トリオ 2
1代目にドッキリを仕掛ける為、俺達は移動中の車の中で細かい設定の確認などをしていた。
そして新たに決まった事は、毛むくじゃらが俺を軽く殴り、俺が大袈裟に痛がる。怒った俺はコップに入れた熱々のお茶と見せかけた温いお茶を毛むくじゃらにかけ、軽く殴る。と言う小芝居。
マンションの駐車場に着き、車を降りた所で軽く殴る力加減の練習までした。
階段を上がり、毛むくじゃらが部屋の鍵を開けて、1歩部屋の中に入った所で開始!の筈が、前にいる毛むくじゃらが部屋の中に入らない。
どうしたのだろうか?と覗き込んでみると、1代目が玄関に立っていた。そして
「喧嘩してません?大丈夫ですか?」
と、先手を打たれてしまった。
想定外だったので毛むくじゃらは機嫌悪そうな表情をしているが完全に黙り込み、黙っている事で余計に心配になった1代目は落ち着きなくキョロキョロしている。
このまま怒ってないよ~ドッキリでした~と言い難い雰囲気だし、何がどうドッキリなのかも伝わらないだろう。
もっとパンチの利いた何かがないと終われない。
進めるしかない……毛むくじゃらとは打ち合わせもしたし、流れに乗れば自然と殴り合いまで行く事が出来るだろう。
「寒いから、さっさと入ってくれるかなぁ」
イライラした風な早口で言うと、無言で部屋の中に入る毛むくじゃらと、パッと道を開ける1代目。
俺は毛むくじゃらの腕を強めに掴んでリビングに連れて入り、真正面に立った。
「……もうええかな?」
1代目に背を向けた状態で、かなり小声で言う毛むくじゃら。
いやいや、このまま終わっても面白くないし、結局1代目の反応が見られない。しかし急に殴り合いは不自然だし……そもそも暴力に発展できるような喧嘩の内容じゃない。なら、殴り合いに発展出来そうな内容の喧嘩をする?
うってつけの話題がある……これを言うと、確実に毛むくじゃらが怒るような内容の話。場合によっては1代目すら怒ってしまうような、取っておきが!
「ここ来たら、カップメンやん?」
小声で言うと顔を近付けて来る毛むくじゃら、1代目は心配そうにこっちを見ているだけなので聞こえていないようだ。
ここにはいつも決まった種類のカップメンしかない。食べたら美味しいそれらには、
「出汁にサバ入ってる」
アレルギー成分が入っているのだ。
「はぁ!?」
俺がサバアレルギーである事を知っている毛むくじゃらは、思惑通りに怒った。
これで晴れて喧嘩が出来……あれ?待て。怒らせる事には成功したけど、これ、俺が心配されているだけであって、俺が怒る理由ってのがスッカリサッパリなくなってしまった感じ?
殴り合い、無理!寧ろなんか心配されてるんだなぁって申し訳なくなってきた。
「落ち着いて!怒らないでください」
必死に止めに入ってきた1代目は、どちらかに同意をすると言うのではなく、ただただ喧嘩を止めようとしてくる。
知りたかった反応が見られた事で満足した俺達は、このドッキリとも言えなくなった小芝居を終わらせた。
ドッキリだと明かした後、1代目は少しの間機嫌が悪かった。
こうして今回のドッキリは、完璧な失敗に終わったのでしたとさ。