第136話 下級吸血鬼と鉱脈
地亜竜の素材は魔石と体全部になる。
鱗や牙、爪や目など、どれも非常に有用な素材なのだが、魔法の袋の容量の関係上、すべてというわけにもいかないのが残念なところだ。
まぁ、魔石と鱗をある程度、それから牙の長いのと爪、それから目を持っていけばそれで充分だろう。
つまみ食いに近い取り方だが……あぁ、やっぱり大きい魔法の袋が欲しい。
近いうちにオークションに出ないものかな。
あれは普通の店では買えない品物なのだ。
値段も値段だし……タラスクの素材を売却して得るだろう金で買えるといいのだが。
あんまり大きなものは難しいかな。
まぁ、それでも今持っている魔法の袋を捨てるわけでもないし、二つ持ちになればいいだけだから今よりはずっと素材の運搬は楽になりそうだし、いいだろうが。
地亜竜を解体し終わり、先に進む。
魔石関係についてはもう、十分かなと思うが、《魔鉄》がまだ採取できていない。
もう少しだけ、進もう……。
◇◆◇◆◇
地亜竜の出現したボス部屋には二つ扉があり、一つは俺が入って来た扉、そしてもう一つは出口に当たる扉だ。
戦っている最中は閉じていたが、地亜竜が倒れると同時に、その扉は開いた。
そこから先に進むつもりだ。
扉の方に近づくと、俺は少し驚いた。
というのも、扉の向こうには分かりやすい通路というものが存在しなかったからだ。
崖のようになっていて、壁を降りるためのくぼみととっかかりがあるだけだ。
それに、その空間は広く、一キロ四方はありそうで、天井も高く見える。
周囲は暗く、全てが見えるわけではないが、とにかく今まで通って来た坑道の通路とは明確に異なる大きさなのは間違いない。
それに加えて、色々な施設というか、魔道具が設置してあるように見え……簡単に言うと、採掘場、というような雰囲気である。
トロッコなどもあって、かなり人工的な空間に見えた。
けれど、ここは迷宮である。
人間がここで採掘場を作ったという話がない以上、ここはそういうものとして迷宮に生み出されたのだ、と考えるべきだ。
たまに、街や城のような空間があることもあるという迷宮。
そのことを考えれば、ここのような空間があることもそこまで不思議ではない。
一番不思議なのは、迷宮という存在それ自体であり、こういう風な階層があることは、むしろ普通だと言える。
しかし、どうしてこのような場所が迷宮内にあるのかは気になると言えば気になる。
迷宮は形成されるとき、人の営みを参考にしているのだろうか?
街や城などがあることも考えれば、そうなのだろう、ということになる。
まぁ、普通に森や洞窟など、自然地形を再現していることを考えれば、人間の作ったものも広い意味で考えると一つの自然な地形でしかなく、おかしくはないのかもしれない。
究極的には魔物それ自体を再現して生み出し続けているわけだし。
驚くべきはその創造力の方か。
まぁ、どんな理由があるにせよ、こんな空間があることは、俺にとってはいいことだろう。
なにせ、採掘場だ。
《魔鉄》を採掘しに来た俺にとって、これ以上におあつらえ向きな場所もないだろう。
俺は、崖に張り付き、下の方に降りていく。
下に辿り着くと、周囲を見てみる。
あまり遠くまでは明るさの問題で見えなかったが、上から見る限り、色々とうごめいている魔物の姿も少しは見えた。
ただ、ちょうど扉の下にあるここら辺りにはパッと見、いなかったため、やはり特に魔物の姿はないようで、少し安心する。
他には、トロッコと、魔道具のスイッチのようなものがあるのが見えた。
うーん……どうしたものか。
あのスイッチ、押したら何が起こるのか分からないな。
押さない、という選択肢が最も安全だと言うことになるだろうが、それは面白くない。
面白さより安全を優先すべきだろうが……周囲を見る限り、何か罠が、という感じでもない。
上から何かが落ちて来そうなわけでもないし、落とし穴もないようだし……。
押すだけ押してみるか、と思う。
何かまずいことがあったらもう一度押して、切ればいいのである。
……それはできない、という可能性についてはあえて無視する。
ほい、ぽちっとな……おぉ?
軽い様子で俺がそのスイッチを押すと、暗かった周囲に光が差す。
上を見ると、かなり高いところから光源があり、下に向かって光を届けているのが見えた。
つまり、今のスイッチは灯りを点けるためのものだった、というわけだ。
……罠じゃなくてよかったな。
ただ、広間全体を照らしているわけではなく、周囲数十メートルを照らすくらいのものだ。
おそらく今のようなスイッチがいくつもあって、それをつけなければ暗いままなのだろう。
まぁ、多少暗くても俺にはある程度見えるが、主に不死者の視界は生物の挙動を掴む方に大きく振れているからな。
無機物を見るのはそこまで得意ではないのだ。
流石、吸血鬼、と思わないでもないが、つまりはそれほど役に立たないと言うことである。
《魔鉄》を得るために壁を採掘するのはいいが、質を見るには灯りは必要だからな……。
まぁ、採掘しつつ、スイッチも探しつつこつこつやっていくしかないだろう……。
……あっ。
と、思って周りを見てみると、鉱山ゴブリンが二体ほど寄ってきているのが見えた。
灯りがついたから、何かいると思ってきた、というところだろう。
ある意味罠だったというわけか……?
まぁ、いくつもつけていけば、魔物もある程度分散できるのかな。
やってみなければ分からないが……。
とりあえずは、鉱山ゴブリンを倒して、この広間を回ろう。
いくつか、採掘に適してそうな色合いの壁があったのは上から見えたし、そういうところを回って《魔鉄》を収集しよう。
そう思った。
◇◆◇◆◇
――かぁん、かぁん!
と、壁をツルハシで叩く音が響いている。
先ほど襲い掛かって来た、鉱山ゴブリンは普通に倒した。
やはり中々の強敵だったが、次々と仲間を呼ぶとかそういうことはなく、二匹が寄って来ただけで終わった。
あんまり仲間意識とかはないのかもしれない。
それから、広間を歩き回り、良さげな壁を見つけたので、今叩いているというわけだ。
しっかりとスイッチも探して、壁周辺は明るく照らされている。
もともと誰かが採掘していた場所のようで、しっかりと鉱脈も見えるのでいい《魔鉄》が取れることだろう。
実際、崩れて落ちた鉱石を拾って見てみる限り、十分な質があるように思えた。
これなら……。
まぁ、ここだけではなく、いくつか回って一番いいところをたくさん持っていきたいところである。
ここはこれくらいにして、次の採掘場所に向かおう……。