トリオ 21
毛むくじゃらとリビングでノンビリしていると、突然部屋から出てきた1代目が俺達に向かってこう言った。
「何か嘘を言ってください」
謎過ぎる。
これは1代目が心理テストやらで俺達とコミュニケーションを取ろうと努力していた頃の話である。
この頃、1代目は自室にいる事が多く、俺が帰る時にチラッと出て来て挨拶をする程度の会話しかなかった。それを1代目自身が色々考えたのだろう、問題やら質問やらをこうして出題するようになったのだ。
今でも時々「面白いのがあったんですよー」と言って来る事から、元々心理テストなどが好きなのだろう。
それにしても、嘘を付くな、ではなく嘘を付け?
良く分からないので毛むくじゃらの顔を眺めていると、毛むくじゃらは首を傾げて1代目を見た。
「例えばー…木場さんチューハイ1本までじゃないですか。で、隠れて2本目飲んでいる時に見つかったら、なんて言います?」
2本目が見つかった時?その流れて嘘を言う必要があるのだろうか?誤魔化すって事か?にしたってもう2本目だとばれているんだから誤魔化す必要もない。
「美味しい。ですね」
一瞬、ん?と首を傾げた1代目。どうやらかなり的外れな答えを言ったようだ。そもそも嘘を付けと言われていたんだった。
あ、と軽く声を出した毛むくじゃらは、ニヤリと笑いながら、
「俺には手が3本あるで」
と。
それは嘘なのか?それともシモネタなのか?しかし1代目はその答えで満足したのか、同じようにニヤリとしている。
俺に集まる2人分の緯線。なにかは言わなければならないらしい。
「今から言う事の中に1つだけ嘘があります。当ててくださいね」
「え?はい!」
「バツ1。実は経験人数が3ケタ。隠し子がいる。さて、どれ?」
大袈裟に「えぇぇ!?」と驚いている1代目を見て毛むくじゃらはクスクスと笑っている。こんな初歩的な事を全力で驚いてくれるとは、逆になんか申し訳なくなってきた。
「え?えぇ!?木場さん……えぇ~……」
オロオロとしている様子に、終に毛むくじゃらが大笑いを始めた。どうやらここでネタばらしのようだ。
「全部嘘ですよ」
ネタバラシした後も少しの間騒いでいた1代目は、嘘を付け、と言った理由についてやっと話してくれた。
なんでも、嘘が上手い人は知能が高いと言う情報を見て試したと言う。
こうして俺は1代目の中でのみ知能の高い人間となった。