トリオ 28
土曜強制外泊。
外出準備を整えて時計を見ると、まだ6時を少し回った時間だったので、俺はパソコンの電源を入れて音楽を聞きながら「SHORTで、俺。」のネタを探す為にボォっと考え事を始めた。
そう言えば昨日は節分だったな……家族で節分って何かやったっけ?ちらし寿司を母が作っていたのはひな祭りだっけ。鬼に豆をぶつけた覚えは……ない、か。そもそも恵方巻きを始めて食べたのは中学になってからじゃなかったか?給食で出ていたのなら話は別だが……駄目だ、節分に関して小学校高学年編で書ける思い出がない。
だったらバレンタインはどうだろう?
「んー……ん?」
少し視線を下げて見えたのは、パソコンモニターの左下。時計の部分。
え?と部屋の掛け時計を確認すると、6時半位になっていた。そこから1分間時計を見つめるが、時計の秒針は滞りなく1周した。
再びモニターの左下に視線を向けると、7時半を示している。
もう1度掛け時計を確認して1分眺めるが、秒針は止まる事無く軽快に動き続けている。
ピッタリ1時間遅れた理由は!?
ブログの更新を簡単に済ませてパソコンの電源を切り、俺は自転車を走らせてスーパーに立ち寄り、そこで細巻きのお寿司3本と、1個58円の牛肉コロッケを2個、ニラ1束を購入して毛むくじゃらと1代目の家に急いだ。
ピンポーン♪
「はいはーい」
出て来たのは1代目。
「お邪魔します」
とリビングに入り、手を洗って炊飯器を見ると茶碗に2杯分程残っていたのだが、いつのご飯なのだろう?表面が少々黄色く変色している。臭いがないから腐っている訳ではなさそうだが、このまま食べても美味しくはないだろう。
一旦炊飯器を閉じ、ニラを洗ってザク切りにして、片手鍋に油を少量と、冷凍庫から取り出したミックスベジタブルを少々入れて炒める。
そこへ醤油と顆粒タイプの出汁を一撮み加えてニラを投入。後はニラがしんなりとすれば、ニラ炒めの出来上がり。
スグに片手鍋を洗って湯を沸かし、そこに顆粒タイプの出汁とお湯で少し洗った黄色くなったご飯を入れて煮て、味噌を入れたら雑炊の完成。
後は牛肉コロッケを温めれば夕飯の準備は完璧!1時間の遅れはあったが、何とかなったようだ。
「巻き寿司?」
テーブルに置いた細巻きを見た毛むくじゃらは、不思議そうな声を上げる。
「サラダ巻きと、ネギトロ巻きと、エビマヨ巻き。どれがえぇ?」
「タマゴ、カニカマ、キュウリ、レタス。お前サラダな。俺は海老貰うわ」
そう言いながら毛むくじゃらはサラダ巻きを手に取るとカニカマとキュウリをデロンと抜き取り、俺にとって安全な巻き寿司を仕上げてくれた。
「え?ネギトロ良いんですか?」
何の話し合いもなく即決した細巻きを、北北西を向いて無言で食べる。誰も節分は昨日であった事に突っ込みを入れない。
食べ終わった後は、コロッケと、ニラ炒めと、雑炊。
「止めときや」
雑炊を食べようとした所で、毛むくじゃらに手を捕まれた。言わんとしている事は、なんとなく分かる。
「1杯は食える」
見詰め合う俺達がまた喧嘩でも始めるんじゃないか?そんな心配すらしなくなった1代目は、雑炊をフーフーと冷ましながら食べている。
「腹、いっぱいなんやろ?」
その通り。
細巻きお寿司を1本食べきった俺の腹は、既に満たされている。だけど、雑炊は茶碗に2杯分の残りご飯を全て使って作ったから、とんでもない量になってしまったんだ。
責任を取って1杯は食べなければ2人に悪い。
「1杯は食う」
「……それで胃可笑しなったら、ホンマに怒るからな」
そう言って俺の手を離した毛むくじゃら。
きっと、胃痛に襲われたら顔面を思いっきり蹴る勢いで怒るのだろうな。
「じゃあ、俺の分も頼んだ!」
「任しとき!」