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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第13章 数々の秘密
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第364話 数々の秘密と死因

 ……なんだが、《分化》が終わってその感想を尋ねたら、イザークに呆れたような表情をされた。

 何かが良くなかったのか、と思ったが、別にそういうわけではないらしく、むしろ、良くできていた方だと言う。

 ではなぜ、そんな顔をするのか、と尋ねれば、俺が先ほどやったような複数の動物や植物への《分化》というのが極めて珍しいこと、そして初めから全身を《分化》させ、それを制御しきる、ということもまた、かなり珍しいことだからだという話だった。

 複数の動植物への《分化》はともかく、《分化》したあとの体の制御については、魔術や気の制御とかなり似ていて、かなり小さな力しかを持たないがゆえに細かい制御力ばかり磨いてきた俺にとってはむしろかなり楽なものだった。

 まぁ、それでも視点や意識が分かれていく感覚は何とも言えないものがあったが、いくら分かれた、と言っても結局すべてが俺なのだから、意識を統合するのはそこまで大変でもなかった。

 なんというかな、全体を統括する大きな意識のもとに、他の全てがまとまる様にしたという感じだろうか。

 どうやって、と聞かれるとそういう風にイメージしたとしか言いようがないので他人に理解させるのは難しい、と思ったのだが、ロレーヌは、


「なるほど、沢山ある自分の意識を指揮官と兵士に分けて、全体の判断を指揮官の方に任せたという感じか。確かにそういうことが出来るのなら、いくつ意識が分かれてもバラバラにならずに済みそうだ。ただ、それぞれの兵士が勝手に動き出すようなこともありそうに思えるが……」


 とすぐに理解してイザークに尋ねる。

 するとイザークは、


「《分化》の制御法としては一般的ですね。他にも色々とありますが、最も容易で効率的でもあります。ただ、おっしゃるように《分化》した体の一部が勝手に動き出すこともあるので、体全体を《分化》する場合には厳しい方法ですが……そこはレントさんは強い意志と制御力で押し切った、ということでしょう。本来、体を二つ三つに《分化》した場合に使う方法ですよ」


 と説明した。

 つまりあれだな。

 部分的な《分化》の制御のときに、まだ人として存在している体の方を指揮官として、《分化》した体を兵士として制御するときに使う方法ということだろう。

 全身を《分化》するときにはロレーヌが指摘したような問題があるのでふさわしくはない、と。

 でも出来てしまったからなぁ。

 

「リナさんは今のやり方を真似しない方がいいですよ。貴方はコツコツ基本を身に着けてください。レントさんのように特殊な例は参考になりません」


 イザークは懇々とリナにそんなことを言っている。

 それに対してリナは、


「わ、分かりました……それにそもそも、マネできるとは思ってないですよ!」


 とちょっとショックな台詞を言う。

 なんだその人を変態みたいな言い方は。

 とか思ったからだ。

 ……でもまぁ、色々とおかしいのは事実だからな。

 骸骨になって吸血鬼になったと思ったらよくわからない何かだった、みたいな謎な人生ならぬ魔物生を歩いている俺に、俺は普通の人間だ、なんていう資格はなさそうだと自覚している。


 ただ、現実的にはリナも魔物だけどね。

 仲間だけどね。


 とか言ったら泣きそうだからそこまでは言わないでやることにしてやった。


「ま、ともかくこれでレントもいっぱしの吸血鬼ヴァンパイアだな? もともと相当死ににくかったのが、ほぼ不死身みたいな体になったと考えて良さそうだ」


 ロレーヌがそう言った。

 もともと耐久力、という意味では《分化》出来ずとも切られても再生し続ける体だったからな。

 普通の人間と比べると相当に死ににくい体だったが、《分化》によって仮に腕や頭が消滅するような攻撃を受けても再生できるようになってしまったわけだ。

 ……どんどん人間から遠ざかってるな。

 俺の目的って人間に戻ることじゃなかったっけ?

 と思わないでもないが、その方法を見つけるまでは死ににくい方が良いわけだし、ここは割り切るしかないだろう。


「確かに、そう易々と消滅することはなくなったでしょうけれど、あまり油断するのもお勧めしませんよ。先ほど私が申し上げました通り、吸血鬼ヴァンパイアに深刻なダメージを与える手段というのはいくつか存在していますから、どんな攻撃でも受けても平気、みたいな感覚でいますと危険です。なりたての吸血鬼ヴァンパイアの最も多い消滅原因は、《危機感の消失》に基づくものですから」


 イザークがそう言ったので、ロレーヌが首を傾げて、


「たとえばどのようなことだろうか?」


 と尋ねる。

 イザークは言う。


「切られても突かれても死なないからと、好き勝手に暴れまわった結果、早いうちに聖術使いに目をつけられて逃げることも出来ずに消滅、というのが多いでしょうか。聖気宿る武具で攻撃されても即座に消滅するということはないのですが、通常の武具で攻撃されるより遥かに削られているのが肌で分かりますから、焦りや混乱が強くなり、さしたる抵抗も出来ずに終わってしまう訳です。吸血鬼ヴァンパイアとして悲惨な消滅のし方のうち、上から数えた方が早いものですね」


 ……冒険者でも似たようなことはあるしな。

 たとえば、クラスが上がった直後の冒険者が、強くなったと勘違いして迷宮の深すぎるところに潜り、そして死んでしまったりとか。

 その辺りの感覚というか、事情は吸血鬼ヴァンパイアも人も変わらないと言うことだろう。

 しかし、悲惨な消滅のし方のうち、上から数えた方が早い、ということはもっと悲惨なものもあるということか。

 まぁ、ほとんど不死身なわけだし、色々と苦しめ方はあるだろうからな。

 そう言うことを考えると……色々ありそうだ。

 考えるのはやめよう。

 いやだ。


「とにもかくにも、《分化》が出来るようになったからって余裕でいるのは間違いって訳だ……気を付けることにしよう」


 俺がしみじみとそう呟くと、イザークも頷いて、


「ええ、それがいいでしょう。それが長生きのコツです。さて、《分化》についてはこれでいいでしょうが、他にも吸血鬼ヴァンパイアの技能はあります。このまま教えたいところですが、まず《分化》について完璧に身に付けてからにした方がいいので、また今度、ということにしましょう」


 そう言ったので、俺は首を傾げる。

 教わるならまとめて教わった方がいいような気がするからだ。

 するとイザークは、


「気持ちは分かりますが、《分化》がある程度しっかりと出来ていることを前提とする技術もいくつかありますので。それ以外のものにしても、一気に一夜漬けのように叩き込むと、かえって疎かになってしまうでしょうから。リナさんの場合は、単純に今日はこれ以上は無理そうだ、というのもありますからね」


 そう言った。

 確かにいずれも頷ける理由である。

 ここは残念だが、またの機会にということにしておくのがいいだろう。

 俺もそれなりに《分化》は出来たとはいえ、完ぺきとは言い難いからな。

 イザークが言うには、慣れさえすれば、大した集中をしなくても出来るようになるのだと言うし。

 そうでなければ戦闘に使うのは厳しいだろうからな。

 しばらくは、リナと一緒に訓練、ということになるだろう。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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