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俺 17

 姉が来る事は分かっていたので、バイトが終わって帰る頃には家に姉がいて、親父と飲み会を始めているだろう。と、思っていた。

 しかし、姉は来ていなかった。

 明りがついたままの無人のダイニングにはカレーの香りが漂い、冷蔵庫の中には沢山の缶ビールと数本のチューハイが冷えている。

 綺麗に片付けられたテーブルの上にはスナック菓子多数。

 6時なのにまだ明るい窓の外に目をやるが誰かが来ると言う様子もなく、自室で時間を潰している間に弟が仕事から帰ってきた。

 「あれ?まだ来てへんの?」

 カレーを食べながらの弟の問いに、

 「2時頃に電話したんやけど、出よらんねん」

 と、親父が答える。

 「ちょっと電話してみるわ」

 そう言って弟はカレーを頬張りながら電話をかけたのだが、コール音が延々と鳴るばかりで誰も出ない。

 そして完全に痺れを切らしたのだろう、冷蔵庫の中からチューハイを1本取り出し、

 プシュ。

 1本目がなくなる頃、突然弟の携帯に姉から連絡が入った。

 どうやらついさっきまで甥の習い事かなにかの集まりがあったらしく、今から向かう。との事だった。

 「チューハイなくなりそうやし、今のうちに買い足しに行く?」

 「そう言えばジンってアルコール度数高いからトロトロになるだけで凍らへんらしいで」

 そんな軽い会話の後、2人でスーパーへ向かいジンとチューハイを2本ずつ、ジンを割るための炭酸水と、先日は子供の日だったと言う事で甥と姪用のチョコケーキをカゴに入れ、完全な割り勘で購入した。

 帰宅して早速ジンを冷凍庫に入れ、買ってきたチューハイを冷蔵庫へ入れて、姉が来るのをダイニングで待つ。

 しかし、来ない。

 時間はとっくに8時を過ぎ、外は暗くなっている。

 待ち草臥れてチューハイを飲み始め、そこから1時間程経ってからやって来た姉達は、何よりも先に空腹を満たす為にカレーを食べ始めた。

 腹ごしらえが終わった後は、飲み会の始まり始まり。

 グイっとチューハイ1本目を空にした後は、冷凍庫で冷やしていたジンのお出ましだ!

 ジンはキンキンに冷えてはいたが、冷やす時間が足りなかったのかトロトロにはなってはいない。だけど取り出したのだから。と言う訳でコップに注ぐと、スッと弟がコップを差し出してきた。

 「かんぱーい」

 そう言ってチビッと飲んでみる。

 流石40度もあるアルコール、かなりきつい。

 飲みきった後2本目のチューハイを開けて飲んでみると、9%もある強めのチューハイだと言うのにも拘らず、ただのジュースに感じた。それは弟も同じだったようで、グビグビと2本目のチューハイを飲みきった。

 11時頃になると親父達は寝るからと2階に行き、甥と姪も眠いと弟の部屋に行き、ダイニングには俺達3兄弟。

 「そう言えば炭酸も買ったし、ジンソーダ作ろっか」

 「いいねー」

 冷蔵庫から炭酸水を取り出した弟は、コップと炭酸水を俺の前に置いた。そしてもう1方向からコップが差し出される。

 しかし、姉はビールならば大量に飲めるが、焼酎、日本酒、梅酒等、ビール以外のお酒を飲むと即効でダウンしてしまう。

 「止めといた方がえぇって」

 そう言いながらコップを押し返そうとするも、

 「ジンなら飲めるから大丈夫!それに割るんやろ?」

 と。

 だから俺と弟の分は1:3で作り、姉には1:5位で作った。

 「かんぱーい」

 飲み始めた時には、カラオケに行こう!と大いに盛り上がり、本当に行く気満々の2人だったのだが……。

 「うー……」

 「うぅ……」

 フラリとトイレに入っていった弟は完全にダウンしてしまったようで、フラフラとトイレから出てくると麦茶を数口飲んだ後2回か3回ゆっくりと頷いて2階に行ってしまった。

 その後トイレに立った姉も、トイレから出るなり

 「寝るわ……」

 と、俺のベッドに入った。

 テーブルには、ジンソーダが残っているコップが3つ。

 それらを空にしてから食器を片付け、パソコン前に座ると胃の辺りが熱いような感じがした。

 お酒を飲んだ時、キューっと食道を通るのが分かる事があるが、丁度そんな感じなのだ。

 キューっとなるのはアルコールで食道の粘膜が剥がれ落ちているからだと聞いた事がある。それが胃に感じると言う事は、胃粘膜が危ないと言う事。

 麦茶をコップに2杯グイグイと飲み、トイレに入って胃よりも下に頭を下げて無理矢理に出す。

 これを数回繰り返した後胃薬を飲み、パソコン前に戻ると途端にやって来たのは眠気。

 スグ後ろには姉がいるというのに、それでも俺は眠りたいという欲求が出た。

 ウツラウツラと細切れの睡眠を何度か繰り返していると窓の外が明るくなり、2階から親父が降りてきた。

 「おはよ」

 「おはよ」

 2人で朝食をとりながら昨日は何時ごろに寝たのかとか、ちゃんと眠れたのかとか、そんな軽い質問をいくつか受けていると甥と姪も起きてきた。

 昨日はカラオケに行けなかったが、昼間なら子供も連れて行けるし、フリータイムで行っても良いな……弟は甥と姪を連れてドライブに行くと言っていたし、この分だと子供2人を退屈させずに済みそうだ。

 と、そんな事を考えながら弟と姉が起きて来るのを待っていたのだが、お昼近くになっても起きて来ない。

 何故なら弟と姉は、重度の二日酔いになっていたのだ。

 「お前らどんだけ飲んでん」

 親父はトイレに下りてきた弟に、朝俺にも尋ねた事と同じ質問をする。

 俺が「ジンと、チューハイ2本」で済ませた説明を、弟は「ジンをロックでコップ半分と、9%のチューハイ2本と、炭酸で割ったジン」と、細かく説明した。

 「ロックでいったんか!?それ何%や!?」

 「40」

 「アホかお前ら」

 呆れている親父の隣では完全に目を閉じている弟。多分頭に響いているのだろう。

 昼の1時頃に起きてきた姉はそのままトイレに向かい、そこで胃に残っていたアルコールが上から出たらしく、幾分かスッキリとしたようだが、それでも頭は痛むらしく、ボンヤリとしていた。

 二日酔いにはコーヒーが良いらしい。

 調べてみるとそんな情報を目にしたので、俺は姉と弟にコーヒーをいれる事にした。

 お湯を沸かしている間にサーバーの上にドリッパーを置き、ペーパーフィルターをセットする。少し薄めのコーヒーにしたいので、豆の量はメジャースプーン1杯半。

 沸いたお湯を計量カップに高めの位置から移し変え、少量のお湯を落として豆を蒸らす。

 甥と姪はコーヒーはいらないというので、20秒の蒸らし時間の間に冷蔵庫空麦茶と、買うだけ買って忘れていたチョコケーキを取り出す。

 「どうぞ」

 と、20秒経ったのでケーキをお皿に置く前にドリップに戻る。

 1投目、2投目。良い香りがダイニングに広がり、そろそろドリップが終わろうとする頃に姉が懐かしそうに、

 「オカンもコーヒーはドリップしてたなぁ」

 と、俺の隣に立ってサーバーに落ちていくコーヒーを眺めた。

 「あぁ、そうやったなぁ」

 弟まで来た事で姉の意識は母ではなく俺に移ったのだろう、今それに気が付いたのか?と思う事をポツリと言った。

 「それ、計量カップやんな?」

 何処かで聞いた事のある言葉だ。そして弟は計量カップを指差し、

 「ビーカーに見える」

 と、またまた聞き覚えのある事を言ってきた。

 だから俺は出来上がったコーヒーをカップに入れ、

 「はい、黒い汁」

 と、姉と弟の前に置いた。

 流石に「汁て!」と言うツッコミは出なかったが、それでも2人は笑ってくれた。

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