トリオ 25
俺は自転車を走らせていた。
時間を潰す為に古本屋さんに向かっている訳でも、勿論毛むくじゃらと1代目の家に向かっている訳でもないし、姉の家でもなく、公園に向けて。
俺の家の近所には小さな公園があるが、当然そこじゃなくて、毛むくじゃらと1代目の家の近くにある大きな公園の入り口まで。
目的の場所に着いたのは待ち合わせた時間よりも少し早めの8時ちょっと前だったのだが、そこにはもう1代目が立っていて、俺を見付けるなり走ってきた。
「時間ピッタリですね!」
ピッタリではないと思う。
実は俺と1代目はちょくちょくお互いの状況報告をメールでしていて、たまには顔を合わせようか。と言う事で待ち合わせたのだ。
ただ顔が見たかったからと言う訳ではなくて、今後どうして行くのがお互いの為なのかを見極めようと……いや、そろそろ本格的に馬鹿らしくなってきただけ。
こうして実際会ってみると1代目は何も変わっていないし、ニコニコと笑っている。だからきっと毛むくじゃらにも特に変わった事なんかないんだろう。
色々と考えた末、頭に浮かんだのは「小説家になろう」で知り合った方々からもらったアドバイス。
“落ち着いたら連絡を入れてみます”
俺はその時そう答えた。
そして俺は今落ち着いているし、1代目の顔を見て緊張も解けた。
しかし、何と話しかけたら良いんだろう?
こんばんは?久しぶり?話せる?
「フッ……」
緊張は解けたとか言っておきながら、まだガチガチじゃないか。
「木場さん?」
心配そうな顔で俺を見る1代目。
意識するから緊張するんだ、ここでいつまでも立っていたら1代目が風邪をひくだけ。だったら、帰れば良い。
「毛むくじゃらは家ですか?」
少し言い辛そうに1代目が頷くから、俺は自転車を押して移動を開始させた。そんな俺の背中には少し大きめの鞄が1つ。
中にはチョコチップクッキー1箱と、1袋で5個入りのミニクロワッサンチョコ味。そしてコーヒー豆とコーヒードリッパーと、計量カップ。
ピンポーン♪
1代目が鍵を開けようとするのを遮って、チャイムを鳴らして待つ事数秒。
ガチャリと開いたドアの向こう側には無表情の毛むくじゃらがいて、
「おぅ」
と、一声上げてから後ろに下がって迎え入れてくれた。