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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第13章 数々の秘密
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第328話 数々の秘密と事態終息の方法

「……なぜそれを知っているんだ?」


 ラウラが言った台詞は、もしかしたらただのブラフだったのかもしれない。

 だとすれば、こう尋ねることは間違いなのだろうが、エーデルのことはまぁ、ばれても構わないだろう。

 同じことが出来るラウラが尋ねているのだから。

 しかも、他人にもそれを共有させることが出来るという、俺よりもずっと高度なことをだ。

 これを理由に責めたてられるいわれはない。

 そもそも、ラウラにそんなつもりがあるなら俺はマルトでまともに生活できていないだろうしな。

 かなり良くしてくれているから忘れがちだが、彼女はマルトにおいては領主に近い権力者だ。

 そんな彼女が真面目に俺のことをどうこうしようとしたら、俺にはもうマルトを出る以外に抗うすべはない。

 だから大丈夫だろう、という楽観的な気持ちもあった。


 俺の言葉にラウラは、


「……その説明には時間がかかりますので、すべて片付いた後に」


 と言った。

 さらに続けて、


「それよりも、ご覧ください。遥か下にマルトの全景が見えるでしょうが……気づくことはありませんか?」


 ここで食い下がるという選択肢もないではなかったが、今は時間がないというのも事実だ。

 あとで説明してくれる気があるというのならとりあえず置いておくことにした。

 それから、ラウラの言葉に従い、マルトの全景を眺めてみると、


「……これは、魔法陣、か……?」


 マルトの地面の一部が淡く光っている。

 それらをつなぎ合わせると、ちょうど、巨大な魔法陣が形成されているように見えたのだ。

 俺の言葉にラウラは、


「その通りです。あれは、とても古い魔法陣です。現代のそれとは大きく規模も効力も異なるもの。まさかまだ覚えている者がいるとは思いませんでしたが……」


「魔法陣……今、ここで起きているのは、大規模な魔術だということか? しかしこれほどの規模の魔術には多大なる対価が……」


 ロレーヌの声も聞こえてくる。

 なんだか視界の中に人がいないのにその人の声が普通に近くにいるように聞こえると変な感じが凄い。

 慣れないと……。

 ラウラがロレーヌの言葉に答える。


「その通りです。その対価は……皆さんご存知でしょう。屍鬼しきとなった人々、そしてその犠牲者の血、さらにそれでも足りなかった分は……」


「……シュミニが自身で補った、という訳ですね……」


 イザークの無念そうな声が聞こえる。

 ラウラは続ける。


「実際にはそれに加えて魔石や魔道具の類も色々と使ったと思われます。それだけこの魔術は発動させるのが難しいもの。しかし、彼はやりきった。やりきってしまった……」


 善悪を全く考えないのなら偉大な行いであると言えるだろう。

 しかし、街の人々が魔物になっていくなどという魔術など、許せるわけがない。

 

「だが……こんなことをして、シュミニに一体何の得があるんだ? マルトをあいつは滅ぼしたかったのか……?」


「そういうわけではなかったでしょう。この魔術の効果は、簡単に言いますと、《迷宮》を生成する、というものです。彼は、《迷宮》の主になりたかったのでしょうね……」


 ラウラがそう言った。

 

「《迷宮》の生成だと!? そんなことが魔術で出来るのか? そもそも《迷宮》とは……魔術で作られるものなのか……?」


 ロレーヌが驚きの声を上げたので、ラウラは言う。


「《迷宮》にも色々な種類がありますが、今回生成されようとしているこれは、魔術によって作り出されるタイプのものです。実際にあるのですから、出来る、というほかありませんね……」


「……けれど、だとしたらなぜ住人が魔物に……? 迷宮の魔物は、自然発生とか召喚とかで現れるんじゃなかったのか?」


 俺の質問にラウラは、


「完成された《迷宮》であれば、その通りです。ですが、先ほども言いましたが、この魔術には多大なるコストがかかります。おそらく、シュミニは考えられうるすべてを支払ったのでしょうが、それでもまだ足りなかった、ということです。しかし、魔術は発動はした。足りない分を、迷宮は周囲から取り込もうとしている……いえ、それすらもシュミニは勘定に入れて、魔術を発動させたのでしょう……見てください」


 そう言って、ラウラは鳥の視点を動かす。

 鳥が下に向かって降りようとしたが、バチリ、と雷のようなものが走って、降下出来ずに終わる。

 さらに、マルトの周囲を飛び回り、マルトの中に入ろうとするが、どの方向から、また、どの高度からマルトに向かおうとしても、やはり透明な壁のようなものに弾かれてしまう。

 

「これは……」


 俺が声を出すと、ラウラは言う。


「《迷宮》の魔術が、内部からも外部からも人の出入りを制限しているのです。魔術が完成を迎えるまで、何者も中に入ることが出来ないし、外に出ることも出来ません……」


 鳥の視点はマルトの周囲を飛び回る。


 ……マルトの中に入ろうと大声を上げ、透明な壁を叩いたり体当たりしている人々が目に入った。

 その中には見覚えのある顔もいる。

 

「せっかく戻って来たというのに、こんな壁が……! レントさん! 今行きますよ! 吸血鬼ヴァンパイア残しておいてください!」


 そんなことを叫んでいる。

 知り合いの金級冒険者に似ている気がするが……まぁ、気のせいだろう。

 いや、冗談だが、ニヴですら破れないという訳か。

 恐ろしいな。

 

「どうすればいいんだ……? シュミニだったあの魔物を倒せば、魔術は失敗に終わるんじゃないのか?」


 魔術の基本だ。

 術者が魔力を安定させられなければ、そこで魔術は失敗する。

 魔術が発動しなかったり、暴発したり、別の魔術が放たれてしまったりなど、失敗の仕方は色々だが、とにかく失敗する。

 けれどラウラは、


「この魔術は発動した時点でもはや独立して成立します。ですから、仮に術者が死亡しても、そのまま完成まで走り続けるでしょう」


 それは、もう打つ手がないということではないか?

 マルトはこのまま終わるのか?

 そう思った。

 しかしラウラは、


「……ただ、方法がないわけではありません。《迷宮》には《迷宮核》とか《コア》とか呼ばれる中心点があるのです。それを……」


「壊せばいいのか?」


 続きを予測して言ったが、ラウラは、


「……焦らないでください。壊してはダメです。そうではなく、支配する必要があります。その上で、迷宮のこれ以上の成長を止めるのです。そうすれば、この状況は沈静化するでしょう」


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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