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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第13章 数々の秘密
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第332話 数々の秘密と危機

 ダメージを受けたからなのか、それとも他に理由があるのか。

 シュミニだったその魔物は、直立体勢を止め、地面に四足をつけた。

 鰐を巨大化したような形をしているため、むしろその方が様になるというか、はっきり言ってまんま鰐になったような感じだ。

 デカいだけの鰐なんて楽勝……とか思っていると足を掬われることになるは間違いないので、俺は気を引き締める。

 十年という長い経験のなせる業だった……他の三人は言うまでもなく油断などしていないが。

 

 それから、その魔物は動き出す。

 直立していたときの動きも決して遅くはなかったが、やはりその体はどちらかというと直立よりかは今の体勢の方が向いているようである。

 地面を滑るように動き、回転し、その尻尾を叩きつけてくる速度は先ほどよりもずっと早い。

 ではなんだってさっきまで直立してたんだ、と聞きたくなるが、それはあのシュミニだった魔物にしか分からない話であろう。

 聞いても答えてくれなさそうだしな。


 ともあれ、速度を上げた魔物に切り付けようとするが、俺もイザークもうまくいかない。

 器用に斬撃を避けるのだ。

 それこそ転がったりして……イライラするな。

 そう思っていると、


「……少し離れてください!」


 と、ラウラの声が響き、そして言われた通りに俺とイザークが距離をとった瞬間、魔物のすぐ上に、真っ黒い球体が出現した。

 それは、迷宮になりかけている通路を進んでいたとき、蜥蜴人リザードマン相手にラウラが行使したそれと同じだった。

 しかし、効果は違っているようで、魔物を中心点に向かって圧縮したりはしない。

 出来ないのかしないのかは分からない。

 ただ、それが出現した瞬間、魔物は地面に縫い付けられたように動かなくなった。

 バキバキとした音も聞こえ、地面に少しめり込んでいるように見えることから、下に思い切り押し付けられているのだろう。

 今が攻撃のチャンスに思え、俺とイザークは顔を見合わせて魔物に駆けだしていく。

 そして俺とイザークが直前に達すると同時に、ラウラは黒い球体を解く。

 おそらくだが、あれは範囲にあるものすべてを地面に押し付けてしまうタイプのものなのだろう。

 だから俺とイザークがその効果範囲に入る前に、解除したのだ。

 しかし、これだけ近づけば斬撃を外したりはしない。

 俺もイザークも、魔物に向かって剣を振るい、そしてそれは先ほどまでとは異なり、しっかりと命中した。

 特にイザークの斬撃は魔物の目を一つ潰し、魔物はその痛みに叫び、転がる。

 巨体がゴロゴロと転がることによって、広間は大きく揺れた。

 まぁ、それでもすぐに再生してしまうのだろうが、攻撃の手を休めることなく押し切ればダメージを増やせるだろう、そう思って転がる魔物にさらに駆け寄った俺とイザークだったが、そこで一瞬、魔物の回転が止まる。

 ちょうど俺たちに腹を向けた格好だ。

 そして、よく観察してみると、腹に浮き出ていたシュミニの顔、先ほどまで目をつぶっていたそれの瞳がカッ、と開いており、睨みつけるようにこちらを見ていた。

 さらにその口元を見ると、何かを唱えるように動いている。

 すべては聞き取れなかったが、最後の一言だけははっきりと俺とイザークの耳に届いた。


「……《爆炎獄(ヘルズ・フレイム)》」


 その瞬間、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 広間全体を覆う巨大なもので、その効果範囲を考えるとまずいことに気づく。

 俺や他の二人はともかく、ロレーヌが……。

 そう思って彼女の方に向かおうとしたが、見ると、こちらを見つめて微笑んでいる。

 あの表情は、問題ない、という意味だと分かる。

 まぁ、魔術は彼女の本領であるし、その発動や対応については俺が心配するまでもない、ということか。

 つまり俺は自分のことを心配すべきだ。

 と言っても……どこに行っても同じなのだからどうしようもないのだが。

 とりあえず、自分の体の周りに魔術によるシールドを作った上で、気を練り上げて身体強化をしておく。

 これで、まぁ、死にはしないだろう、と思ったその瞬間、魔法陣から光が上がって、巨大な轟音と共に辺りは灼熱の炎に包まれた。

 辺りが白とわずかながらの朱色に染まり、俺が作った即席の盾を破壊していく。

 全ての盾が焼き尽くされたのち、俺の体が直接焼かれるが、気のお陰でそれほどでもなかった。

 修行しておいてよかったな……それでも顔が熱いし痛いが、盾を張っていたお陰でその時間はかなり短く終わった。


 周囲に色が戻り、炎が消えたあと、自分の体を確認してみると、ローブの外に露出していた部分はひどい火傷である。

 ローブは一切燃えてないのがすごい。火傷の方はほんの数十秒もすればすべて治ってしまった。

 周りの状態も酷く、広間全体が焼けこげていた。

 にもかかわらず、ラウラは無傷でその場にいたし、ロレーヌも特に問題なさそうだ。

 イザークは見事に焼死体になっていたが、見る見る間に再生していく。

 自分の傷が再生するのは何度か見ているが、改めて客観的に他人がそれをしているのを見ると結構グロいなと思う。

 そして気づいた時には元通りのイケメンがそこに立っていた。

 服も全部燃えたはずなのに、いつの間にか身に付けている。

 どうやったんだ……?

 と思うが今大事なのはそれではないだろう。

 

 魔物は……と思ってみてみると、そいつは天井に張り付いてこちらを見つめている。

 深く息をしていて、今の攻撃でそれなりに消費したらしい。

 ……よかった。

 連発されたら俺は持たないからな。

 ラウラとロレーヌは平気そうだが、イザークも一々焼死体になっていては厳しいだろう。

 そろそろ、決めるときが来たのではないか、と思った。

 と言っても再生し続けることにはいかんともしがたいのだが、攻めるだけ攻めていてもいいだろう。

 それでだめならそのとき考えればいい。

 あの魔物の手札は大体分かったし、底も見えたからな。

 ちょっと賭けに出てもなんとかなるだろう。

 ……楽観的過ぎかな?

 まぁ、延々と戦い続けている方がリスクが高いのだ。

 それくらいやってみてもいいだろう。


 そう思って、俺は駆け出す。

 後ろからロレーヌが呪文を唱える声がし、天井の魔物に向かって雷の魔術を放ち、そこから落とした。

 

 ……ここからだ。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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