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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第413話 塔と学院、街道の魔物

 ホブゴブリンを倒した俺たちは手早くその場で魔石を取り出してしまう。

 これは慣れた作業である。

 ホブゴブリン程度なら流石に俺でも幾度となく戦ったことがあるし、魔石がある部位も細かく分かっている。

 どうすれば簡単に取り出せるのかもな。

 ホブゴブリンの場合は、心臓の真下にあるため、その辺りに短剣を突き刺してやればすぐに分かる。

 そしてそれは俺のみならず、ロレーヌとオーグリーもだ。

 ロレーヌはその学者としての知識から大抵の魔物の解体図が頭の中に入っている。

 それに、マルトで冒険者としても十分に活動してきた。

 ホブゴブリンくらいの解体など、お手の物だ。

 そしてオーグリーも。

 今は銀級になってしまったが、銅級だった年月は決して短くはない。

 ホブゴブリンは銅級の中でもそれなりに魔石の売値の高い魔物だ。

 いい収入源なのであり、これの解体に慣れているのも当然と言えた。


「……こんなものかな」


 概ね、周囲にあった十体ほどのホブゴブリン全てを解体し、魔石を取り出して一か所に集めてから、オーグリーがふぅ、と息を吐きつつそう言った。

 別に疲れたというわけでもないだろうが、街道にホブゴブリンの死体が散乱していた状況はどうにもあまり気分のよくないものだ。

 人が魔物に襲われたあとのように見えてくるからな。

 そう言った、軽い精神的な疲労だろう。

 とは言え、本当に人が魔物に襲われて、手遅れの状態になっている状況を見たところで気が狂う、なんてことはない。

 若く経験の浅い冒険者であるならばむしろよくあることだが、俺たちはそういうのは大分前に通り過ぎてしまった。

 全く何も思わないというわけではないが、あえて自分の心を凪のように静かに置いておくことは出来る。

 

「そうだな。魔石の他にもとれる素材はないではないが……王都では需要がないだろう。売れるとも思えんし、焼き払うことにする」


 ロレーヌがそう言ってから呪文を唱え、積み上がった死体をすべて灰燼に帰す。

 ここが森などであったら別にそのまま死体を放置しておいてもいいのだが、ここは街道だ。

 匂いを嗅ぎつけて魔物たちが集まって来ても困る。

 場合によっては、そんな死体を目当てに集まって来た魔物を、さらに目当てにしてやってきた強力な魔物が居座ったりしてしまうこともありうる。

 そういう事態が起こった時には街道は通行止めになり、魔物が討伐されるまで人の行き来が制限されてしまう。

 誰にとってもたまったものではなく、したがってそんなことが起きないように街道に魔物が出現した場合には可能な限り早く処分する。

 魔術を使えるものがいなくても火種くらいは大抵の冒険者はもっているものだ。

 無理な場合は街道から離れた位置まで運んで埋める、ということになる。

 面倒なことだが、仕方がない。

 ただ、そういうことはそれほど頻繁には起こらない。

 街道付近は人が通る、ということはある程度の知能を持った魔物は理解しており、また強力な冒険者がいることも少なくないと言うことも知っているからだ。

 特に王都のような大きな街が近い街道については、騎士団などが演習にやってくることも多く、余計にそういう傾向がある。

 にもかかわらず、こうしてホブゴブリンが、しかもはぐれ個体というわけではなく、十体もの群れで現れる、というのは珍しいことだった。

 

「……この辺りの森で魔物の縄張り争いでも起きているのかもしれんな」


 ロレーヌも俺と同じことを考えていたのか、ぽつりとそう口にする。


「そうかもしれないが、確認しようがない。本当なら森に入って確認してきた方がいいのかもしれないが、この辺りには村や集落もないしな。それに、ホブゴブリン程度が逃げ出すくらいなら、そう深刻な事態というわけでもないだろう」


 俺が答えると、ロレーヌは、


「どうかな。何か大きな問題の始まりかも知れんぞ。ゴブリンキングが生まれるときは、小さなゴブリンの群れ同士の争いから始まる。初めはただのゴブリンの小競り合いに見えていたそれが、後になって考えてみるとゴブリンキングの発生の予兆だった、などということも少なくない」


 確かにそれはその通りなのだが、少し極端な話だ。

 オーグリーがこれに肩を竦めて、


「そんなこと言い出したらキリがないよ。どんな大災害でも小さな予兆はあるものだけど……すべてと関連付けて考えて確認してたら人の手なんて全然足りなくなっちゃうよ」


 そう言ったが、そんなことはもちろんロレーヌも分かっていた。

 微笑みつつ頷いて、


「確かにその通りだな。私も今の段階で確認すべきだとまでは思わないさ。可能性の話だ」


「ならいいんだけど……それで僕の依頼が達成できなくなったら困るからね」


 オーグリーの返答は冗談である。

 もし本当に何か大きな問題が迫っているのなら、そのために自分の依頼の不達成ぐらいオーグリーは気にするような小さい男ではない。

 

「ま、そういうことなら先に進んでいいな……お?」


「旦那方ぁ~!」


 後ろから声が聞こえてきたので振り返ると、そこには馬車と、それを操ってこちらに向かってくる一人の中年男の姿が見えた。

 今回、目的地に向かうために乗せてもらった馬車の御者をやっている男だ。

 ヤツールという名前で、やはり職業柄だろうか、よく鍛えられた体をしていることが分かる。

 とはいえ、もちろんのこと戦闘を専門としているわけではなく、ホブゴブリン十匹の群れを相手に武器を持って立ち回れるほどではない。

 馬車の進行方向にホブゴブリンの群れが待ち構えていることを感知した時点で止まってもらい、俺たちが馬車から降りて先に進み、倒すことにしたのだった。

 姿が見えないくらいにはそこそこ後ろの方にいたとはいえ、男にも魔物を燃やす煙が上がっているのが見えたのだろう。

 だからこちらに自主的にやってきたわけだ。


「……魔物は、全部片付いたんですかい?」


 直前までやって来たヤツールが俺たちにそう尋ねたので、頷いて答える。


「ああ。ホブゴブリンが十匹くらいだったな。魔石はとって、死体は燃やした。魔石は……買い取るか?」


 このヤツールはただの馬車の御者、というわけではなく、基本的には商人である。

 これから俺たちが向かうところ、とりあえずの拠点となる小さな集落と、王都を行き来するルートを持っている。

 もちろん、それだけでは食べていけはしないから、そんなに頻繁に行くと言う訳でもないようだが……。

 俺の言葉にヤツールは、


「おぉ!? いいんですかい? ホブゴブリンの魔石は結構よく売れるんで、ありがたいんですが……冒険者組合(ギルド)で売った方が高値が付くと思いますぜ?」


 実際、それは正しいだろう。

 ただ、それほどの高値でもないし、ここで売ってしまっても大きな損害があると言う訳でもない。

 半ばボランティアに近い行商路を定期的に通っているヤツールに売った方が世のためになるだろうと言う感覚もある。

 事前に、ロレーヌとオーグリーとは取ったらヤツールに売ろうか、というところで納得もしているので、特に問題はない。

 もちろん、断られたら素直に冒険者組合(ギルド)で売っていただろうが。

 俺はヤツールの言葉に頷き、


「いいさ。まぁ、全部ってわけじゃないが」


「いやいや、それで全然構いませんぜ。ありがたい……」


 余りは俺が、というかロレーヌが錬金術に使う予定だ。

 というわけでそれがロレーヌの取り分になる。

 ヤツールに魔石を渡し、代金を受け取って三個分ずつ俺とオーグリーで二等分した。

 それで、あと一個分の代金は街に帰ったときの飯代にでも使ってちょうどってとこか。

 厳密すぎる気もするが、こういうのをなぁなぁにすると色々罅が入ってくるからな。

 俺たちなら大丈夫、と言ってもいいかもしれないが、それでも区切るところは区切っておく。

 それから魔物が完全に炭化したのを確認すると、俺たちは馬車の荷台に乗りなおす。

 ヤツールの鞭が馬に入り、馬車は再度、街道を進みだした。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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[気になる点] 死ぬ前の魔物の魔石を抉り取ると、どうなる世界観なのだろうか?
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