トリオ 18
片手鍋しかない調理器具をどうにかしようと、3人でホームセンターに行く事になった。
車に乗っての移動になるので、乗り物酔いの激しい俺は朝食を抜く事にしたのだが、何故かそれを毛むくじゃらと1代目が真似しようとしてくるもんだから、俺は2人分の朝食を作った。
きっと2人は朝食を作るのが面倒だったのだろう、作ってしまうと大人しく食べてくれた。
こうして朝の11時過ぎ、ホームセンターに向かうべく車に乗り込んだ。
運転席には毛むくじゃら、後部座席に俺と1代目。どっちかが助手席に行くのが普通だとは思うのだが、毛むくじゃらは助手席に誰かを座らせる事を嫌がる。
なんでも、事故が起きた時、助手席が1番危険だと聞いたからだとか。
事故らなければ問題ないんじゃなかろうか?と言ったのだが、
「自分が気ぃつけてても、相手からぶつかってくるかも知れんやん」
と、熱く拒否された。
相手からぶつかってくる場合、何処に乗っていようとも危険なのでは?とは思ったが、大人しく後部座席に座るようになっていた。
特になんともなく無事にホームセンターに着き、目当てのホットプレートが売ってあるコーナーに向かったのだが、隣には誰もいない。
毛むくじゃらも、1代目も、それぞれ自分の興味のある売り場に行ってしまったのだ。
どうせ毛むくじゃらは家電売り場の何処かにいる筈で、1代目は……はて、何処にいるのだろう?
そう言えば1代目の興味があるものを知らない。
何処にいるのか、探してみようじゃないか!
まず向かったのは家電売り場、もしかしたら毛むくじゃらと一緒にいるのでは?と思ったからなのだが、そこには電子レンジを眺めている毛むくじゃらしかいなかった。
工具売り場、ペットコーナー、目覚まし時計や掛け時計の置いてあるエリア、文房具売り場、洗剤やシャンプーと言った消耗品コーナーまでをくまなく見て回ったが、何処にもいない。
こうして最後の最後に足を向けたのは、健康器具売り場。
マッサージチェアーに試し乗り出来る広いスペースの横にはちょっとしたスポーツ用品も売っていて、色んな物がお試しで使えるようになっている。
そこで体を動かしているのだろうと足早に向かったマッサージチェアー広場。そこには確かに1代目がいた。
ダンベルを持っている訳でも、ルームランナーを試している訳でも、ぶら下がり健康器にぶら下がっている訳でもなく、ただ熱い視線をマッサージチェアー広場に向けていた。
広場には普段、高額なマッサージチェアーがズラリと並んでいるのだが、その日、広場の隅には1台のロデオマシーンに似た健康器具が置かれていたのだ。
きっと、物凄く乗りたいのだろう……。
巻き込まれたら大変なので、俺は1代目に見付からないようソッとホットプレートが置いてある売り場に戻った。
無事に買えたホットプレートには、焼肉プレートと言う魅惑のプレートがついていた。他にもたこ焼きプレートが付いていたのだが、焼肉と見た時から俺達の頭には焼肉しかない。
そんな訳でホームセンター帰りにスーパーに立ち寄る事になった。
駐車場に車を停めて、車を降りて。
スーパーの入り口に向けて歩きながら3人で「初めて使うホットプレートだし、最初は軽く拭いてから使おう」とか「布巾はあっただろうか?」とか「いくら分の肉を買おう?」とか他愛ない話をしていると、毛むくじゃらと1代目が急にピタッと歩くのを止めた。
何かあるのだろうか?
そう不思議になって見渡した俺の視界には、コッチに向かって走って来る1台の車が映った。しかも結構なスピードである。
毛むくじゃらと1代目が立ち止まった位置から既に数歩歩いてしまっている俺は、確実に行くか戻るかしなければ轢かれてしまう位置にいる。
戻る方が距離的には短いが、前に進もうと3歩目を中途半端に出している状態、前に行った方が早いか?
4歩目を前に出すか、後ろに出すか。
頭の中でそんな事を思っていると、毛むくじゃらと1代目は同時に声をかけてきた。
「行け!」
「戻って!」
俺は、
「どっちやねん!」
と、ツッコむ為に2人の元に戻ったのでした。