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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第4章 水月の迷宮

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第30話 水月の迷宮の成果

「……ちょっと待ってくれ。たしかこの辺に鏡が……」


 ロレーヌがそう言って周囲を漁り始める。

 彼女も無頓着に過ぎるところがあっても女の端くれ、鏡くらいは持っているということらしい。

 そして、


「ほれ、見てみろ……いや、ずれているというのは正確ではないかもしれんが……」


 ロレーヌが俺の前に差し出した鏡を見てみると、確かにそこには、仮面の位置が変化した俺の顔が映っていた。

 いや、仮面の位置が、どころではない。


 ――仮面の形が変わっている。


 顔の全体を覆っていたはずの仮面が、今は上半分だけを覆っていて、口元はむき出しの状態だ。

 しかも。


「……はだ、が」


 ぼんやりとした声で俺がそう言ったのを、ロレーヌは頷き、


「あぁ、そうだな。いろいろあって言いそびれたが……レント。お前、見た目が変わっているぞ」


 そう言ったのだった。

 

 ◇◆◇◆◇


 その後、色々確認してみたところ、俺の容姿はかなり変わっていた。

 もちろん、仮面の形が変わった、というだけでない。

 ローブを脱いで体を見てみると、未だに枯れてはいるようなところはあるが、健康的に見えるところも出てきていた。

 生前の体の、ところどころが虫食いのように枯れている感じ、と言えば分かるだろうか。

 これなら人に体を見せても、古傷が多い、で済むかもしれない。

 まぁ、それにしては傷が大きすぎる、といわれるかもしれないが、即座にお前は屍食鬼グールだろ、とは言われないだろう。

 顔は……。


 仮面のなくなった下半分については体と同じようになっている。

 それでも、体よりは化け物感が強いと言うか、屍食鬼グールっぽい。

 健康的に見える部分もあるが、一番重要な口周りが結構酷い。

 歯茎むき出しというか……骸骨感があるというか。

 これは隠さないとダメそうだな……どうにかならないものか。


 そう思っていると、


「……お、おい!」


 ロレーヌがそう声を上げた。

 どうしたのか、と思っていると、鏡の中、顔の上半分を隠していた仮面が融けるように動き出し、今度は顔の全体を覆った。

 いつも通りの、骸骨仮面姿である。

 ……どういうことだ?


「……レント、その仮面、ただ呪われているだけではなさそうだな?」


 ロレーヌが興味深そうな視線を向けてそう言った。

 確かに、こんな妙な動きをする仮面は、ただの仮面ではないだろう。

 まぁ、呪われている時点でただの仮面ではなさそうだが。

 ロレーヌは仮面を観察しつつ、


「……今、その仮面の形が変わった時、お前、なにかしたか?」


 と尋ねてきたので、歯茎むき出しはダメそうだな、どうにかならないかな、と考えたと言った。

 すると、


「ふむ。お前の意志に従って変化したということか? ……意思ある道具か。珍しいな」


 意志ある道具

 それは、魔剣などに代表される、持ち主を自身で選ぶ武器などの、非常に特殊な無機物のことだ。

 迷宮で発見される場合が多く、現代では作ることは困難だと言われるそれは、珍品であると同時に、名品であることが多い。

 俺のつけている仮面もその類ではないか、とロレーヌは言っているわけだ。


 しかし、これはリナによれば銅貨何枚かで買ったものだぞ。

 いくら何でも意志ある道具にしては安すぎではないだろうか。

 そう、ロレーヌに言えば、


「呪われていたんだ。さっさと手放したくてその値段設定だった可能性が高い。それか……その仮面には人の意識を操る力があるということも考えられる……」


 と不気味なことを言う。

 呪われて外れないのはもう仕方がないが、意識まで操られてはたまったものではない。

 ただでさえおかしな存在になってしまったので。

 せめて自分の意思で動くくらいさせてほしい。

 とは言え、これをつけてから今に至るまで、すべて俺の意思に基づく行動だったのか、と言われると……かなり怪しい気もするが。

 ロレーヌに襲い掛かったことだしな。


 ロレーヌは仮面の観察を続ける。


「……お前の意思に従って形を変えたということは……ふと思ったんだが、もしかしたら、もう外れるんじゃないか?」


 思いついたようにそう言われて、なるほど、と思った俺は、改めて外れろと考えてみる。

 しかし、仮面はまるで外れる様子はなかった。


「引っ張ってみてもいいか?」


「あぁ……」


 ロレーヌが宣言通り、仮面の両端を持って引っ張るも、やはりくっついたように離れない。

 ロレーヌが非力、ということはないだろう。

 たしかに男よりは力がないだろうが、これで一応冒険者の端くれでもある。

 普通よりは体力があるほうだ。

 つまり、まだ仮面は俺に引っ付いて離れない、ということだ。


「ダメだな。もう一度、形を変えるように念じてみてくれるか?」


 頷いて、頭の中で仮面の形状を考えてみる。

 すると、やはり仮面は顔の上半分だけを覆うように変化した。


「他の形状には?」


 言われて色々と試してみて、明らかになったのは、仮面は全部で大まかに言って三つの形状に変化する、ということだ。

 全体を覆う形、顔の上半分、下半分のそれぞれを覆う形だ。

 それ以外も出来ないこともないが、基本的にそれ以外は出来ないようで、装飾や模様が変えられるくらいのものだった。


「……形状は変えられるが、外れることは無い、か。微妙な結果だな。まぁ、悪くはないのかな? なにせ、お前の顔はまだ、不死者(アンデッド)寄りだ」


 ロレーヌがそう言って頷く。

 実際に彼女の言っていることは正しく、俺の顔の下半分については人にさらすのは難しいだろう。

 体も全体を見せれば、やはり動いているのはおかしい、という形状をしている。

 なにせ、ただの傷ではなく、明らかにえぐれて骨が見えているような部分もあるのだ。

 血がまるで出ないのはおかしい、ということになる。

 ただ、そういったところを隠せば、今までよりはずっといいだろう。

 パッと見なら十分人間に見える、そういう容姿をしているからだ。

 それに……。


「……こえは、へんじゃないか?」


「あぁ。大分流暢になっているな……少し違和感を感じるところもないではないが、慣れの問題かな?」


「わからないが……たしかに、しゃべりやすくなっているな」


 これは非常にありがたいことだ。

 しかしそれにしても急にどうして……と疑問を感じたところで、あぁ、と思った。


「そんざい、しんか、したのか」


 俺が自分の現状にぼそりとそう呟くと、ロレーヌも頷いて、


「おそらくはそういうことだろうな。迷宮で魔物と戦ってきたからか」


 水月の迷宮に行くことはロレーヌにも言っていた。

 だからこその推測だろう。

 しかし俺はこれに首を傾げる。


「それは……どうなんだろうな。たしかに、まものとはたたかったけど……ぐーる、になったときは、まものをたおした、ちょくごにしんか、していたから……」


「……それに比べると、お前は少なくともこの家に帰って来た後に進化しているから、今までとは違うということか……私を倒したから存在進化したとか?」


「いやいや……たおしてないだろう」


「そうだな。むしろ私が倒したと言ってもいいくらいだ。あとは……あぁ、私の血と肉を口にしたか。あれが原因かもしれないな?」


 と、ロレーヌは驚くべき説を口にする。

 俺が目を見開いていると、彼女は、


「いや、それほど突拍子のない話でもないぞ。今のお前の姿を見ると……屍食鬼(グール)というよりかは、吸血鬼の眷属であるとされる屍鬼しきに似ている。下位吸血鬼レッサーヴァンパイアのさらに下の魔物だが……」


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[一言] 将来ヴァンパイアになった場合、吸血衝動を制御できるかどうかが問題ですね。盗賊など、討伐する相手に吸血可能でも、大切な存在にまで欲求が出るなら困った事になる。 リッチや不死王ではなく、ヴァンパ…
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