第287話 数々の秘密と修行
「……修行? また、なんで。いや、別にもうそんなものいらないってわけじゃないけど」
冒険者にしろ何にしろ、戦いを生業にする人間と言うのは一生修行のようなもんだからな。
これで満足、という基準がない。
俺なんかは特に、目指しているものがものだ。
今日の自分に満足していたらたどり着けるものもたどり着けないだろう。
……まぁ、それでも、今日は十分やったな!とかたまに思うけどね。
そんなことを考えている俺に、ガルブは言う。
「別に今更普通の修行をしろ、なんて言わないさ。そうじゃなくて、私たちの……ハトハラーの役職持ちに連綿と受け継がれてきた技術を、あんたらに教えようと思ってさ。本来は門外不出なんだが……転移魔法陣まで見せたんだ。別にいいだろ。あんたも構わないだろ? カピタン」
カピタンにもそう言って水を向けると、彼もまた頷いた。
「ああ。俺はもともとそのつもりだ。そもそも、いざというときに転移魔法陣を守るために残されていた技術だからな。教える相手として、むしろ適切だろう」
「そうなのか?」
俺が首をかしげると、カピタンは答える。
「一応そう言われている……が、何分気が遠くなるほど昔の話だからな。他にも来歴や理由はあったのかもしれん。しかし今でははっきりと言い伝えられているのはその程度だ。流石に長い年月が経ちすぎたのだろうな」
その言葉に残念そうにしたのは、ロレーヌである。
「……調べればあの古代都市のことも色々と分かりそうだと思っていたのだが……難しいかもしれんな」
「ま、残っている話は少ないとはいえ、歴代の役職持ち達が残した資料もないではない。特に《魔術師》の残したものはかなりの数に上るから、それを読めば分かることもそれなりにはあるだろう。ただ、文字や記述の仕方が古かったり、欠損があったりで読み解くのにはそれなりに時間がかかるだろうが……」
ガルブの答えに、ロレーヌは、
「むしろそういう時間が楽しいのです。あとで見せていただければとてもありがたいです」
そう言ったのだった。
◇◆◇◆◇
「さて、じゃ、始めるか」
カピタンが森の中でそう言った。
カピタンと試合した場所ではなく、一旦村に戻ってから、また森に入ったので比較的村に近い。
なぜ村に戻ったかと言えば、カピタンの剣鉈の問題だ。
俺が壊しちゃったからさ……。
ただ、剣鉈を破壊されたこと自体は別にさほど気にしていないようだ。
かなりの年月使って来た大事な品かと思っていたのだが、そうでもないらしいからだ。
戦闘から背の高い草を狩ったり、魔物の解体をしたりなど、多岐にわたって使える武器兼便利道具である剣鉈である。
かなり酷使する関係で、大切に使っていても元々数年でダメになると言う話だった。
まぁ、普通の動物だけ相手するならともかく、魔物はな……。
素材自体の丈夫さが違うし、魔力も纏っているので同じ武器をそうそう長くは使えない。
冒険者用の武具は素材からして魔物製だったり、特殊な鉱石を多量に使ったりしているので長持ちだが、カピタンの剣鉈はハトハラーの鍛冶師が普通の鉄から作った一般的な品のようだしな。
別に転移魔法陣を使えば都会で冒険者用に造られた丈夫な剣鉈も仕入れて来れるだろうし、実際に持ってはいるのだろうが、ハトハラーで頻繁にそれを使ってたら流石に怪しいだろう。
一人で森に入るときは使っていても、狩人としてグループで動くときは普通にハトハラー製のものを使って来たらしい。
まぁ、それでもカピタンには《気》があるし、十分に長持ちなのだけどな。
本当にそのままただの鉄の剣鉈を使ってたら一年ももたないかもしれない。
ちなみに、カピタンのいう「始める」は修行だ。
ロレーヌとガルブはいない。
彼女たちは彼女たちで修行があるらしいからだ。
まぁ、ガルブがロレーヌに伝授するのは魔術で、それも初心者の俺にはまるで理解できないようなレベルの高度なものだろうから別々にやる方がいい。
見てもわからんだろうし、必要ならロレーヌがあとで教えてくれるだろうから問題ないだろう。
それより、俺はカピタンの《気》の力、特にあの防御に使われた技法を知りたい。
あれは何だったのか?
楽しみである。
「俺に試合のときに使った技を教えてくれるってことでいいんだよな?」
俺がそう尋ねるとカピタンは頷いて、
「ああ。あれも含めた、《気》の技法全般だな。お前には昔、基礎は教えたが……今は実際どれくらいのことが出来る?」
そう聞き返してきた。
とりあえず、俺がどこまで出来るのかの確認からと言う訳だ。
試合をしてはみたが、別にすべての技術の練度を見せたわけでもない。
魔物になった結果使えるようになった数々の力もあるし、正確に把握するところから始めた方がいいと考えたのだろう。
だから俺も応える。
「魔力や聖気はこの体になって、色々出来るようになったんだけど……気についてはな。あんまり変わってないよ」
「というと?」
「基礎の身体強化、治癒力の強化、武器の強化……そんなもんかな。あぁ、あと、組み合わせで特殊なことは出来るようになったけど……」
「組み合わせ……というと、あれか。試合の中で見せた、俺の剣鉈をひしゃげさせてくれた……」
俺の言い方に、すぐにカピタンは思い出したようだ。
俺は頷いて、実際にやって見せることにする。
と言っても、とりあえず見せるのは聖魔気融合術の方ではなく、魔気融合術の方だ。
聖魔気融合術の方はコストと言うか、俺の懐に痛すぎる。
剣に気と魔力を込めて、その辺にある木に切りかかる。
すると、幹の部分が剣が触れた方向とは逆の方向から爆発し、その重みを支えきれなくなって倒れた。
見事なまでに自然破壊だ。
普通に切ることも最近は出来るようになってきたのだけど、制御がな……。
それに、見た目上、分かりやすいのはこの結果かなと思うから別にいいかな。
カピタンは、それを見て、呆れた顔で、
「……まぁ、気の強化版と言う所か? 魔気融合術だな。俺の剣鉈を壊したあれとは違うみたいだが……」
「あっちは俺の武器もダメになるからそうそう見せられないんだ。聖気と、魔力と、気を融合させたもので、聖魔気融合術とでも言えばいいのかな……」