第281話 数々の秘密と攻め
ちなみに、羽は服を突き破ってはいなかったりする。
ではどうなっているのかと言えば、便利にちょうどいい穴が開いてそこから出ている状態だ。
以前試したら、自動的に羽が出るくらいの穴が開いたのだ。
そして、しまったら穴はすぐに塞がった。
このローブ、なんか機能が多いんだよな……ありがたいけど、《アカシアの地図》のことを考えると色々とありそうではある。
魔法耐性が高すぎて調べても分かることは限られているが……これも鑑定神の神殿で聞くしかないだろう。
まぁ、今のところ何も害がないからいいんだけどな。
ともかく、俺はカピタンに答える。
「……どうかな? そっちだってさっきの奴、答える気はないだろう?」
あの、おそらくは気による防御についてである。
あの技法は身に着けたいな。
切り札が増える。
カピタンは俺の質問に答える。
「あとで教えてやるさ……お前もってわけだ」
「そういうことだな……」
言いながら、俺はカピタンに襲い掛かった。
土埃は大分晴れ、視界はもうほぼ完ぺきだ。
俺の場合は土埃があろうとなかろうとカピタンは良く見えていたわけだが、カピタンも俺が見えるようになってその挙動は正確さを増している。
……まぁ、視界を塞ぐのは何の意味もなかった、というわけではなかったようだな。
避けられまくっているのだからあれだけど。
今もな……ただ、突いたり切ったりしているだけでは入れることすら出来なさそうだ。
出し惜しみはもう出来ない。
こうなれば、色々試すしかないだろう。
まずは……聖気だ。
「……っ!?」
単純な出力の高さで言えば、聖気が一番である。
急に俺の攻撃が重くなったことに気づいたらしいカピタンの顔からは、余裕が消え始めていた。
あまりにも守りが固いのでこのまま永遠に攻撃が入らないのではないか、と思っていたがこれなら……。
俺の方は人間じゃないだけあって体力は無尽蔵だからな。
精神的な疲労はともかく、肉体的な疲労は酷く感じにくい。
カピタンの方はいくら人間離れしているとはいっても、限界はそのうち来るはずだ。
そこまで粘れば……と思うが、厳しいかな。
流石に俺がまるで疲れていない様子なのはもうカピタンには分かっているだろう。
怪訝そうな視線が強い。
同じような状態になるためには、禁制の薬物にでも手を出さないとならないからな。
俺がそんなものに手を出さないと言うことは流石に分かってくれているだろう……分かってくれているよな?
とはいえ、体力はともかく聖気自体は有限である。
永遠に使い続けられるほど量があるわけではない。
他の力も使い分けながら攻めなければならない。
単純な魔力と気でもいいが……それだけではさほどカピタンを疲労させることは出来ないということはわかったわけで、そうなると……。
俺は剣に魔力、そして気を同時に注ぎ込み始める。
つまりは、魔気融合術である。
俺が剣を振りかぶり、そしてカピタンの剣鉈に振り下ろす。
狙いはカピタンではなく、最初から剣鉈だ。
なぜって、魔気融合術の特色は……。
「……?」
しかし、カピタンは俺の動き、それに視線から違和感を感じたらしい。
今まで剣を交わしてきたのに、急に剣鉈を下げ、引いた。
すると、当然、俺の剣は空振りする。
魔気融合術による攻撃は命中しなければ特に何があるというわけでもなく、普通に空ぶったのと同じ様子だ。
カピタンはそれを見て、一体俺が何を狙っていたのか不思議そうな表情だったが、そんなカピタンに俺はさらに追撃をする。
とにかく、剣に当てればそれでいいのだ。
そう思って、ひたすらに剣を振るう。
カピタンは先ほどまでと異なり、俺の剣を受けずに避け続ける。
紙一重で……当たりさえすれば……と思うが、難しい。
ただ、それでも限界はある。
森の中で、下がり続けたカピタンが、一瞬、体のバランスを崩したのだ。
俺はその隙を見逃さずに、縦に剣を振り下ろす。
カピタンも耐え切れず剣鉈を上に掲げ……当たった、と思った瞬間、爆発が起こった。
魔気融合術、その特色は対象物の内部からの破壊だ。
まぁ、他にも技術があって、色々な効果も生み出せるのかもしれないが、俺が素でやって出来るのはとりあえずこれだけだ。
学ぼうにも身に着けている人間なんてほぼいないからな……。
とは言え、それだけでもその破壊力は相当のもので、以前試したときには的の人形が爆発したくらいだ。
人間の身に使えばひとたまりもないだろうし、剣鉈を破壊することも可能だろう、と思っての打ち込みだった。
実際、命中したことを示す爆発が起こったし、これで……。
と思ったのだが、見てみると、
「……無傷?」
剣鉈もカピタンも特に傷ついてはいなかった。
一体なぜ……。
そう思っていると、ひゅっ、という音がして、横合いから何かが来る気配を感じた。
俺は慌ててその場から下がると、そこを矢が通りすぎていった。
……罠か。
しかし、一体そんなもの俺がいつ踏んだのか……。
と思っていると、きらりとしたものが落ちているのが見えた。
カピタンの糸である。
それを見て思ったのは……。
「まさか、さっき俺が切ったのは……」
俺のつぶやきを聞いたのか、カピタンが言う。
「俺が張った糸だな。何か狙ってるようだったから誘導してみたが……全く。危なかったぜ。そいつは……魔気融合術か?」
そんな風に。
俺は誤魔化すのが下手らしい。
何か画策していたことはカピタンにはバレバレだって、というわけだ。
対してカピタンが俺をうまいこと誘導していたことには俺には気づけなかった。
おそらく、あの一瞬の隙、あれですらわざとだったのだろう。
俺に、糸を切らせるために。
狙いを明らかにし、かつ、あわよくば罠で仕留めようと言う狡猾な策略だ。
それをこの戦闘中に易々とやってくることが恐ろしい。
しかしだ。
それでも俺の持つ優位が揺らぐわけではない。
なぜなら、避けなければならない、ということは当たりさえすれば効くと言うことに他ならないからだ。
罠だって無限に仕掛けてあるわけでもないだろう。
少しずつ詰めていけば、行けるはずだ。
手のうちだって、まだすべて晒したわけではない。
まだやれることはいくつかあるのだ……。