トリオ 31
エイプリルフール。
嘘を付いても良い日ではあるものの、俺はイタズラを仕掛ける事にした。
その内容は、お菓子の箱の中に、別のお菓子を詰めて置いておく。と言うかなり地味なもの。
ピンポ~ン♪
10秒待ち、返事がないので合鍵で部屋の中へ入り、いつもお菓子が置かれているラックの上段に細工をしたお菓子を置いた。
これでおしまい。
どんな反応があるのだろう?とか考えながら、毛むくじゃらからリクエストがあったカレーを作り始める。
具材をせっせと切っていると1代目が帰ってきたので、
「おかえり」
と、振り返りながら袖で目元を拭った。
すると、さっきまでは笑顔だった1代目の顔が一気に険しくなる。
なにかあったのだろうか?
「泣いてるんですか?何かあったんですか?」
凄いぞ。こんな漫画か映画のような台詞をサラッと恥ずかしげもなく言えるのは一種の才能だ!
そうだ、今日はエイプリルフールなのだから、ちょっとしたイタズラを追加でやってみよう。
「少し、イジメられただけ」
また流れてきた涙を袖で拭う。するとポケットからミニタオルを出して俺の頬に当ててくる1代目は、笑いを堪えて俯いた俺の視界に入るべく少し屈み込んだ。
「誰にですか?」
いや、そんな真剣になられてしまうと反応に困る。
今日がエイプリルフールである事には気がついていない?もしかして、嘘を付いても良い日だー!と盛り上がるのは少数派なのか!?
なんにせよ、このままじゃ流石に1代目に悪い。
「コイツですよ」
と、俺は1代目をまな板の前に立たせ、涙を誘発する成分を惜しみもなく放出させている玉ねぎを見せた。
「うわっ!」
1代目は目を押さえてソファーの方へと逃げていった。
「今日の玉ねぎのレベルはかなり高いので、暫く止まりませんよ」
袖で涙を拭い、残りの具材を切って、全てを鍋の中へ。
後はちょいちょいとアク取りをしながら火が通るまで煮込むだけだ。
その間に使った包丁とまな板を洗ってしまおうとした時、
「ただいま~」
毛むくじゃらが帰ってきた。
「おかえりなさーい」
「おかえりー」
2人で声をかけるが、俺達はそれぞれ目元を拭いながら涙を流している。
「どしたん?」
首を傾げる毛むくじゃら。流石に1代目のような台詞は出てこないか。
ズルズルと鼻をすすりながら、再び悪趣味なイタズラをやってみた。
「イジメられてん」
「誰にや?」
普段通りの顔と、いつもと変わらない声だと言うのに、凶悪な表情と声に聞こえてしまう不思議。
1代目は恐怖を覚えたのか、ミニタオルで顔を隠してしまった。
このイタズラは悪趣味な上に面白くない。だったら、さっさと終わらせてしまおう。それにカレーのアクとりをしなければならないんだった。
「コイツに」
と、俺は鍋を指差す。
「え?」
毛むくじゃらは、よせば良いのに鍋の蓋を開け、その湯気を顔面に受けた。
夕食後。
食器の片付けも終えてノンビリとしていた俺は、スッカリお菓子の箱を仕掛けていた事を忘れていたのだが、
「チョコあるわ。1代目食うか?」
毛むくじゃらが、小細工をしたお菓子の箱に手を伸ばしたではないか!
しっかり箱を掴んでいるが、違和感はないのだろう、なんの疑いもなく封を開けようとした。しかし、封が中々切れない。
まさか、箱を閉じる時に使った両面テープが切り口の所に?それとも中身を詰め過ぎたから?何かが邪魔になっている?
ベリッ、ビリッ!
封が空いた。
「はい、1代目」
箱からお菓子を取り出し、至って普通に1代目に手渡す毛むくじゃらと、
「ありがとうございま……ん?」
受け取って早々に気が付いた1代目。その1代目の声に、もう1つお菓子を箱から出して眺めた毛むくじゃらは、
「うわーやられたぁー。たまねぎで終わりや思てたー」
と、イタズラに引っかかってしまった事を悔しがっていた。