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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第412話 塔と学院、王都外

 組合職員の言葉に頷き、依頼票を複数提出したのはオーグリーである。

 それを見て、組合職員は言う。


「これは……いずれも長い期間、受注されなかった依頼ですね。確かに……これらの依頼の採取、生息地はいずれも同様ですが、ただでさえ難易度の高さから受注が敬遠されていたものです。本当にいいのですか?」


 職員が意地悪ではなく、心配からそう言ったことは理解できた。

 けれど、何の依頼を受けるかはすでに相談して決めていたし、内容を聞く限り無理、というわけでもなさそうだという話になった。

 本当に無理なものはそもそもオーグリーだって提案しない。

 今回受けようとしている依頼の他にも依頼票掲示板には塩漬けにされてしまっている依頼がいくつかあったが、見るからに無理そうなものばかりだ。

 火竜の涙を採取して来いとか、クラーケンが守る海底洞窟の最深部にある鉱石をとってこいとか。

 金級や白金(プラチナ)級の冒険者であっても尻込みするのではないか、という依頼である。

 流石に神銀(ミスリル)級であれば可能だとは思うが、ここ王都であっても神銀(ミスリル)級の冒険者はいない。

 神銀(ミスリル)級の冒険者の大半はどこかの土地に居つくことはなく、常に様々な土地を飛び回っているものだ。

 一応、今の時点で居場所を確認できている神銀(ミスリル)級はレルムッド帝国と、アルス聖国にいる二人だけだ。

 その他はどこにいるのか分からない……ということになっている。

 実際はどこかの国が抱えていて、秘匿していると言う可能性も考えられるが、それについては俺のようなただの冒険者には調べようがない話だ。


 ともあれ、オーグリーは職員の質問に答える。


「あぁ、問題ないよ。確かに簡単な依頼でないことは分かっているけど、この二人はこういうことが得意な方でね。僕も二人が王都に来なければ受けようとは思わなかったけど、手が空いているということだし、ちょうどいいと思ったのさ」


「そうなのですか……? 分かりました。では、受注手続きをしましょう。それと、これらの依頼については依頼に失敗してもペナルティは特にありませんので、その点の心配は無用です」


「分かってる。それもあって、選んだからね」


 職員の言葉にオーグリーが頷いて答える。

 彼も、リスクについてはよく考えた上での依頼は選んだ、ということなのだろう。

 もちろん、だからと言って初めから失敗するつもりで挑むわけではないが、失敗しても冒険者の不利益にならないような取り扱いになっているのならありがたくはある。

 冒険者組合(ギルド)という組織は基本的に来るもの拒まずな部分が強いため、様々な人物が所属している影響で、依頼の達成率についての規則はかなり緩くなっており、失敗を続けても除名される、ということは少ない。

 これには、そんなに多くの失敗を重ねるような奴はそもそも除名される基準に至る前に死ぬ、という直視したくない現実もあるわけだが、そもそも条件が緩いというのも大きい。

 ただ、それでもあまりにも失敗を続けていると、冒険者組合(ギルド)からの心証が悪くなって、昇格試験にも影響すると言われているし、また、何か実入りの良さそうな依頼が入ったとしても教えてくれなかったりする。

 依頼は、依頼票掲示板に張られているものだけではなく、冒険者組合(ギルド)が冒険者を選定した上で振るものもあるのだ。

 だから、物の分かっている冒険者は、依頼の達成率についてはかなり気にしている。

 つまり、職員の台詞は、失敗してもその達成率の計算上除外する、という意味である。

 そう言った依頼はたまにあり、たとえば、今回のような長く塩漬けになっている依頼や、そもそも達成されることが想定されていない高難易度の依頼などだ。

 もちろん、達成できた場合には評価されるわけだが、だからと言って率先して受けるような者が多くないのは、時間と命の無駄になる可能性が高いからである。

 ちなみに俺たちがこれから受けるのは、時間の無駄の方だな。


「そうですか……でしたら、これ以上言うことはありません」


 頷きながら、職員は手元の魔道具や書類を処理し、言った。


「……はい。手続きが完了しました。どうぞ、お気をつけて。依頼の達成を祈っております」


 その言葉に俺たちは頷いて、冒険者組合(ギルド)を後にした。


 ◇◆◇◆◇


 王都と言えど、その街を覆うように作られた外壁の外側には広大な自然が広がっていることは言うまでもない。

 もちろん、王都近郊については、定期的に騎士団や冒険者が魔物を間引きしているため、弱いものでも魔物が大量発生することはほとんどないが、しかしだからと言って絶対安全であるというわけでもない。

 王都から半日も離れれば、そこはもう、その管理から外れた空間になる。

 つまりは……。


「レント! そっち行ったよ!」


「あぁ!」


 王都の外には危険が一杯だと言うことだ。

 もちろん、俺はオーグリーに言われるまでもなく、後ろから迫る気配に振り返り、剣を振りかぶった。

 目の前には少し大きめというか、ほっそりとした体形の、緑色の体皮を持った魔物が粗末な武器を持ってかけてきているところだった。

 ホブゴブリン、と呼ばれる魔物の一体であり、通常のゴブリンよりも一回り体が大きくなり、体型も人に近くなっている。

 通常のゴブリンが存在進化を経るとこれになるだろう、と推測されているが、本当のところは分からない。

 魔物が存在進化するところなど、滅多に見られるものではないからだ。

 俺の場合は自分で経験しているわけだが……ただ、屍食鬼(グール)のあと、吸血鬼ヴァンパイアになるはずだとされていたのによくわからないものへと進化している。

 人の学者の立てた予測が全部正しいと言うわけでもない。

 小鼠(プチ・スリ)の存在進化のように、複数ルートがある場合も少なくないだろうし、魔物の存在進化はかなり複雑で奥が深いものなのだろう。

 ただ、それでもホブゴブリンについては素直にゴブリンが進化したものなのだろうな、と思える。

 通常ゴブリンが普通に成長したらなりそうな姿だし、能力的にもわずかに敏捷性が上がり、また多少計画的な思考が出来るようになっただけに過ぎないからだ。

 つまりは、さして強くないわけで……。


 俺が振り下ろした剣は何の抵抗も受けることなく、するりとホブゴブリンの首筋に入り、その首を飛ばすと、ホブゴブリンの体は走って来た勢いのまま地面に擦れるように崩れ落ち、ぴくりとも動かなくなったのだった。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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[一言] コミカライズから小説をよみはじめてものです。 あっと言う間にここまで読んでおります。 非常に読みやすく、更についつい声に出して笑ってしまうコミカルさ このご時世、家にいることが多いのですが …
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