1代目 20
眠たくなり、ソファーに寝転がって。1代目がやってくるよりも先に、
「笑ったらアカンで」
と、声をかけた。
「今日は早いっ!」
そう言いながら慌ててやってきた1代目は、やっぱり俺の前に正座している。
「昔々ある所にお爺さんとお婆さんがいました」
「はい」
真剣な表情で話しを聞いている1代目。こんなにも真剣なのだから、笑わせるのは一苦労……
「お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川にスイミングにいきまし……」
「ぶぅ!!」
ではない。
その夜。
「木場さん!」
寝る準備が整った所で声をかけられる。
「笑ったらアカンで」
「はい!」
なんとなくソファーに移動して、寝る前の水分補給として白湯を飲みながら話し始める。
「昔々ある所にお爺さんとお婆さんがいました」
「はい」
ただし、噴出す恐れのある1代目には飲まさない。
「お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯に行きました」
「はい」
「芝刈りを終えたお爺さんが家に帰っていると、向こうの方にボンヤリとした光が見えてきました」
「え?はい」
「こわいな~こわいな~」
「~~~は、はい……」
噴出す事は耐えた1代目だが、口元を両手で押さえながら完全に笑っている。それなのに、笑いが収まってから手を離し、涼しい顔で笑っていないとアピールしてきた。
次からは、それもアウトにしよう。
「ボーっとした明かりの下には、お婆さんが立っていました」
「はい……」
「なんじゃ、婆さんか。こんな所でどうしたんじゃ?」
「あ、お婆さん」
「ワシは泳ぎ疲れたんじゃ」
「前回のスイミング婆さん!」
こうして1代目は笑ったのだが、前回に登場させたスイミングのお婆さんを覚えているとは思ってもみなかった。
笑ったらおしまい、じゃなかったんだな……ちゃんと話しを聞いてくれていたのか。
だったら、もう1回笑うまで話しを続けよう。
「……一緒に帰るか」
「あれ?今のセーフ?」
完全にアウトだったさ。だけど、話しを覚えてくれていたお礼。
「お爺さんとお婆さんが歩いて行くと、また遠くの方にボンヤリとした明かりが見えてきました」
「はい」
「こわいな~こわいな~、やだな~やだな~」
「ふ……」
このモノマネが好きなのだろうか?完全に笑っている。だったら今日は綺麗にオチまで言って終わりにしよう。
「爺さん、ありゃワシらの家じゃ」
「ぶっ!」
今日は大サービス!
「お爺さんは戸を開けて家に入りました。するとそこには桃太郎が座っていました」
「えぇ!?」
「あ、お邪魔してます」
「ブゥー!」
やりきった。