1代目 19
眠る前の「お笑い劇場」が定着してしまった頃から、俺は1代目が寄ってくるのを待たずに話し始めるようになっていた。
「……いきますよ」
そう言ってからソファーに寝転がると、ニコニコとしながら1代目がやって来て俺の前に正座する。
「はい!」
ワクワクしたような表情なので、本当ならプレッシャーを感じるのだろうが、
「笑ったらアカンで」
と、俺の肩に力は入っていない。
「はい!」
今度はキリッと笑わないように表情を改める1代目。
「昔々ある所にお爺さんとお婆さんと、お爺さんがいました」
口元を両手で押さえながら1代目は耐え、笑いが収まってから、
「ぜーんぜん笑ってないも~ん」
と、せこい事を言う。
「お爺さんは川に洗濯に、お婆さんも川に洗濯に、お爺さんも川に洗濯に行きました」
「は……はい……」
笑いを堪えているのか、震えている。なら、畳み掛けるしかない!
「3人のジジババは……」
「ブゥー!」
自分で言っておいてなんだが、良くこれで笑えるものだ……。
その夜。
「木場さん、木場さん」
歯磨きが終わった所で呼び止められた。
夜はソファーに寝転ばないので、1代目はいつも慌しく呼びかけてくる。
「笑ったらアカンで」
「はい!」
何処であろうとも、この開始の言葉は変わらない。
「昔々ある所に1代目がいました」
「え?俺?」
ビックリした風に自分を指差す1代目は、
「1代目は家で昼寝を。おじいさんは山に……」
「おじいさんどっから出てきた!?」
ツッコミを入れてから盛大に笑うのだ。
なので、言ってみた。
ソファーに寝転がって正面に座った1代目に向かって、
「たまには笑わせてみて」
と。
1代目は「えー!?」と少し騒いだ後、腕を組んでウンウン唸るばかりでちっとも話し出さない。
悩んでいる様子を延々見せる事で笑いを取ろうとしている訳でもなさそうで、チラチラと俺を困ったような顔で見てくる。
笑いのハードルが低いから色んな笑い話を知っていると思ったのに、そうではないようだ。
「笑わせてくれたら、寝ます」
悩んでいる1代目に声をかけると、首を傾げながら、
「え?じゃあ真面目な話しかしませんよ?」
と。
そんなに寝て欲しくない理由を知りたいが、眠りたいので、
「はははははは。あぁ、笑ってしもたわ」
極力棒読みで言ってみた。
「なにそれ、物凄いわざとらしい!」
すると、盛大に突っ込んできた1代目は、やっぱりその後で盛大に笑ってくれたのだった。
「おやすみなさい」
「せこっ!」




