぜこんなことになったのか。

 その理由は簡単である。

 銅級冒険者レント。

 彼がとにかく寝なかったためだ。

 確かに薬の入った煮込みを食べたはずなのに、それもかなり強力なもののはずなのに、彼は一切眠気を持つことなく、一晩中起きて、まさに寝ずの番を全うしてしまった。

 いつ眠るのか、今眠るのか、もう少ししたら眠るのか、もうちょっと経ったら眠るのか……。

 そんなことを一晩中考え続け、結果一切眠りませんでした、でなど終われない。

 終われないが、実際に終わってしまった。

 これは一体全体どういうことかと誰かを罵りたくなる。

 やはり、薬を入れたとき、慌てていたからうまく混ざってなかったのだろうか?

 それで、大半をロレーヌとオーグリーが摂取してしまい、レントの方には全く口に入らなかったとか?

 ない話ではないが……確かに自分は……。

 いや、実際に目にしたこと、経験したことこそが真実である。

 その信念は確かに守らねばなるまい。

 レントは眠らなかった。

 それが事実だ。

 これは明確に失敗だが、仕方がない。

 別に、策は一つというわけでもない。

 《ゴブリン》、その一人だけで挑み、確実に成功させられる、などという不遜な自信も持ってはいない。

 最終的に成功すればいいのだ。

 だから、今日のところは失敗ではなく、一人に一晩中、見張り番をさせ続けたということを成功だ、と思っておこう。

 明らかに戦力が下がったことは確かなのだ。

 出来ることなら銀級二人の方の戦力を低下させたかったが、レントはなぜか二人を起こそうとはしなかった。

 まさか、自分の工作に気づかれたのだろうか、と一瞬思うも、しかしだとすれば同道し続けるなんてことはありえないだろう。

 自分のことなど魔物に食わせて彼ら自身で御者をすればいいだけなのだから。

 つまり、まだ気づかれてはいない、と判断して良さそうに思える。

 ではなぜ、レントは二人の銀級を起こさなかったのか。

 それは恐らく、戦力が上なのは銀級二人であり、その二人にゆっくりと休息をとらせようと思ったからだろう、と推測できる。

 ランクの合わない冒険者同士が組んでいることはそれほど珍しいことではないが、そういったパーティーでは役割分担が決まっていて、ランクの低い冒険者は戦闘で活躍できない代わりに、その他の雑務について自ら進んで担当することが多い。

 そうしなければ捨てられる、という危機感からかもしれないし、純粋に自分の役割はそれだと自任している場合もある。

 客観的に見たときには、確かにそうした方が効率的であるのは間違いなく、人間関係に問題がなければそう言ったパーティーはうまく回っていることが多い。

 長くやっていると、その人間関係に色々罅が入ってくる場合も少なくないが……ただ、このレントたち三人組はそういう意味では問題なさそうだった。

 つまり、レントが二人を起こさなかったことは不自然ではない。

 その証拠、というわけではないが、馬車を走らせ始めると、レントは幌の中に横になり、ゆっくりと眠り始めたからだ。

 一晩中、一人で寝ずの番である。

 相当疲れたに違いない。

 色々と誤算があったが、今まで受けた任務の中でこういうことが一度もなかったわけでもない。

 《ゴブリン》は、それほど動揺していなかった……まだ、このときは。


 ◆◇◆◇◆


「……で、レント。どうするつもりだ?」


 ロレーヌが密かに発動させた静音結界の中、俺に向かってそう話しかける。

 極めて高度に構築されたそれは、魔物として魔力の気配にかなり敏感になっているはずの俺ですら、薄絹が一枚かかったような違和感くらいしか感じない。

 それでいて結界の外側に、内側の音声の一切を遮断すると言うのだから優れものである。

 と言っても、使おうとしても並の魔術師では不可能なことだが。

 ロレーヌがいるから使えるものだな。

 ともあれ、普通の人間にはまるで何も感じられないことは間違いないだろう。

 実際、御者台に座っているヤツールは無反応だ。

 あれが演技だと言うのなら相当な役者であるが、そこまで優れた存在とも思えない。

 特に、煮込みに薬を入れたときなんか結構ばればれだったからな。


「どうするも何も……まぁ、道はちゃんと戻っているみたいだし、いいんじゃないか?」


 眠っていることをアピールするために顔にかけたその辺に打ち捨ててあった帽子、その裏側には《アカシアの地図》があり、俺たちの現在地を教えている。

 迷宮のマッピング機能しか存在しない、と思っていたが、色々といじくっていると世界地図も表示できることがこの間、判明したのだ。もっと調べればさらに機能を発見できるかもしれない。ただ、結構色々やってるつもりだったが、それでも中々見つけるのが難しかったから……何か他に機能があるとしても、また見つけるのは大分先かもしれない。

 ちなみに、世界地図機能だが、迷宮の場合と異なり、世界中を踏破したわけでもないのにしっかりと現在地が表示されている。

 ただ、地図自体が詳しくないと言うか、俺が行ったことのある街や集落しか表示されない。

 その辺りは迷宮の場合と同じようだ。

 やはり、どんな道具であってもそう簡単には使いこなせないと言うことだろうか。

 とはいえ、非常に便利であるのは間違いない。

 今のような場合には、非常に役に立つからな。


「君たち、呑気だね……あれは明らかにどっかからの回し者だよ? さっさと捕らえて尋問すべき、と思うんだけど」


 オーグリーがにこやかな微笑みを浮かべながらそんなことを言う。

 声色は呆れたようなもので、表情は明らかに作っているものだ。

 表情と声がまるで正反対の感情を伝えてくるので怖い。

 ロレーヌも似たようなもので、二人とも器用だなと思う。

 俺は帽子を顔にのっけてるから、そんな演技する必要がないけどな。

 やろうと思えば出来ないこともないが……どっちにしろ仮面がある。

 面倒くさいことをしないで済んで良かった。


「それはそうだろうが、今捕まえて尋問しても、すべて吐くとは限らん。中途半端に嘘をつかれて微妙な情報しか掴めませんでした、では後々面倒だ。もっと色々はっきりさせておきたい。私たちにばれたかばれていないか、微妙ながらもまだ一緒にいるということは、これからも何か仕掛けてくるつもりがある、ということだろう? そのときに仲間なんかが出てくれるとありがたい。そうすれば一人二人何かの間違いで犠牲にしても情報は得られる」


「ロレーヌはさらっと恐ろしいことを言うよね……」


 オーグリーが震えるような声でそう言うが、特に批判するつもりはないようだ。

 ロレーヌの考えが合理的だと認めたからだろう。


「なんだかんだ、学識のためには命すら捧げかねない学者がロレーヌの本性だからな。むしろこれこそが素だろう」


 俺がそう言うと、オーグリーは、


「なおの事恐ろしい……けど、ロレーヌのいう事が正しいだろうと言うのは確かだね。仕方ない。しばらくは騙されたふりをしておこうか……」


 肩を竦めてそう言ったのだった。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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