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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第13章 数々の秘密
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第343話 数々の秘密と魔力量

吸血鬼ヴァンパイアの生態について、もっと色々と尋ねたいところだが、それは後にしておこうか。ともかく、リナの感覚は吸血鬼ヴァンパイアになったことによる影響と、元々ショックを受けるという段階はすでに通り過ぎていたから、という感じだな。リナが酷く取り乱すようなタイプでなくて、よかったよ」


 ロレーヌがそう言った。

 リナが首を傾げて、


「私が取り乱していたらどうしてましたか?」


 と尋ねる。

 するとロレーヌは、


「……話して分かるなら、根気よく話しただろう。そもそも、いきなり吸血鬼ヴァンパイアになったんだ。ある程度は取り乱して当然だ。だが、そのあと、街に出て自分が吸血鬼ヴァンパイアになった、とか喧伝するようなことをしかねなかったら……」


「しかねなかったら?」


「……排除していたかもな。その場合は私たちにとって有害だ。仕方がない」


 そう言った時のロレーヌは、至極自然で、何も気負っているところがなかった。

 そのことがむしろ恐ろしい。

 情がないわけではないが、その情はひどく合理的な部分がある。

 割り切りが早く、二択しかなかったら重要な方を即座に選んでもう片方は切り捨てる、ということが出来る性格なのだ。

 この場合は……俺とリナ、どっちを選ぶか、ということだろうな。

 別にリナがいらないとか邪魔だとか思っているわけではないだろう。

 しかしどうしようもない場合には、それで仕方がない、となるということだ。

 リナがポジティブな性格をしていて良かった……。


 そしてこんなことを言われたら普通は、ひどい!となりそうなところだが、リナも割とその辺りの感覚が普通とは違うようだ。

 吸血鬼ヴァンパイアになった影響である、感情の起伏の低下に基づくものだろうか。

 リナはロレーヌに至極冷静に言う。


「なるほど、でも、そんなことするものですか? 吸血鬼ヴァンパイアになった!なんて街で喧伝してたらすぐに捕まるか殺されるかしちゃうじゃないですか。私、死にたくありませんよ……不死者(アンデッド)が生きてるか死んでるかは微妙ですが……」


「確かにな。ただ、教会なんかに行けばどうにかしてもらえる、とか考えるおめでたい頭の者もいるからな。ありえないとは言い切れん」


「あー……確かに。それはありそうですね……」


 実際、ロレーヌの言う通り、自分が不死者アンデッドになったら、教会に行けば直してもらえるんじゃないか、と思う人間は決して少なくないだろう。

 宗教団体は不死者(アンデッド)について不浄なるものとして扱っており、そしてそれを浄化できる聖術を使える聖者たちがいるわけだからな。

 その力に縋れば元に戻れるんじゃないか、と思うのは何も突飛な思考という訳ではない。

 ただ、現実にはそれは無理だ。

 聖者や聖女の言う浄化とは、つまりこの世からの完全消滅であって、魔物から人間に戻す技法ではないのである。

 憑依しかけの悪霊とか、そういったものであれば戻れる可能性はあるだろうが、体が完全に魔物に変わってしまっている場合には……俺の知る限り元に戻る方法はないとされている。

 だから行っても無駄なのだ。

 むしろ、断頭台に自ら進んで首を差し出すような真似に近い。

 それはリナも分かっているようで、


「私はそんなこと絶対にしないので安心して下さい」


「そのようだな。ま、それならうまくやっていけそうだ……っと、大分話が逸れたな。リナの魔術を見るのだった。呪文の方は分かったな?」


「はい……ただ、あんな威力出せる自信はありませんけど」


「なくていいんだ。発動させる自信は?」


「それは大丈夫です。剣士として、魔力は身体強化や武器の強化にばかり使ってきましたけど、初歩魔術くらいなら……それ以上となるとちょっとあれなんですけど」


「ちょっとあれとは?」


「私、騎士である兄にずっと武術を学んできたもので……剣術に関わる強化ならともかく、それ以外の魔術の方は、あまり教わってないんです。だから初歩魔術くらいしか……」


 リナの兄と言えばヤーラン王国第一騎士団に所属している、イドレス・ローグだったか。

 彼は今、王都に戻って仕事をしているのだろうが、彼のこと……というか、リナの家族のことも考えなければならないなとそれで思う。

 娘なり妹なりがいきなり吸血鬼ヴァンパイアに、なんてことになっていたら、大問題だろうからな……。

 あとでその辺りをどうするか聞かなければならない。

 

「ふむ、騎士か。ヤーランの騎士がどれだけのことを出来るかは分からんが、帝国騎士なら魔術であれば中級程度は修めているのが普通だったかな……ま、使えるなら問題ないだろう。では、やってみろ」


 ロレーヌがそう言ったので、リナは前に出る。

 俺とイザークはそこから少し離れて見守る。

 俺のときのようなことにはたぶんならないとは思うが……絶対とは言い切れないからな。

 そして、リナは呪文を口にする。


「……火よ、我が魔力を糧にして、ここに顕現せよ……《点火アリュマージュ》!」


 すると、リナの手の平の先から、ぼう、と親指ほどの大きさの火が噴き出る。


「……普通だな」


 ロレーヌがそう言い、続けてイザークも、


「普通ですね」


 と頷いた。

 別に期待外れという訳でもないが、なんとなくそんな雰囲気が漂ってしまったのは、俺がおかしな結果を出してしまったからにほかならず、申し訳ない気分になる。

 しばらくして、火が消えた後、ロレーヌはリナに尋ねた。


「魔術を使ってみてどんな感じだった? やはり、以前とは違うか?」


「あんまり疲れないなって思います。魔力も減った感じはしないです」


「……確かに、魔力量は多いな。下級吸血鬼レッサー・ヴァンパイアの魔力量がどの程度なら普通なのかは分からないが……イザーク殿?」


「そうですね……生活魔術程度でしたら、連発しても尽きることはない、という感じでしょう。回復量も人よりかは多いので、総合してみると人族の中堅どころの魔術師くらいです」


下級吸血鬼レッサー・ヴァンパイアでそれほどなのか……それよりも上となると……やはり恐ろしいな」


 中堅どころ、なんて聞くと大したことないように聞こえるが、魔術師の攻撃力は極めて恐ろしい。

 それだけの魔力量があれば、真面目に魔術を学んで身に付けているのなら、国に仕えて十分に出世できるくらいだからな。

 まぁ、魔術を使えなければ宝の持ち腐れだが……。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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