表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/100

トリオ 23

 2016年12月17日。

 小競り合いが始まったのが11月10日なので、もう1ヶ月以上もグダグダとし続けている事が、いい加減馬鹿馬鹿しくなっていた。

 だから小競り合いを終わらせようと意気込んで向かった毛むくじゃらと1代目の家。

 ピンポーン♪

 10秒待つが誰も出て来ないので、俺は合鍵を使って入ると買ってきた食材をテーブルの上にドサリと置いた。

 じゃがいも、にんじん、肉、たまねぎ。そしてカレールー。実に簡単な料理ではあるが、毛むくじゃらはカレーが好きなのだ。

 念のために冷蔵庫中を確認してみると、卵しか入っていなかった。

 炊飯器の中は空だったので米をとぎ、片手鍋に水を張って湯を沸かす。

 お湯が沸いた所で1口サイズに切った肉を入れ、アクを取ったら小さめに切ったにんじんとじゃがいもを鍋の中に。

 途中で帰ってきた1代目に炊飯器のスイッチを入れてもらい、たまねぎを切り、鍋に放り込んだ後は具材が柔らかくなるまで弱火でコトコト。

 にんじんが柔らかくなった所で鍋を一旦コンロから下ろし、お玉に1杯の水を入れてからルーを入れて混ぜ混ぜ。

 ルーが溶けた所でコンロに戻し、弱火でコトコト。

 焦げ付かない様クルクル混ぜながら、コトコト。

 すると毛むくじゃらも帰ってきた。

 小競り合いを終わらせようと意気込んでいても、本人を目の前にすると何をどう言ったら良いのか分からない。

 分からない序に、物凄く可笑しな事を口にする。

 「毛むくじゃらにとって、1番の愛情表現ってなに?」

 ん?と不思議そうな声を上げる毛むくじゃら。だからコンロの火を消して、真正面に立ってからもう1度同じ質問をした。

 「大事に思う事かなぁ……」

 違う。

 「もっと、肉体的な事で」

 「それやったら夜の営みしかないやろ」

 「……毛むくじゃらで言う所のソレが、俺で言うコレ」

 そう言って毛むくじゃらに抱き付き、更にはギュッとしてから離れ、1歩後ろに下がって手を差し出した。

 「なに?」

 意味も分かっていないくせに手を握ってくるから、

 「俺にとってのコレは、毛むくじゃらにとっては多分キス位の事」

 それ程まで人との触れ合いが苦手だという話。

 「そうなん?」

 「毛むくじゃらにとって顔面を思いっきり蹴るのって、俺にとっては何になるん?」

 毛むくじゃらは自分がそんな発言をした事なんてすっかりと忘れていたらしく、なんで顔面?と不思議がっていたが、1代目には覚えがあったのだろう、ジッと俺達を見ていた。

 「そうやなぁ……デコピン位ちゃう?」

 握られていた手を振り払い、ちょいちょいと手招きすると少し屈んだ毛むくじゃらの顔面がスグそこに。だからデコピンした。だけどそんなに痛くはなかったのだろう、なんの反応もない。

 「……顔面思いっきり蹴られた気分はどう?」

 どう思った?何を感じた?怒りしか湧いてこないのなら、顔面を蹴る事に悪意しかないって事になる。

 ここまで聞いていた1代目は、喧嘩になった時に思いっきり蹴れるかどうかで、その人を大事に思ってるかどうか分かるらしい。と、あの時と同じ話しを振ってきた。

 「あぁ……思い出した。なに、冗談も言われへんの!?じゃあ俺もう黙っとくわ」

 盛大な溜息吐いた毛むくじゃらは、俺に背を向けると携帯に視線を落としてゲームを始め、そんな気まずい空気を少しでも和らげようとしてくれたのか1代目が急に、

 「お腹空きませんか?」

 と、引きつった顔で言った。

 コンロに火を付け、弱火でコトコト。コトコト……。

 「カレー作ってん。ご飯も炊きたてやで」

 「……ハァ」

 「ちょっと肉多めにしてみた」

 「……チッ」

 「肉多めにください!」

 1代目が、可哀想だ。

 「具、多めに入れるわな。えっと……食べへん?」

 微かに聞こえるゲームの音と、覗き見た画面にはクリアの文字。そして画面をタッチして始めた次のクエスト。

 「美味しそうですね!」

 こんな雰囲気はあまりにも可哀想だ。俺のせい?冗談を冗談と受け流せなかった俺のせい?だけど、俺には毛むくじゃらしか友達がいないんだ。そんな相手から思いっきり蹴るとか言われたら、どうしたって真意を探ってしまう。

 嫌われているんじゃないか?

 鬱陶しいと思われているんじゃないか。

 「……それクリアしたら、一旦ゲーム止めてカレー……」

 「ウザッ」

 ウザイ?

 そっか、鬱陶しいか。

 「残ったカレーは冷めてから冷蔵庫な」

 「……ハァー」

 チラリともこっちを見ない毛むくじゃらは、雑に頭をかく。それはイラついた時の癖だ。そしてまた溜息。

 1代目は居心地悪そうに視線を落とし、携帯を操作すると徐にイヤフォンを耳に入れた。

 弱火にかけたカレーをグルグル回しながら、コトコト。コトコト……。

 「……ごめん」

 こんな雰囲気にしてしまった事を謝ってももう遅いのだろうし、何の反応もない。1代目はもしかしたらイヤフォンをしているから聞こえていないだけかも知れないけど、毛むくじゃらには聞こえた筈だ。

 調子に乗って半居候なんか始めてごめん。

 「……帰るわ」

 今までありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ