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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第388話 閑話 望まぬ不死の迷宮管理人(後)

「……こ、これでどうでしょうか!?」


 リナが疲労困憊の様子で、しかし少し期待をにじませた表情で叫んだ。

 彼女の目の前には空中に浮かぶ透明な板のようなものが浮かんでおり、そこには地図が映し出されている。

 もちろん、その地図はここ、《死者の迷宮》の地図である。

 至る所に魔物の名称や罠の設置地点が記載してあり、それがリナの構成したものだということが分かる。

 それを今、難しそうな顔をして見ているのはラウ……じゃなかった、女王クイーンである。

 隣に立つイザー……執事バトラーと何事か話し合いながら、頷き合っている。

 まるで部下の仕事について評価し合う上司のようであった。

 ……まぁ、まさにそのようなものなのだろうが。

 ラウラはいくつも迷宮持ってるらしいしな。

 プロだろう。


 そして、しばらくしてから、彼女は頷き、言った。


「……中々えげつない構成になっていて、非常によろしいです。これならば、適度に冒険者を呼び込むことが出来ますし、かといって全滅させることもなく、長く細く搾り取れることでしょう。何も教えていないのに、これだけのものを作るその狡猾さ……期待の新人が、ここに誕生しましたね……!!」


 絶賛であった。

 俺もついでにその地図を覗いてみると、確かに結構えげつない感じがした。

 十年迷宮に潜ってきた俺だが、その俺をして、初見であれば見逃しそうな地点にちょうど罠があったりする。

 魔物の配置についても、かなりやな感じだ。

 俺は初めて知ったのだが、どうやら迷宮には階層ごとに出現させられる魔物の量や質に限界があるようであった。

 罠もそうだが……全体的に、一定のコストが設定されていて、それを消費しながら作り上げていく、そんな作業工程になっていた。

 だから、とにかく無限に魔物や罠をおいていけばいい、というものでもなく、一種のセンスが必要な仕事なのである。

 けれど、リナは初めてとは思えない手腕を発揮しているのだ……迷宮管理人が彼女の天職なのかもしれない。

 職なのかどうか、あれだが……。


「ほ、本当ですか!? よかった……これで目標は達成できるでしょうか? 千キルは……」


「ええ。時間をかければ大丈夫だと思いますよ。もちろん、その間には色々な困難があるでしょうけれど、ここには我々、四天王がいるのです。大船に乗ったつもりで、頑張っていきましょう!」


「はいっ!」


 ……二人の会話が、とてつもなく不穏だった。

 ってかリナ、キルとか普通に言ってるなよ……。

 もちろん、そんなつっこみは二人には届かない。

 届くはずがない……。

 

 ◆◇◆◇◆


 ヤーラン王国の西方には数多くの国がある。

 特に有名かつ巨大なのは、帝国、と言われるレルムッド帝国であるが、それ以外にも様々な小国がぽつぽつと存在しているのだ。

 そんな小国の一つに、クルーブ王国、という国があった。

 王政をとるが、国王の権力はさほどではなく、かといって貴族たちの中にも抜きんでたものがいるわけでもないという中途半端な国である。

 国王を含め、国の有力者たちで合議して政策を決めているわけだが、誰も自分の主張を強引に進めることが出来ないので、結果として平穏な国体を築いていた。

 そんな王国の会議で、一つの議題について話し合われていた。


「……では、次じゃ。新しく見つかった迷宮がある。ラントの近郊なのじゃが……扱いはどうしたものかのう?」


 国王がそう口にすると、ラント、と呼ばれる都市をその領地にしている貴族、エルファ伯爵が四十代半ばの、その男盛りの顔に難しそうな表情を浮かべてで返答する。


「……迷宮は、様々なものを産出する、宝の山でありますゆえ……その管理は国が行うべきものと愚考いたしますが……」


 他の国であれば、その領地内に迷宮が出現すれば、その領主が所有権を主張するものだが、この国は少々毛色が違った。

 そこには様々な理由があるが、長い間、変化の少ないこの国で育った貴族たちは皆、波風を立てることを嫌う。

 他者と大きな差が出来ることも。

 それが、自分が大きくなることによって出来たものであってもだ。

 だからこその伯爵の言葉だった。

 これに国王は頷き、


「うむ……もちろん、伯爵の領内で見つかったものであるのじゃから、使用料や産出物についての税などについては、伯爵に支払われるべきじゃが、迷宮はその管理を怠った場合の、"海嘯"の危険があるからのう。国として、それには対応せねばならん……。冒険者組合ギルドにも、その間引きを頼みたいと思うが、いかがか?」


 これに答えたのは、クループ王国総冒険者組合長グランドギルドマスターのフェイ、という男だった。かなり若い男である。

 なにせ総冒険者組合長グランドギルドマスターと言っても、このクループ王国の冒険者組合ギルドはさほど大きくなく、所属している冒険者たちの実力も低い。

 強いものたちは帝国に流れるし、冒険を求める者はもっと辺境へと進んでいくからだ。

 クループ王国は、良くも悪くも退屈な国なのである。

 そんな国に、新たな迷宮が見つかった。

 これは大変な発見であるが、しかし、冒険者組合ギルドにとっては大きな責任が生まれたということと同義でもある。

 一体いつからそこにあったのかは分からないが、長く放置された迷宮というのは魔素が異常に溜まっていて、魔物が大量に湧出している可能性があり、魔物の大量発生である"海嘯"の危険がかなり高い状態にあると考えれるからだ。

 冒険者組合ギルドの総力を挙げ、対応していかなければならないな、と心の中で考えながら、フェイは言う。


「……かしこまりました、国王陛下。ついては、まず、調査から始めねばなりません。伯爵、こちらで選出した冒険者を派遣しても?」


「構わぬ。よろしく頼む、フェイ殿」


 ◆◇◆◇◆


「……お、とうとう初冒険者がきましたね!」


 リナの前の透明な板に、ぴこーん、と青い点が表示されたのが見えた。

 入り口からであり、これは間違いなく外部からの侵入者である。

 ちなみに、地図に表示されている点は青以外に、赤や黄色もある。

 赤が魔物で、黄色が俺たち四天王とリナだ。

 

「そのようですね……よし、ちょっと映像を見ましょう」


 そういって、横合いから女王クイーンが手を出し、透明な板──彼女曰く、コンソールというらしい──を操っていく……。

 すると、ブン、という音がして、それからそこに迷宮入り口が映し出された。

 

「おぉ、これはすごいな……。しかし、視点が動いてるけど、どうやって……」


 定点から映像をとり、そしてそれを遠くに映し出すことが出来る魔道具、というのが存在しているというのは知っていた。

 飛空艇にはついているからな。

 しかし、これはそうではない。

 これに女王クイーンは、


「我らが四天王、悪戯鼠の部下たちの目に映った視界をそのままここに繋いでいるのである。いやはや、さすがは四天王、相当に有能で助かりますわ」


 などと言っている。

 エーデ……じゃなかった、悪戯鼠の能力は情報関係に特化しているからな。

 視界の共有は確かにおれでも出来るわけだが……それをさらに迷宮の仕組みと繋いでいるということだろう。

 俺を抜きにどうやってそんなことをしているのか疑問だが、女王クイーンだしな……言っても仕方がないかもしれなかった。


「あっ、魔物と戦い始めましたよ!」


 リナがそう声をあげる。

 確かに映像を見ると、入ってきた冒険者たち──全部で四人──が、入り口に配置していた骨人スケルトンと戦い始めた。

 見るに、危なげのない戦いぶりであったが、さほどの実力者、という感じでもなさそうだった。

 そこそこ時間をかけて戦い、骨人全員を倒した彼らは、少しずつ、慎重に迷宮を進み始めた。

 そして、彼らの正体がなんとなく分かったのはそこからだった。

 彼らは迷宮に設置されたいやらしい罠の数々に、一つもかからなかったからだ。

 進みがゆっくりだ、と思ったが、それは、罠をよくよく注意していたからだったようだ。


「なるほど、彼らは専門の斥候のようですね……となると、ここははっきりとここの自治体……領主か国に発見されたことになります」


 執事バトラーがそうつぶやいた。


「それはだめなのか?」


 むしろがんがん冒険者を送ってくれそうでいいと思うのだが。

 しかしこれには女王クイーンが難しそうな顔で、


「だめと言うこともないのですが……本来はもっと、少しずつ冒険者を入れて、評判をあげていって迷宮の格をあげていく予定でした。こうなると……初めから強力な冒険者が来てしまうかもしれませんからね。おもしろくないです」


「なるほど」


 言いたいことはわからんでもなかった。

 徐々に冒険者が強くなるようにして、リナと迷宮のレベルアップを図ろうと、そういうつもりだったのだろう。

 しかし、それも厳しい、ということかな。


「あっ、もう戻るみたいですよ」


 リナがそういうと、映像に映っていた冒険者たちが入り口に戻るところだった。

 あまり深く入らなかったのは、用心のためだろう。

 "冒険"者ではない、とは思ってしまうが、しかし、調査をする者としてはいい判断だろうと思った。

 それを見ながら、顎を押さえていた女王クイーンは、


「……ちょっと出てきますね」


 そういって、そのまま姿を消す。

 一体どこへ、と尋ねる暇もなかった。

 仕方なく、執事バトラーに尋ねるも、首を傾げられてしまったので、俺たちは彼女の行方を聞くのを諦めた。


 ◆◇◆◇◆


「……ただいま戻りました」


 数刻ほどして、女王クイーンが戻ってきた。

 どこに行ってきたんだ、と俺もリナも尋ねようとしたが、その前に彼女が、


「ちょっと、今回はここまでにしましょう。お二人の意識をあまり奪いすぎると、現実(・・)の方にも影響が出てしまうかもしれませんからね」

 

 そう言って俺とリナ、それからエーデルに向かって手を向ける。

 すると体が動かなくなり、そして地面に巨大な魔法陣が展開された。

 転移陣である。


「え、ちょっ、ど、どういう……」


 尋ねようと声をあげる俺とリナ。

 しかし女王クイーンは、


「次は、また、聖誕祭にでも集まることにいたしましょう。イヴではありませんよ。それまでに色々と仕込みをしておきますからね」


 と訳のわからないことを言う。

 そして、あたりが光で包まれ……。


 ◆◇◆◇◆


「……ここは……」


 気づけば、そこは馬車の中だった。


「レント。起きたか。一体どうしたんだ? 突然気を失ったみたいだが」


 隣で不思議そうなロレーヌに俺はなんと返せばいいのか迷う。

 何か大事なことがあったような気がするが、思い出せない。

 ……まぁ、思い出せないのだから、いいのか?


「いや。疲れてたのかもな……」


「不死者のお前がか? そういうこともあるのだな……」

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― 新着の感想 ―
[一言] この閑話の続きって結局無いなったのかな?
[気になる点] 書籍化の時省かれてましたね
[一言] 死者の日?ハロウィンじゃ、、、って思ったけどほんとに死者の日ってあったんだ笑 あと、本編と繋がりなくて笑う
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