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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第414話 塔と学院、街道の迷子

「……あれぇ、おっかしいなぁ……?」


 馬車の中で俺たちがだらだらしていると、御者台の方からそんな独り言が聞こえてくる。

 御者のヤツールの声だ。

 気になって俺が幌から顔を出し、


「……どうしたんだ?」


 そう尋ねると、ヤツールは困ったような表情で俺に言う。


「あぁ、レントの旦那。おかしいんだ。道が……こっちで合ってるはずなんだが、どうもいつもと景色が違うような気がしてよ。いつも通りなら、そろそろ集落も見えてくるはずなんだが……」


「気のせいじゃないのか? ホブゴブリンに止められて、距離感覚が少しずれただけとか」


「……うーん。そうかねぇ? わかんねぇ。ただ、こっからは旦那方も幌から顔を出してたまに外を見ててくれねぇか? なんかおかしかったらすぐに言ってくれ」


 そんなことを言った。

 俺は頷き、幌の中に戻って、ロレーヌとオーグリーにヤツールの懸念について話す。

 

「どうも道に迷いつつあるらしい。俺たちにも気を付けておいてくれってさ」


 すると、オーグリーが首を傾げ、


「……あれ? これから行く集落……ルーザ村までの道のりってそんなにややこしかったっけ? 一本道じゃないのは確かだけど、そうそう迷ったりしないはずなんだけどなぁ」


 と言う。

 確かに街道には分岐がいくつかあって、それを適切に選択しなければ訳のわからないところに辿り着く。

 その分岐を間違えた、ということならまぁ、そうなるのはおかしくはない。

 だが、そこまで複雑な分岐でもなかったし、そもそもヤツールはこの道を何度となく通っている行商人である。

 そうそう道を間違えていては、それこそ飯が食べれない。

 

「……ホブゴブリンの群れに襲われる、なんてことはこの辺りの街道を進んでいる限り、あまりないことだからな。気が動転して感覚が狂ったのではないか? ただ、魔物はともかく、“盗賊に襲われたことのない行商人はいない”、とも言う。その程度のことで方向感覚が狂うようでは商人などやっていけないように思うが……」


 商人の間でよく言われる諺を口にし、首を傾げるロレーヌ。

 行商人には冒険者のような戦闘能力がある者はほとんどいないが、しかしそれでも最低限の自衛能力はある。

 隊商を組んでいれば、護衛の傭兵や冒険者に交じって、商人自身が武器を取って戦うこともざらだ。

 そんな修羅場慣れしている商人たちは、その辺の人間よりもずっと肝が据わっている。

 したがって、少しくらいの危険など大した精神的打撃にならない。

 なのに……というわけだ。


「何か疑うとしたら……」


 頬を摩りながら続けたロレーヌ。


「なんだ?」


 俺が尋ねると、ロレーヌは答える。


「何らかの幻惑にかかっている可能性だな。それによって、感覚が狂ってしまい、結果として道を間違えた、というのならば納得できる」


「幻惑? 魔術ってことかな?」


 オーグリーが尋ねるが、ロレーヌはこれには首を横に振った。


「いや。魔術の気配は感じないな。それなら私はすぐに気づける。他の方法だろうが……薬とかかな?」


「薬か……しかし、だとしたら一体いつ?」


 オーグリーの口から出た疑問は当然のものだが、ロレーヌは首を横に振った。


「それは分からない。先ほど、私たちが馬車から少し離れたときかもしれんし、そもそも王都にいたときから何か飲ませられていた可能性もある。そこを追及しても仕方あるまい」


 遅効性の薬を使われていたかもしれないということだ。

 その可能性もなくはない。

 なくはないが……。


「仮にそうだとしても、なんでヤツールにそんなことを?」


 俺は首を傾げながらそう言う。

 失礼な話かも知れないが、ヤツールは確かに一般的な王都民と比べれば多少は裕福かもしれないが、わざわざ狙ってどうにかするような価値があるとも思えない。

 ロレーヌはこれに少し考えつつ、答える。


「それも分からんな。何か恨まれているのかもしれないし……あぁ、私たちを狙ったという線もあるぞ。だが、こちらは微妙かな? そもそも私たちはヤツールの馬車に乗せてもらうと決まってからはほとんど一緒にいたのだ。私たちを狙ったとすればその後に、ということになる。だが、それこそ何か飲ませることの出来る時間などなかったし……強いて言うなら先ほどの戦闘時くらいだが……」


「もしもその推測通りだとすると、まだヤツールに何か飲ませた奴が近くにいる可能性もあるな」


「まぁな。しかし、いずれも可能性の話だ。案外ヤツールがただの方向音痴ということもありうる……それを確定するためには、一旦ヤツールを調べてみなければならないだろう」


「それもそうだな。今すぐ止めるか?」


 俺が二人に向かってそう尋ねると、オーグリーが幌の外に首を出してから、少し考えて言った。


「……そろそろ日も暮れる。本当ならもう集落についている時間だろうし、ヤツールの方から野宿の申し出があると思うよ。調べるのはそのときでいいんじゃない?」


 呑気な話だ、ということになるかもしれないが、ヤツールに何かを飲ませた者がいるとして、その人物が周囲でこの馬車を観察しているとすれば、急に停止すると怪しまれるかもしれない。

 止まってもおかしくない状況で止まる、という方法をとった方が無難だろう、ということだ。

 あんまり変な方向に暴走して突っ込んでいく、なんてことになったらもちろん即座に止めるが、今のところはそんなところでいいだろう。


 そして、しばらくしてオーグリーの予測通りになる。


「……旦那方。すまねぇ。やっぱり道を間違えたみたいだ。今日はどう頑張っても集落にはつかねぇと思う。だから、この辺りで野宿にしたいと思うんだが……?」


 これに俺たちは頷き、答える。


「いや、構わない。ただ、現在地は分かってるのか?」


「……それもちょっと怪しくてよ。すまねぇ……ただ、ある程度戻れば分かるはずだ。あぁ、そうだ。運賃なんだが、俺のせいでこうなっちまったんだ。後で返すぜ。もちろん、目的地まではしっかり届けるからよ……」


 うなだれた様子でそんなことを言うヤツール。

 これは本当にただの方向音痴かもしれないな、という気がしてくる。

 ともあれ、今日のところは停止地点で野宿、ということになった。

 ヤツールは俺たちに保存食を提供するつもりだったようだが、そんなことはせずとも、しっかりと食料はもってきている。

 魔法の袋に調理道具も入っているし、野宿ではあるが、そこそこの食事は提供できるから、一緒に食べないか、と言ったら喜ばれた。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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