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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第13章 数々の秘密
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第288話 当主ラウラ・ラトゥール

 都市マルト。

 そのはずれに、巨大な庭園を抱えた古く豪奢な屋敷があります。

 当主は、初めて見る方は驚く方が多いようです。

 なにせ、その見た目は、十二、三才の、不健康そうな娘なのですから。

 身に着けているものは大抵が黒か、白の古い意匠のドレスで……。

 まぁ、マルトに昔から影響力を及ぼしている古い家の人間の癖して、かなり陰気である、と捉える方が多いだろう、と思います。

 と言っても、当主が人と会うことなど、ほとんどないのですけど。


 ちなみに、当主の名はラウラ・ラトゥールと言います。

 つまりは、私の名です。


 ◇◆◇◆◇


「なぜ! どうして協力してくれないんですか……」


 ラトゥール家の屋敷、その一室、応接室で、一人の少年が叫ぶように私にそう言っています。

 私の斜め後ろには使用人であるイザークが立ち、私と同様の瞳の色で、少年を見つめています。

 

「……そうおっしゃられましても……困ります。私とて、出来ることはするつもりはありますが……イザーク」


 そう言うと、イザークは瓶に入った赤い液体を差し出して、私に渡します。

 竜血花から採れる薬液です。

 保存が非常に難しく、竜血花が新鮮な状態のときに採取しなければ意味がないため、そうそう手に入る品ではありません。

 しかし、今の私にはとてもありがたい冒険者がいて、彼がある程度定期的に採ってきてくれます。

 まぁ、今は少しマルトから離れていますが、彼に以前渡したもの以外にも、それなりに物質の経過時間を遅くする魔道具は保有しています。

 今まで採取してきてくれた分からとった薬液で、十分にやっていけるため、問題はありません。

 私はイザークから竜血花のエキスを受け取り、少年に手渡し、言います。


「……これを一日に一度、水で百倍に希釈して飲めば衝動は抑えられます。そうすれば、それで十分に人の街で生きていけます。ただ、マルトからはもう、出なさい。あなたを探して悪魔がやってきています。ここに留まるのはお勧めできません」


「……こんなもの……」


 一度瓶を受け取り、投げ捨てようとした少年でしたが、


「それがあればこそ、貴方方は人に紛れて長い間生きてこられました。今では……手に入れる方法も少なくなって厳しいとは思いますが、全くないわけでもないでしょう? 代替品もあるはず。それなのに、わざわざ里から出てきてこのようなところに貴方のような若い存在がいるのは……なぜです? 先ほどからあなた方の存在を世に示したい、そのために協力を、と私におっしゃっておられますが……それが出来るのなら、貴方よりもずっと強力な方々が、そのようになさっているはずです。そのことについて、どうお考えですか?」


 そう言われて、瓶を投げ捨てようとした腕をゆっくりと降ろしました。

 必要な品だ、ということは理解してくれたようで何よりです。

 

「僕は……ただ、里での生活が嫌になったんです。人間から隠れて、静かに生きて……まだ滅びたわけでもないのに、いないふりをして……僕は、僕たちはいるんだ。この世界に生きて……それなのに……」


 少年は悔しそうに、涙を流しながらそんなことを言います。

 気持ちは、理解できなくはありません。

 ただ、それを主張するのは……今の世界情勢から鑑みるに、とてもではありませんが賢明とは言えません。

 わたしは彼に言います。


「……少なくとも、私は貴方の存在を認めていますよ。しっかりと生きて、こうしてここにいる。こうやって交流も持っています。それに、世界から隠れなければならない人々は、貴方方以外にもたくさんいます。程度の違いはありますが、エルフ、ドワーフに、妖精フェアリーや、獣人……。その事実からは逃げられません。ただ、それでも、貴方は生きている。ご自分でもそうおっしゃいました。このままこの土地にい続ければ、その重要な命すら守れずに、ただ消えていく結果になる可能性が高いです。そのことは?」


「……僕だって、死にたくは……」


「であれば、里に帰ることです。場所については聞きません。知られたくもないでしょう?」


「でも、連絡する手段が……」


「それについてはお気にされずとも構いません。イザーク」


「は……」


 イザークが私の言葉に頷いて、部屋を出ていきました。


「一体なにを……?」


「我が家では、貴方のお仲間に連絡を取る手段を有しています。時間は少しかかりますが、確実に連絡はとれますので、ご心配なさらずとも構いません。どの《里》なのかは一応問題になりますが、貴方ぐらいの年頃の仲間がいなくなったとなれば、向こうも血眼で探しているでしょう。すぐに向こうから連絡が来るはずです」


「……貴方は。長老たちから聞いていましたけど、なぜそこまで僕たちのことを……」


「ずっと昔から、我が家はそのように暮らしてきましたので。このマルトは、そのための拠点でした。もはや、知るものは少しずつ減り、残っているのは我が家だけですが、ご心配はなさらずとも構いません。私は、貴方を裏切りませんよ」


「……本当に、ありがとうございます……」


「いいえ。それより、先ほども話しましたが、今のマルトは危険です。もし街に出るのなら、よくよく注意して歩くことです。先ほどお渡ししたそれを使っていれば危険の度合いは下がりますが、絶対に露見しないとも言えませんので。念のため、今いる宿を引き払い、我が家の客人として滞在されるとよいでしょう。食事についてもお出しできますので、安心ですよ」


 そう言った私に、少年は頷いて、宿を引き払ってくると言って部屋を出ようとしたので、まず、竜血花のエキスを希釈して飲ませてから私は見送りました。

 それから、イザークが部屋に戻ってきたので、彼に尋ねます。


「連絡はとれそうです?」


「ええ、返事待ちになりますが、明日には返ってくるかと。しかし……あの少年が新人冒険者の行方不明の犯人ですか?」


 イザークがそう尋ねてきたので、私は少し考えてから答えます。


「おそらくは、違うでしょう。彼は《里》からの家出者です。竜血花ほどではないにしろ、衝動を抑え、人に近づける薬があります。もう切れかけているようですが……まだ、血の匂いはしません」


「となると……もう一匹入り込んでいると?」


「その可能性が高い、と思います。調べなければなりませんね……」


「では、そのように。失礼いたします」


 そう言って、イザークは部屋を再度、出ていきました。

 それから私はソファの背もたれに寄りかかり、ため息を吐きます。

 最近、色々なことがありすぎで……疲れがたまっているようです。

 はぁ、誰かに肩をもんでほしい。

 そう思いました。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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