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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第390話 塔と学院、王都の宿

「やっぱりマルトと違って大きいよなぁ」

 

 馬車が宿に向かって進む中、幌からちらりと顔を出しつつ、夕闇に呑まれつつある王都ヴィステルヤの景色を見ていると、ついそんな声が出てしまう。

 ヤーラン王国は田舎国家だが、それでも首都というのは他の地方都市とは比べものにならないほどに栄えているのだなと感じてしまうからだ。

 まぁ、比べる相手が辺境都市マルトなので、落差が大きすぎるというのもあるかもしれないが。

 マルトもマルトで、辺境ながら、それなりに頑張ってはいる街ではある。

 人口もそこそこだし、迷宮もあるしで、悪くはない街なのだ。

 ただ、それでも王都と比べると……。


「それはそうだろうとも。ただ、私はマルトの方が好きだがな。ヤーランの王都は確かに栄えてはいるのだが……帝都を思い出してしまう」


 ロレーヌがそう言ったので、俺はああ、そういえば、と以前した話を思い出す。


「色々あったって話をしてたもんな……とはいえ、ここはヤーランだ。帝国と違って、そこまであくせくした雰囲気はないだろう?」


 ロレーヌは帝国において、そこそこエリートで、大学の学長の地位を争って疲れてしまった、という話をしていた。

 学問の相当に進んでいる帝国らしいが、ヤーランでは、ある意味そういう華々しい話はあまりない。

 せいぜいが、《塔》と《学院》の連中が小さくやっているくらいだろう。

 《塔》や《学院》の中にいたらかなり大変に感じるのかもしれないが、帝国のそれとは規模が異なる。

 そう考えての俺の言葉に、ロレーヌは頷いて、


「確かにな。マルトもそうだが、この国はどの街に行っても流れる空気は緩やかだ。それはここでも同じようだ……」


 俺から見ればヤーランの王都ですら都会だが、ロレーヌから見るとやっぱり少し、田舎に見えるらしい。

 ただ、そのことが多少でもロレーヌの気持ちを軽くしているのなら、いいことだろう。

 たまには役に立つな、このど田舎ヤーラン王国も、と思った俺であった。


「……到着しました。どうぞ宿の方へ。私は別の場所に泊まりますので、お帰りの際は声をかけてください」


 御者がそう言ったので、俺たちは馬車から降りる。

 ちなみに、宿まで運んできてくれた御者だが、彼と馬車は別の場所に泊まる。

 というのも、流石にここに馬車は置けないし、引いている馬も特殊だから、専門の設備があるところでなければならないからだ。

 そういうのも含めて、かなりの経費のかかる馬車であったわけだが、そのあたりの金はウルフの……というか、マルト冒険者組合ギルドの懐からでているのだろうし気にしない。

 マルトまで帰るときも同じ馬車に乗るので、滞在費もかかるだろうが……だいぶ奮発してくれたものだよな。


「レント、行くぞ」


 ロレーヌがそう声をかけ、宿まで歩き出す。

 俺も頷いて、宿に向かった。


 ◆◇◆◇◆


「……はい、お二人でご宿泊ですね。どうぞこちらへ」


 そう言われて、素直についていくと、


「……聞かれもせず、すんなりと同室に案内されたな」


 ロレーヌがそうつぶやいた。

 もうすでに部屋に案内してくれた女中はおらず、ここにいるのは俺とロレーヌだけである。

 ちなみにエーデルだが、奴はマルトに置いてきた。

 別に仲間外れにしたわけではなく、王都ヴィステルヤはマルトよりも警戒が厳しい都市であり、しかも今回は王城まで行く予定だからな。

 まるきり魔物のエーデルがいると、問題があるかもしれない、と思ってのことだ。

 従魔師テイマーであるから魔物を連れているだけだ、とは言えなくはないのだが、王都はマルトと違って都会である。

 本職の従魔師テイマーが結構な数、いるはずで、そういう奴らによくよく観察されたりするとボロがでる可能性も低くなかった。

 こんなことなら、ハトハラーの義父に色々と従魔師テイマーの常識や技術について尋ねておくのだったが、まぁ、それはまた今度でいいだろう。というか、あの人もあの人で、結構おかしなものを従えているからな。教えてもらって、果たしてそれが本当に常識にあたるものなのか疑わしいことを考えれば、今回はこの判断で間違いはないと思う。

 

「……姉弟か、夫婦にでも見えたんだろうな」


 俺がロレーヌにそう答えると、ロレーヌは笑って、


「夫婦はともかく、姉弟はな……見た目、全く似てないだろう」


「確かに」


 もともと、俺の顔とロレーヌの顔は似ても似つかないのは当然の話だが、それ以上に今の俺は骸骨仮面である。

 これでよく似ていらっしゃいますね、お二人とも、なんていう女中がいたらお前の目は節穴かとつっこまずにはいられない。

 十中八九、夫婦の方だろうが……。


「そんな雰囲気だしてたか?」

 

 と俺が尋ねると、ロレーヌは少し考えてから、


「出していないと思うが……どうだろうな? そういうものは外側からみないとわからん」


 と冷静な意見を述べる。

 それから、俺は一応、これは言っておいた方がいいのかな、と思って、


「……別の部屋にしてもらえるように、頼んでくるか?」


 と尋ねたが、ロレーヌは呆れたように眉根をしかめ、


「元々同じ家で生活しているのだ。同室でも対して変わりはあるまい?」


 と答えた。

 警戒心とかないのか、と思うが、そもそもロレーヌは強力な魔術師である。

 その辺の男など、杖一本あればどうにでも出来てしまう。

 もちろん、俺もどうにかされるレベルの方だ。

 流石に今は一撃でほふられる、ということはないだろうが……まぁ、勝てないな。

 そもそも、ロレーヌの言うとおり、同じ家で生活しているのだ。

 同室でもマルトでの生活となにも変わらないと思っていたのは俺も同じである。

 

「そうだな。一応聞いてみただけだ。ところで、ベッドはどっちがどっちを使う?」


 流石に寝台は二つあったので、そう尋ねる。

 ロレーヌはこれについて、窓際の方を所望したので、俺は壁を見ながら眠る羽目になった。

 もともと、大して眠れない体質なので、大半は起きて読書していたけどな。

 

 さて、今日は休んで、明日からはしっかりと活動しなければならない。

 まずは冒険者組合ギルドに向かうことになるが……いや、でもお土産を先に買った方がいいのかな?

 その辺はロレーヌが起きたら相談することにするか……。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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[気になる点] いつまでレント君は弱いままを受け入れるのか疑問 目標までの足枷だった才能のなさが解消されたのならもう少し貪欲になってもおかしくないかと...
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