1代目 15
自分の見ている物が、信用出来ない。
黒い物体が急に現れてガサガサと音を立てながら物陰に隠れるのを見た所で、それが幻覚と幻聴なのだから、何も信じられない。
あまりにもリアルな物になると流石にビックリして声は出るが、それは誰にも見えていないから、
「どうしました?」
と言う事になる。勿論、
「なんでもないです」
と答えて“変な人”になる事は全力で回避する。
それでも、もしかして?と思う出来事があった。
それは夜の1時過ぎ、眠れないと言う事で1代目と2人で夜の散歩に出かけてみた時に起きた。
コンビにまで行って、何か買って帰ろうと思っていたが、何故だか、
「あたたかい飲み物が売っている自動販売機を探しませんか?」
と、1代目が言うのだ。
時は秋の初め頃で、気温はまだまだ暖かかった。
そこから少し歩いた所にあった自動販売機には、コーヒーの数種類だけ温かいのが売っていたので、散歩は行き成り終わりに……
「コーンポタージュが飲みたいです」
ならなかった。
コーンポタージュを探し回ってウロウロと歩き回っていると、そんなに大きくない交差点に来ていた。
大きくないので信号機もないし、横断歩道の白い線すら書かれていない。だけど街灯があるので暗い訳ではないし、道路の左右には民家もあるので寂しい雰囲気もない
それなのに、物凄く重苦しい感じがした。
何故だろう?と見上げてみると、電線がかなり低い所まで垂れ下がっている。このせいで圧力を感じているだけだろう。
そう結論付け、既に歩き出していた1代目の後を追いかけて並んで歩き始めると、また幻覚が見えた。
マンホールの辺りから20センチ程の黒くて丸い物体が現れ、転がるのではなく、スススーっと滑るように向かって来て、俺と1代目の足の合間を縫うように蛇行して通り過ぎ、少しの時間1代目の足元をついてきた。
「え?」
いつもよりもかなり長い時間見えている幻覚に不安になって声を上げた瞬間、黒い物体はスゥッと消えた。
「え?な、何ですか?」
視線を上げて1代目の顔を見ると、引き摺った笑みを浮かべている。
「え?どうしたんですか?」
何か余程の事でもあったのだろう、こんなにも真剣な誤魔化し笑いなんて始めて目にする。
「なんでもないですよ」
どうした?と尋ねた時の「なんでもない」程信用出来ない言葉はない。本当になんでもない時は、どうした?と聞かれる事に覚えがないから、大体は「何が?」となる筈だ。
「何があったん?言うてみ」
「なんでもないです。なんでもないから。木場さんこそ、何があったんですか?」
足早に歩き始める1代目に合わせて歩き、大通りに出た所で、
「いつもの幻覚。黒い影が見えただけです。1代目はどうしたんです?」
と、軽く説明した。すると1代目は俯き、
「俺は何も見えてませんけど、ズット背筋がゾクゾクしてたんです」
と。
これは、もしかして?