1代目 17
1代目は俺が寝ようと思った瞬間に近付いてくる。
しかも、かなり楽しそうな表情で。
楽しみにされているのだろうか?だったら、なんとなく嬉しい気がしてくるのが不思議だ。
「笑ったら駄目ですよ」
注意事項から始めると、
「はい!」
と、良い返事をした1代目は俺の正面に正座した。
「昔々ある所にお爺さんとお婆さんがいました」
「はい」
「お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯に行きました」
「はい」
「すると川の上流から大きな桃が流れてきました」
「はい」
「お婆さんはそれを見逃して言いました、あんなデカイの、持って帰れん」
「ぶっ」
楽しみにしているからなのだろう、1代目のハードルは、更に低くなっていた。
また別の日。
ソファーの上に寝転がり、ウトウトしてくる頃を見計らって近付いてくる1代目は、少し小声で、でもかなり恐ろしい事を、態々耳元で言ってきた。
「寝るなら、笑わせてくださいよ」
俺はお腹が冷えないようにとタオルケットを被りつつ、
「笑ったら駄目ですよ」
と、注意事項を告げた。
「はい!」
元気良く答えた1代目は、ソファーの下、俺の目の前に正座する。
「昔々ある所にお爺さんとお婆さんがいました」
「また昔話?」
「お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯に行きました」
「はい」
「すると、川の上流から桃太郎と犬とサルとキジがドンブラコードンブラコーと……」
「それ、もう鬼に負けてますやん」
「はい、笑った」
「あ」
「おやすみなさい」
しかし、相変わらず1代目のハードルは低い。