トリオ 29
夕食後、食器の片付けも終わったノンビリとした時間の事。
ソファーに座ってタブレットで動画を見ている俺の視界に1代目が割り込んできた。なので視線を向けても無言のまま、ただ見つめてくる。
どうしたのか?と聞いて欲しいようだ。
しかし、ここでスグに期待に答えてしまうのは少々つまらないので、ニッコリと笑顔を向けてタブレットに視線を戻してみた。
ゴソゴソ。
1代目は俺の左隣から右隣に移動してくると、再び視界に入ってきた。小刻みに頭を揺らすという鬱陶しさ加減で。
仕方ない……。
「どうしたんです?」
パァと笑顔になった1代目は、椅子に座っていた毛むくじゃらにも聞こえる声で言った。
「ハッと気が付くと牢屋の中に入っていました。何をしたんですか?」
と。
「なんて?」
毛むくじゃらは身を乗り出して質問をもう1度聞いて、余計に分からなくなったのだろう、ドサリと俺の左側に座ってから、3度目の質問を聞いた。
「何をして牢の中に入れられたんですか?」
何をして、とか言われても……なにをしよう?
「ちなみに、お前は?」
答えのヒントを求めるように左側から聞こえてくる声と、
「俺は冤罪ですよ」
右側から聞こえてくる答え。
冤罪って!それは多分奇抜な答えのうちに入ると思うんだけど、それをヒントにして良いのか?
「なんやそれ」
ソファーの背もたれに体を預けた毛むくじゃらは、それでもなにか考えているのだろう、天井を見つめている。
毛むくじゃらの邪魔をしてはいけないので、俺は1代目の耳元でササッと自分の答えを告げる事にした。
「寝てる間に監獄ツアーに参加させられてた」
「なんですかそれ」
答えろって言うから答えたのに……しかも、冤罪とそう変わりないと思う。
「酔っ払って、路上で寝てる所を保護された」
そして、また似たような回答が左隣から。
これで成立するのだろうか?でも1代目から「その答えは駄目です」と言われなかったのだから大丈夫なのだろう。なら、結果を聞こうではないか!
「これは、心理テストです」
うん……。
分かってます!
「それは分かっとる。答え、なに?」
思わず笑ってしまった俺に代わり、毛むくじゃらが1代目に答え合わせを催促した。そうやって発表された答えは、
「自分が出来る精一杯の犯罪、らしいですよ」
との事。
「冤罪て……保護されるんが精一杯の犯罪て……アハハハ」
何故だか物凄いツボに入ってしまった。
「木場さんなんかツアーじゃないですかー」
そうなんだけど、そうだからこそ。
3人もいるのに、どうして1人も質問に沿った答えを言えなかったのだろう?質問を考えた人はきっと「人殺し」とか「窃盗」とか、そう言うのを期待した筈なのに。保護なんて真逆だし、そもそも3人とも犯罪らしい事をしてないし。
「俺ら犯罪者にはなれんって事やな」
少し笑った毛むくじゃらは、ポンポンと俺の背中を叩きながら締めくくり、
「なんか、良かったです」
と、1代目も笑い出した。