トリオ 19
まだまだ気温が高いとは言え、朝晩は過ごしやすく、そして吹く風が冷たくなって来た。つまり、暦の上では秋になってしまった。
ひと夏の恋!な出来事満載な夏と言う季節が、今年も特に何事もなく終わってしまったのだ。
スーパーと、毛むくじゃらと1代目の家位しか外出しない俺だけではなく、毛むくじゃらにも、1代目にも何もなかったのだ!
この中で1番最近まで彼女がいたのは1代目ではあるが、それでももう1年近くは前の話になる。
毛むくじゃらは多分4年位は彼女がいない。
俺は片手で数え切れないほど。
「1代目はモテるんちゃうの?ほら、ベレンタインの時チョコもらってたやん」
不意に始まったのは恋話。
「義理ですよ」
味の感想を聞かれるかも知れない、とか言いながら食べていたのは市販の、明らかに義理だと思われるチョコ以外にもあった筈。
「手作りのもありましたよね?」
結局、味の感想は求められたのだろうか?
「友チョコの余り物です」
1代目の話によれば、バレンタインと言うイベントは女子が男子に愛の告白を……ではなく、性別関係なく美味しいチョコを食べる日。になっているらしい。
俺が学生の頃は、男子生徒による「何個もらえた?」合戦が繰り広げられていたと言うのに、物凄く平和なイベントになったんだな……。
「えぇなーって思う人は?」
恋話延長を目論んだ毛むくじゃらは、真面目に答えてくれる1代目の方を見ながら追加質問を投げかけた、
「特に……まだちょっと彼女とか、そう言うのはいいです」
そして、きちんと答える1代目。
「別れて1年やろ?そろそろ吹っ切らなアカンで」
それを、彼女いない歴4年のお前が言うのか!
「寂しいな~とか、思わん?」
だから、それを彼女いない歴4年のお前が言うのか!?寂しいと思っているのは1代目じゃなくて、自分だろ?
合コンでもなんでもして、色んな人と出会えば良い。2人は社交的だから、きっとスグに良い人が見付かる。性格だって良いから、作ろうと思えばアッと言う間に彼女が出来る筈だ。
「寂しくはないですよ。お二人の息子になった気分ですから」
ニッコリと笑顔の1代目は、椅子の背もたれに体を預けて毛むくじゃらから視線を外している。
これ以上は何も聞くなと言う意思表示なのだろうか?まぁ、今の所は彼女要らないって言い切っているんだから、追加で聞けるような情報は何もない。なら、この会話はこのまま終わりにしたい所ではあるが、どうしたって聞きたい事がある。
「1代目……1つ、良いですか?」
「なんです?」
「どっちが母親?」
「ぶっ!例えの話ですよ!?アハハハ」
思いっきり笑われてしまったので、寝る前の「笑わせて」を1回免除してもらった。