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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第13章 数々の秘密
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第331話 数々の秘密と戦い

 最初の一撃は、イザークのものだった。

 彼は、この都市マルトの地下に造られた広大な空間全てを崩壊させてしまいそうなほどの叫び声を上げる魔物に、全く恐れることなく走り出した。

 いや、恐れはあったかもしれない。

 ただしそれは、人間よりも遥かに大きく、固く、そして強い力を持つ存在に対して感じるそれではなく、ただかつての知人――友人かも知れない――を、自らの手で滅ぼさなければならないことに対する悲しみの入り混じったものだったろう。

 今となってはなぜ、シュミニが自らの命というたった一つしかないカードを切って迷宮を作り上げ、その主の座に収まらなければならなかったのかは調べようがないが、イザークにはその理由がわずかながらに分かっているのかもしれない。

 その上で、シュミニの行為について、そんなことする必要はなかったと思いながら剣を握っている。

 愚かな行為を責めるように、そしてそこに至るまでに制止することが出来なかった自分の至らなさを想いつつ。

 そんな感じがする。

 ……考えすぎかな。

 

 ともかく、そんなイザークの踏み込みは力強く、かつ速かった。

 相手が滅多に見ないような巨体であることもあって、その動きは余計に素早く見える。

 とは言え、相手も決して巨体に振り回されて動きが緩慢、ということもない。

 むしろ、あれだけの大きさなのにも関わらず、その反応は比較的俊敏で、油断するとその口に咥えられかねない。

 また、尻尾も長くしなやかで、俺たちに叩きつけようと不規則に暴れまわっているような状況だ。

 近づくのも厳しい、そんな感じなのだが、イザークはその尻尾の叩きつけを絶妙なタイミングで避け、徐々にワニ型魔物に向かって距離を詰めていく。

 そして剣の届く距離に辿り着いた時点で、手に持った血の色を宿す大剣を振るった。


「……ギィィィィ!!」


 と、イザークから切り付けられた瞬間に、ワニ型魔物は耳障りな鳴き声を上げる。

 そしてイザークの方を向き、その巨大な口をぱかりと開いた。


「……ッ!?」


 イザークが驚いてその場から跳び、距離をとると次の瞬間、ワニ型魔物の大きく開いた口からカッ!と直線的な光が発せられ、地面を灼いた。

 火炎というよりかは光線に近く、命中したところはどろどろと溶けるように直線を描いている。

 命中すれば穴が開くな。

 ……穴が開いても俺は死なないだろうが、頭に当たるとヤバいだろう。

 しかし、連発は出来ないのか、ワニ型魔物は口を閉じ、今度はその巨体でイザークを狙って突進し始めた。

 ぎろりとした目が血走ってイザークを睨みつけている。

 生前の……というとおかしいか。

 人だった時の記憶とかが影響しているのかな?

 なんだかイザークに執着しているような感じがある。

 だとすれば、イザークには申し訳ないが行動が予測しやすくて楽だ。

 同じことを考えたのか、ロレーヌが強力だが詠唱に少し時間がかかるタイプの魔術を練り上げ始めた。

 となれば、俺がすべきことは足止めだろうな。

 そう思って、俺はワニ型魔物の方へと走る。

 振り回されている尻尾が邪魔だが、イザークに注意がいっているせいか先ほどまでよりはずっとその動きは緩慢で雑だ。

 近くまで行くのにそれほどの苦労もなく、俺は剣に魔力を込めて振るった。

 ワニ型魔物の皮膚は固く、手ごたえは結構厳しいものを伝えているが、それでも全く通らないわけではないようだ。

 俺の剣はしっかりとその皮膚を切り裂き、皮膚の奥にある肉にも入っていく感触があった。

 ただし、それほど深くは入っていないが、まぁ、初撃である。こんなところだろう、という感じだ。

 もう一撃いくか、それとも距離をとるか、少し迷ったが、自らの体を切られたことに気づいたのか、ワニ型魔物は俺に向かってその巨大な頭を下げてきたので、俺は一度その場から下がり、頭突きを避ける。

 そしてその頭の上に飛び上がり、今度は脳天に向けて剣を振り下ろした。

 さっきとは違って、ずぷり、と剣が入ってく感触がしたのは、剣に込める魔力量を上げたからだ。

 結構な消費だが、まず斬撃が通らなければ意味がないから仕方がない。

 それに、結果に結びついているのだから良しとしよう。

 しかし、頭を突き刺したのだしこれで倒せたりなんかするんじゃないかな?

 と一瞬考えたが気のせいだった。


「グルググアガウガアア!!!」


 と、鳴き声なのか叫び声なのか威嚇なのかよくわからない声を出して、ワニ型魔物はその巨体を震わせた。

 頭に乗っかっている俺を振り落とそうとしていることはよくわかったので、お望み通り降りてやることにする。

 幸い、ちょうどその背中は直角よりかは傾斜の非常にきつい坂寄りだったので、その背中を滑り降りる。

 それから少し距離をとると、ロレーヌの詠唱が終わったようで、そのもつ短杖ワンドの先から雷を纏う竜巻が放たれた。

 雷嵐(バラック・セアラー)と呼ばれる上級魔術であり、その破壊力はゴブリンの集団であれば百匹いても灰燼に帰すと言われる魔術である。

 ロレーヌが使える魔術の中でもかなり強力な方の魔術であり、いかに巨大な魔物とはいえ、無傷とはいかないはずだ。

 実際、雷嵐はワニ型魔物を包み込むと、その体を切り裂き、雷を叩き込んでいく。

 時間にすれば数十秒だが、その間に肉が焼けこげる匂いが広間に充満した。 

 中々にグロい魔術であるが、しかしあれくらいやらなければ倒せなさそうなのも事実である。


 そして、ワニ型魔物を包む雷嵐がふっとその効果時間を過ぎて消滅すると、その中からは焼けこげたその皮膚の下を晒す巨大な肉塊があった。

 倒したかな……?


 と、ちょっとだけ思ったが、


「まだです!」


 とラウラが言った瞬間、ワニ型魔物の体が再生していく。

 皮膚がまるで時間が逆に戻っていくかのように復活していき、そして最後には元通りになってしまった。

 

「まぁ、そう簡単にはいかないよな」


 俺がそう呟くと、いつの間にやら隣に来ていたイザークが言う。


「しかし、全くダメージを受けていないというわけでもないようですよ」


 彼の指さす方向を見てみると、再生しきれずに焦げたままになっている部分が目立たない位置だが存在しているのが見えた。

 

「頑張れば行けそうだな」


「ええ」


 そして、俺たちはもう一度、ワニ型魔物に向かって襲い掛かる。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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