毛むくじゃら 21
土曜日の夜、1代目が眠った後の事。
俺と毛むくじゃらは1代目を起こさないようにと小声で談笑していた。
その流れから何気なく仕事の話になり、俺はつい先日の事を笑い話として披露した。
それは、先輩が俺宛に「ビッグサイズのプリンを買ってきた」と呟き、俺が「くれるのですか?」と返事したら「いや、あげない」と返された。と言うくだらない内容。ではあるものの、俺は甘い物が苦手ではあるが、プリンは好きなのだ!
「プリン……」
笑いながら立ち上がった毛むくじゃらはそのままトイレに行き、戻ってくるなり、
「よっし。プリン買いに行こか」
と、小声で言った。
1代目を起こさないようにコッソリと部屋を出ると雨は止んでいて、その代わりに薄く霧が出ていた。
外灯の光の周りに見える虹、ボンヤリと滲んで見える赤信号。空気が澄んでいるのか緑の匂いがする。そんな中を歩いてコンビニに向かう。
「お酒は買っても?」
駄目だと言われるだろうと予想しつつ尋ねてみると、案の定、
「アカン」
と返って来る。だけど、本当に買おうと思っていたのはお酒ではない。
「じゃあ、ドーナツは?抹茶味の」
これだ。
ドーナツは甘いが、抹茶味ならば美味しいのではないか?と、実は結構前から気になっていたのだ。
「前にドーナツはもうえぇって言うてたやん」
前にコンビニでチョコ味のドーナツを買った時、半分も食べる事が出来ずに断念して毛むくじゃらに食べてもらっていた。そこで俺は確かにそう言ったのだ。でも、今言っているのはチョコではない。
「抹茶味の、油菓子!」
「それドーナツやんな!?」
とかなんとか言っておきながら、毛むくじゃらはプリンと抹茶味のドーナツを買ってくれたのでしたとさ。